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WCPFC北小委員会会合2023閉幕 太平洋クロマグロ漁獲量増枠のためにはIUU漁業対策が急務

この記事のポイント
2023年7月6日から2日間にわたり福岡で開催されていた中西部太平洋まぐろ類保存委員会(WCPFC)の北小委員会が閉幕しました。絶滅の危機が危惧されるまでに減少した太平洋クロマグロ(本まぐろ)について、2024年の資源評価では資源量が安全圏まで回復する見込みから、今後の漁獲枠増枠や資源維持のための話し合いが行われました。しかし、持続可能な漁業実現のためには、漁獲枠増枠の前にしっかりとIUU漁業対策を行うことが必須です。
目次

太平洋クロマグロの資源は安全水準まで回復する見通しに

太平洋の海洋生態系の頂点に立つ太平洋クロマグロ*(標準和名:クロマグロ 学名:Thunnus orientalis)。
*:この記事では便宜上クロマグロを太平洋クロマグロとしております

東アジア近海からメキシコ沿岸まで、大洋を回遊するこの大型魚は、「本まぐろ」とも呼ばれ、寿司や刺身として高値で取引されることから「海のダイヤ」とも言われています。そして、日本はその7割以上を消費する、世界最大の消費国です。

しかし、長年続いた過剰な漁獲により、その資源量は危機的な状況に陥りました。

太平洋クロマグロ資源量は、2010年には初期資源量(漁業が開始される以前の推定資源量)の1.7%まで減少しましたが、その後の漁獲規制の効果により資源量は回復傾向に転じ、2020年には10.2%(約6.5万トン)までに回復しました。2019年の時点で、予定よりも5年早く暫定回復目標を達成しており、順調に漁獲規制の効果が現れていると考えられます。

最新の太平洋クロマグロについての情報はこちら

2022年に実施された将来予測シミュレーションによると、2023年度には、一般的に安全水準といえる初期資源量20%に回復する見込みであることから、今年の会議では、回復した資源をいかに維持していくのか、漁獲枠は増やせるのかについて議論が行われました。

世界のマグロ資源管理にかかわる国際機関。クロマグロについては、WCPFCとIATTCとが共同で管理しています。

遅れる混獲対策 高まる漁獲枠増枠要望

また、漁獲枠増枠について議論されたもう一つの背景が、定置網における混獲問題です。
クロマグロ以外の魚を獲るために設置された定置網にクロマグロがかかってしまう「混獲」の問題は、漁獲量の上限が定められた2014年の管理措置導入以降、日本や韓国で大きな問題として取り上げられてきました。

漁法の詳しい解説についてはこちら

定置網漁業とは、沿岸の魚の回遊経路に網を設置して漁獲する漁法で、漁獲する魚種を選択することができません。よって、もし漁獲枠上限に達した後にクロマグロが網に入ってしまった場合は、他魚種とともに放流しなければなりません。場合によっては魚の水揚げがゼロになることもあることから、大きな問題となっています。
それに対し日本は、クロマグロだけを放流できる定置網の研究開発に着手。すでに一部、実用化が進んでいますが、韓国も含めてまだ普及には至っていません。
そのような背景もあり、クロマグロの漁獲量の増枠に対する要望が高まっており、最新の資源評価が行われる来年2024年には増枠に関する議論が本格化されると思われます。

クロマグロ資源を維持するための鍵 管理戦略評価(MSE)導入にむけた議論

クロマグロ資源を持続可能なレベルで維持するためには、正確な情報と科学に基づいて作成された管理戦略が必要不可欠です。その管理戦略のベースとなるのは魚の資源量ですが、それを推定するには、幼魚の生き残り率といった正確に把握することが難しい、不正確な情報を使う必要があります。しかし、その情報の不確実性により、資源量を誤って推定してしまい、結果として想定していた戦略(目標)どおりの管理ができなくなるリスクが存在しています。
このリスクを軽減するために導入を検討されているのが、管理戦略評価(MSE)と呼ばれる手法で、上記のような不正確な情報について様々なシナリオを仮定し、複数の管理戦略案の結果をコンピューターでシミュレーションし評価することができるため、より安全性の高い管理を行うことができます。すでにミナミマグロ、大西洋クロマグロでは導入、運用されています。
太平洋クロマグロについても、2025年に導入される予定となっており、今回2023年の会議ではその具体的な議論が行われました。
主な論点は、「資源をどの水準で維持すべきか」、そして「その水準を下回ったときに漁獲枠削減など具体的にどのような対処をするか」であり、2025年まで議論は続く予定です。

© Michel Gunther / WWF

増枠のためには必須 IUU漁業対策

2022年、クロマグロのブランド産地である大間で、未報告漁獲という不正行為が発覚しました。これは世界的に問題となっているIUU漁業とみなされる行為であり、多くの漁業者が苦労して守った厳格な管理の効果を損ねてしまう可能性があり、国際的にも決して許されるものではありません。

IUU漁業について

特に漁獲枠増加といった資源にインパクトを与える方針を決める前には、再発防止のための管理強化は必須であり、しっかりと対応できるかどうか海外からも厳しい目で見られています。
再発防止に役立つ有効なIUU漁業対策として、「漁獲証明制度(CDS)」や「流通適正化法」が考えられます。
どちらの制度も漁獲された水産物が違法でないことを示すための制度で、漁獲物に対し、いつ、どこで、だれが、どのように漁獲したかを記録することを義務づける制度です。
今回の会合では、漁獲証明制度の具体的な導入方法について話し合いが行われ、すでにミナミマグロで運用されている仕組みを用いて導入を進める方針になり、具体的な進捗がみられました。しかし、残念ながら導入目標年は、2022年の会議で定めた目標年度より1年遅れて2025年となりました。

クロマグロ資源の持続的な維持に向けた着実な課題解決が必要

今回の会合では、回復基調の太平洋クロマグロの資源をいかに維持しながら漁業を続けていくかについて具体的な話し合いが行われました。一方で、以前から顕在化している混獲問題とIUU漁業対策は未解決であることが明らかとなりました。

会合に出席したWWFジャパン海洋水産グループ水産資源管理マネージャーの植松周平は、今回の結果について次のように述べています。

「一度は絶滅の危機に陥った太平洋クロマグロでしたが、資源回復後の中長期的な戦略について具体的に議論できる段階まで資源が回復してきました。これは、漁業に関わる多くのステークホルダーが協力して効果ある管理を実施してきたことの表れであり、とても素晴らしいことです。

一方、定置網漁業での混獲問題については、漁獲量増枠という場当たり的な対応だけではなく、すでに実用化された混獲回避策を早急に導入し漁獲魚種をコントロールできるようにすることが、根本的な問題解決のために必要です。
また、漁獲証明制度の導入は遅れておりますが、流通適正化法をクロマグロで適用するなど、IUU漁業対策をしっかりと進めることが重要です。

資源回復とともに漁獲枠増加を求めることは理解できます。しかしまずは大間のIUU漁業事件によって失われてしまった日本への信頼を回復し、MSE導入など中長期的な資源管理戦略をしっかりと示すことが、世界最大の太平洋クロマグロ消費国である日本の責務であり、増枠のためには必要不可欠です」

ようやく資源回復へのゴールが見えてきた太平洋クロマグロ。しかし未解決の課題は山積みです。クロマグロを再び絶滅の危機に陥らせないためにも、WWFは、引き続きWCPFCや各国政府に働きかけを行なっていきます。

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