仔トラが密猟のターゲットに


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

自然保護室で極東ロシアを担当している川江です。

昨年、推定で3,980頭と発表された、野生のトラの個体数。減少傾向にわずかながら歯止めが掛かったものの、まだまだ絶滅の危機が高いことに変わりはありません。

そんなトラを脅かす要因の1つが密猟。

時には、仔トラがこうした密猟のターゲットになることもあります。

2017年1月、極東ロシアの沿海地方で5~7か月のオスの仔トラが顔に瀕死の重傷を負っている状態で発見され、リハビリテーションセンターに搬送されました。

救助された治療中の仔トラ

現場検証によると、どうやらこの仔トラは、母親や兄弟と一緒にいたところを、密猟者に撃たれたようでした。

その後、政府関係者やNGO、研究所の専門家・獣医による緊急会合で、手術が決定。

すぐさま壊死した組織を除去し、折れていた鼻の骨を矯正する、大手術が行なわれました。

さらに、眼球や血液の検査、その他の部位のレントゲン検査も実施。

特に、視力が失われていれば野生復帰の道が閉ざされることから、現地の専門家やWWFスタッフは、目の状態を最も心配していましたが、幸い眼球に異常はなく、わずかながら野生復帰の可能性が残されました。

この懸命の手術の結果、仔トラの呼吸機能は回復。その後、骨も徐々に治癒していることがわかりました。

しかし、野生復帰のためには、傷が完治し、さらに母トラなしで狩りの能力を身に付けねばならないなど、まだまだ高いハードルをクリアしなければなりません。

WWFロシアの専門スタッフは保護から手当て、リハビリまで携わりながら、まさにトラ1頭1頭を絶滅の淵から救っています。

担当として、今後もロシアのスタッフと密に連絡を取りながら、現場の活動をサポートしていきたいと思います。

関連情報

トラを脅かすのは密猟だけではありません。日本が木材の消費を通じてかかわっている、ロシアの森を守る取り組みも、大事な活動です。

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自然保護室長(森林・野生生物・マーケット・フード・コンサベーションコミュニケーション)、TRAFFICジャパンオフィス代表
川江 心一

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修士課程修了。
小学生の頃に子供向け科学雑誌の熱帯雨林特集に惹きつけられて以来30年間、夢は熱帯雨林保全に携わること。大学では、森林保全と地域住民の生計の両立を研究するため、インドネシアやラオスに長期滞在。前職でアフリカの農業開発などに携わった後、2013年にWWFに入局。WWFでは、長年の夢であった東南アジアの森林保全プロジェクトを担当し、その後持続可能な天然ゴムの生産・利用に関わる企業との対話も実施。2020年より現職。

小学生の頃に科学雑誌で読んだ熱帯雨林に惹きつけられると同時に、森林破壊のニュースを知り「なんとかしなきゃ!」と思う。以来、海外で熱帯林保全の仕事に携わるのが夢でしたが、大学では残念ながら森林学科に入れず・・。その後、紆余曲折を経て、30半ばにして目指す仕事にたどり着きました。今でもプロジェクトのフィールドに出ている時が一番楽しい。

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環境保全団体です。

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