深刻化する温暖化の危機に真に応える長期戦略を求める~脱炭素化への道筋を明確に~
2018/12/20
政府「パリ協定長期成長戦略懇談会」において、気候変動(地球温暖化)問題への取り組みに関する、2050年に向けた長期戦略が議論されている。日本政府は、日本が議長国を努めるG20首脳会議(2019年6月)の前に、同長期戦略を発表予定である。
WWFジャパンは、今後、同懇談会における議論が佳境を迎えるに当たり、以下の内容を、長期戦略に盛り込むことを提言する。なお、以下の提言は、WWFジャパンが2017年に発表した『脱炭素社会に向けた長期シナリオ』に基づくものである。
1. IPCCの1.5°C特別報告書の内容を踏まえ、脱炭素化方針を明確に打ち出す
IPCCの1.5°C特別報告書では、1.5°C目標達成のためには2050年の実質排出量ゼロの必要性を指摘した。これをふまえ、日本の「80%削減目標」の先には、「脱炭素化」があることを明確に提示する。
2. 2050年再生可能エネルギー100%、特に電力100%再生エネ化の早期達成を打ち出す
IPCCの1.5°C特別報告書においても、電力部門の脱炭素化は他の部門に先駆けて必要であることが指摘されている。少なくとも、電力部門について2050年時点での完全な脱炭素化を目指すことを明記する。
3. 2050年省エネ50%を打ち出す
エネルギー効率における日本の優位性は失われている。日本の省エネ技術の更なる飛躍を図るため、2050年までにエネルギー消費量を半分にするというゴールを掲げる。
4. 国内の電力源および海外支援における石炭の段階的廃止を明確にする
日本国内では、石炭火力発電所の増設計画を止める有効な政策が出せておらず、海外に対しても高効率石炭火発を輸出しようという動きがある。高効率な石炭火力発電であったとしても、2°Cや1.5°Cのシナリオとは整合しないことは既存の研究から明らかになっており、国内については年限を定めた段階的な廃止を実施し、海外については公的資金による支援を全て停止する。
5. 排出量取引制度を中心としたポリシーミックスの導入
大幅削減のためには、CO2排出に価格を付与する排出量取引制度の導入によって、気候変動対策を通常の経済活動の中に組み込んでいくことが必要である。排出量取引制度を中心としたポリシーミックスの策定と、脱炭素化に向けて、対象部門の削減目標(キャップ)を段階的に厳しくしていく方針を明確にする。
6. 住宅・建築物、交通インフラなどに脱炭素化路線を組み入れる
人口減少やインフラ老朽化の進行にともない、都市計画やインフラ計画の見直しが行われている。その中に、脱炭素化の視点を必ず組み込む方針を明記する。
7. 国内での排出量削減と海外での排出量削減貢献について、明確に分けた目標を設定する
海外での排出量削減の貢献を日本国内での削減を代替してはならない。今後、脱炭素化が求められる世界にあって、脱炭素化で遅れている国の技術やサービスでは貢献できない。まずは、自国の脱炭素化を最優先に行う姿勢を明確にする。
8. 原子力依存からの脱却
原子力は、リスクや価格の面からもはや選択肢としての優位性はない。段階的に廃止していく方針を打ち出す。
9. パリ協定の前進性の原則を取り込む
パリ協定第4条3項は前進性の原則を定めており、各国の国別目標は、前回の国別目標よりも「前進」を示し、かつ「最も高い野心」を反映していなければならないとされている。日本の長期戦略の中でも、この前進性の原則を明記する。
10. 科学的レビューメカニズムには、IPCCと同様の3つの分野を設ける
科学的レビューメカニズムは、自然科学から社会科学まで様々な分野の知見が必要となる。IPCCが自然科学、影響・適応、緩和と分けていることに倣い、3つの分野を包括的に扱えるようにする。
11. 短期のイノベーションおよび既存技術普及のイノベーションも重視する
イノベーションは、しばしば、長期的な革新的技術に関するイノベーションに重点がおかれてしまい、対策の先延ばしの議論に援用される。短期のイノベーションおよび既存技術の普及に関する障害を乗り越えていくためのイノベーションも重視することを明記する。
12. 航空・船舶分野における脱炭素化に向け、国内外の協力体制を整備する
排出量の削減が難しいとされている航空・船舶分野での代替技術の早期確立のための体制を整える。
13. ESG投資・グリーンボンド市場の拡大により企業が正当に評価される環境を整える
炭素生産性を高めている企業が、金融市場から適切に評価される環境を整える。
14. 以上のポイント全てを踏まえて、2030年目標の見直しを行う
以上の要素を踏まえ、長期戦略を実行する観点から、2020年までに、国別目標(NDC)を見直し、2030年に向けての削減目標を強化するプロセスを開始し、2019年9月の国連事務総長主催の気候サミットで経過を報告する。
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