脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 【第2部:100% 自然エネルギー編】
2011/11/24
本報告は、日本におけるエネルギー需給の分析を行って、2020、2030、2050年における二酸化炭素排出削減シナリオの作成を行う。
普及が予想される効率の高い技術、ライフスタイルの変化、自然エネルギーの普及を想定して、エネルギー需給とCO2排出量を検討する。
報告は2つに分けて行う。<中間報告>は「省エネルギー」を中心にエネルギー最終消費の将来像を作成する。<最終報告>はエネルギー供給面について、「100%自然エネルギーによる供給」を検討する。
将来、自然エネルギーが主要な役割を担う持続可能な社会を構想するとき、基本になるのは省エネルギーによる高い効率の資源浪費のない快適な生活であり、必要なエネルギーが少なければ、それだけ自然エネルギーによる供給の実現性が高くなる。
そのため、二酸化炭素排出削減シナリオの作成には、現状のエネルギー消費を見つめなおす「省エネルギー」報告が出発点になる。
日本における既存のエネルギーシナリオ研究を検討して、「アジア/世界エネルギーアウトルック2010」のレファレンスケースをBAUシナリオとして参照した。WWFシナリオとして、2050年までに高効率エネルギー技術を導入し、ライフスタイルに関わる変化も組み込んでゆくときのエネルギー需要を検討した。
省エネルギーの方法としては、LED照明、高性能住宅断熱基準、高効率ヒートポンプ、都市の緑化、TV会議による交通の代替、鉄鋼リサイクルの進展、インバータ制御モータの利用、カーシェアリング、エコドライブ、電気自動車/プラグインハイブリッド/燃料電池車などを幅広く検討し、エネルギー需要を削減するWWFシナリオを算出した。
WWFシナリオの2050年の最終用途エネルギー需要は、BAUシナリオと比較して、2億7352万トン石油換算から 1億6729万トン石油換算へ、61.2%に減少した。1990年と比較すると、2050年には、3億2286万トン石油換算からの減少であり、51.8%に低下している。2020年をみると、1990年から83.4%に減少している。
WWFシナリオの2050年のCO2排出量は、BAUシナリオと比較すると、7億1200万トンCO2から 4億3500万トンCO2へ61.1%に減少している。1990年と比較すると10億5900万トンCO2からの減少であり、2050年には41.1%に低下している。2020年を見ると、1990年から78.5%に減少している。
これには自然エネルギーによる供給面が含まれていないが、適切な政策が実施できれば、2020年の1990年比25%削減の実現可能性を見ることができる。
第一部で作成したエネルギー需要に対して、国内にある自然エネルギーによる供給シナリオを検討した。自然エネルギーは、水力発電、太陽光発電、風力発電、地熱発電、太陽熱、バイオマスである。
最初に、第一部で作成したエネルギー需要を、電力と燃料に区分して、それぞれのエネルギー供給方法を検討した。最終用途の電力については、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスにより供給可能であるが、時間的に変化する需要に対応して適切な供給を行う必要がある。日本全国842地点の1年間の気象データを用いて、1時間ごとの太陽光や風力によるエネルギー供給を計算し、生じた過不足については、揚水発電とバッテリーの適切な電力貯蔵について、シミュレーションによって検討している。
最終用途の燃料のうちの200℃以下の中低温熱は、太陽熱とヒートポンプ(電力)で効率よく供給可能であり、電力による部分的代替を検討した。さらに高温熱については、バイオマスと水素による供給を検討した。次に輸送用の燃料であるが、自動車については電気または水素による供給を、航空機と船舶についてはバイオマスの利用を検討した。ここで水素は、電力供給システムで生じる余剰電力を利用して、水の電気分解で製造する。
2050年には、太陽光4億7705万kW、風力1億912万kW、水力発電2760万kW、地熱発電1410万kWの規模が必要になった。これにより純粋電力需要627TWhを供給し、CO2の排出量はゼロにすることができる。
さらに余剰電力406TWhを利用して、産業用、民生用、輸送用の水素などの燃料用電力として供給することとした。燃料用にはこのほかにバイオマスと太陽熱により、産業用と民生用の熱を供給する。このほかに、自動車用に、ルーフトップ太陽光発電が1年間の走行用電力の一部を供給することも含めている。
脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案 <第二部 100% 自然エネルギー>
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第1章 | 自然エネルギー |
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1.1 太陽光発電 1.2 風力発電 1.3 水力発電 1.4 地熱発電 1.5 太陽熱 1.6 バイオマス 1.7 水素/電力 1.8 自然エネルギーによる発電の最大規模 |
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第2章 | WWFシナリオのエネルギーの需要と供給 |
2.1 産業部門 2.2 家庭部門 2.3 業務部門 2.4 運輸部門 |
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第3章 | WWFシナリオのエネルギー供給構成 |
第4章 | 2050年の電力供給 |
4.1 気象データ 4.2 電力需要の月別・時刻別パターン 4.3 太陽光発電と風力発電の規模 4.4 電力貯蔵システム 4.5 電力のダイナミック・シミュレーション |
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第5章 | CO2排出量 |
参考文献 | 参考文献 一覧(PDF) |
参考資料 | 1)鉄鋼産業のエネルギー需要 2)地熱発電のポテンシャルに対する考え方 3)原子力発電の想定 4)太陽光発電と学習曲線 5)バイオマスの扱いについて 6)ダイナミック・シミュレーションの方法 7)電力貯蔵システムとバックアップ電力 8)自動車技術 9)燃料需要の詳細と供給構成 |
- ※単位について
1000TOE=1000トン石油換算、MTOE=百万トン石油換算、1TOE=11,630kWh
本報告では最終用途エネルギーに注目して1次エネルギーは扱っていない。
ただし、自然エネルギーからの電力を燃料に転換するときに生じる損失は供給構成に含めている。