汪清自然保護区、ヒョウとトラの保護活動の現場より


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

自然保護室の川江です。
今、中国吉林省の国立汪清自然保護区に来ています。

ここは、ロシアの「ヒョウの森国立公園」と国境を挟んで反対側に位置する中国側の保護区で、アムールヒョウやシベリアトラが、それぞれ20頭前後、生息していると推定されています。

ここでは、WWF中国がトラとヒョウの個体数回復に力を入れていますが、大きな課題の1つがトラやヒョウの食物となるシカが少ないこと。

そこで、2012年から毎年、アカシカとニホンジカを再導入し、これまでに120頭程を保護区に放す取り組みが続けられています。

今回、私も訪れたその現場では、まずシカを保護区内のフェンスに囲まれた場所で1か月の間環境に慣らし、1頭1頭識別タグを付けて、野生へ放つ作業が行なわれていました。

また、再導入実施場所の近くには餌場も複数設置しており、大雪でシカが食物を採りづらくなる冬にはトウモロコシや豆類を与えているとのことでした。

その結果、草食動物の個体密度は1平方キロあたり0.69頭から2.8頭まで増加。

野生に放したシカが、実際にヒョウに食べられた事例も確認されているそうです。

私も今回、シカの再導入場所のすぐそばに設置したカメラトラップが、今年の1月20日と22日、2回にわたり捉えたアムールヒョウの姿を確認しました!

シカの餌場。中に入っているのはミネラル塩。

ただ、肉食であれ、草食であれ、野生動物に食物を人が提供する取り組みは、必要とされる状況やケースはあるものの、自然の生態系を変えるおそれもあるため、保護のあり方としては非常に注意を要します。

さまざまな課題と困難が伴う保護活動ですが、その現場はWWF中国のスタッフたちをはじめ、関係者の熱意によって支えられているのを感じます。

明日は雪山の調査現場へ行く予定です。さすがに、野生のヒョウが見られるか(!)は分かりませんが、またご報告したいと思います。

アムールヒョウが写っていたカメラトラップ

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自然保護室長(森林・野生生物・マーケット・フード・コンサベーションコミュニケーション)、TRAFFICジャパンオフィス代表
川江 心一

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修士課程修了。
小学生の頃に子供向け科学雑誌の熱帯雨林特集に惹きつけられて以来30年間、夢は熱帯雨林保全に携わること。大学では、森林保全と地域住民の生計の両立を研究するため、インドネシアやラオスに長期滞在。前職でアフリカの農業開発などに携わった後、2013年にWWFに入局。WWFでは、長年の夢であった東南アジアの森林保全プロジェクトを担当し、その後持続可能な天然ゴムの生産・利用に関わる企業との対話も実施。2020年より現職。

小学生の頃に科学雑誌で読んだ熱帯雨林に惹きつけられると同時に、森林破壊のニュースを知り「なんとかしなきゃ!」と思う。以来、海外で熱帯林保全の仕事に携わるのが夢でしたが、大学では残念ながら森林学科に入れず・・。その後、紆余曲折を経て、30半ばにして目指す仕事にたどり着きました。今でもプロジェクトのフィールドに出ている時が一番楽しい。

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