トラのすむ森で生きる人たちと共に


自然保護室の川江です。
先日、インドネシアのスマトラ島の村で7機の小水力発電機を設置した、という報告をお届けしました。

なぜそんなプロジェクトをWWFがやっているか? というと、この村は、世界遺産の森ブキ・バリサン・セラタン国立公園に隣接していて、その自然保護に村人の暮らしが深く関わっているためなのです。

途上国ではしばしば、地域に住む人たちが暮らしの貧しさなどから、保護区で不法に樹木を伐採したり、農地を作ったり、動物を密猟する例があります。

絶滅危機種のスマトラトラやスマトラサイが生息するブキ・バリサン・セラタン国立公園も、その例外ではありません。

そうした住民たちが、自然や野生生物と共存できるように、暮らしを変える一歩として今回、プロジェクトを行なうことになりました。

ちょうど私が現地を訪れていた時に、7機うちの1機が設置されたのですが、その現場はさながら「プロジェクトX」のよう。

ブキ・バリサン・セラタンの森で撮影されたスマトラトラ

発電機の設置現場。パイプで水を引き、発電機のタービンを回します。

公園内から流れる川を利用した小型発電機の設置には、村中から多くの男手が参加し、若者は、二人一組で数十キロはあろうかという長いパイプ管を持って、険しい川沿いを上ります。

また、お年寄りは川の砂利で作ったセメントで発電機の見事な足場を固めるなど、適材適所の活躍ぶりを見せてくれました。

この発電機が置かれる前、村ではディーゼルエンジンで発電をしていましたが、自然エネルギーを利用するようにしたことで、燃料費を払わずに済むようになりました。

さらに取水口が土砂で詰まったりしないように、周辺の森をしっかり守っていくことにも合意。そのための役割分担などもみんなで丁寧に決めたのです。

作業が終わった後、村人のお家にお邪魔して、一緒にお昼をいただいたのですが、その頭上には、既に設置された発電機から送られた電気が点灯していました。

暮らしの向上と自然保護を両立するとはこういうことか!と、改めて実感した現地訪問でした。

設置作業後、訪れたさらに上流の設置予定地では、みんな泳ぎ始めました。滝の上からは「写真を撮ってくれ!」。プリントして次回プレゼントする予定です。

村でいただいた昼食。西スマトラのパダン料理といわれるスタイルで、白米と小皿料理がずらっと並び、好きなものを自由に取って食べます。

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  • この小水力発電の設置プロジェクトは、トヨタ自動車株式会社のトヨタ環境活動助成プログラムの助成を受けて実施しています。

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自然保護室長(森林・野生生物・マーケット・フード・コンサベーションコミュニケーション)、TRAFFICジャパンオフィス代表
川江 心一

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修士課程修了。
小学生の頃に子供向け科学雑誌の熱帯雨林特集に惹きつけられて以来30年間、夢は熱帯雨林保全に携わること。大学では、森林保全と地域住民の生計の両立を研究するため、インドネシアやラオスに長期滞在。前職でアフリカの農業開発などに携わった後、2013年にWWFに入局。WWFでは、長年の夢であった東南アジアの森林保全プロジェクトを担当し、その後持続可能な天然ゴムの生産・利用に関わる企業との対話も実施。2020年より現職。

小学生の頃に科学雑誌で読んだ熱帯雨林に惹きつけられると同時に、森林破壊のニュースを知り「なんとかしなきゃ!」と思う。以来、海外で熱帯林保全の仕事に携わるのが夢でしたが、大学では残念ながら森林学科に入れず・・。その後、紆余曲折を経て、30半ばにして目指す仕事にたどり着きました。今でもプロジェクトのフィールドに出ている時が一番楽しい。

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