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WCPFC北小委員会会合2021閉幕 時期尚早の太平洋クロマグロの漁獲枠の増枠方針に疑問

この記事のポイント
2021年10月5日から3日間にわたりオンラインで開催されていた中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の北小委員会が閉幕しました。絶滅の危機が危惧されるまでに減少した太平洋クロマグロ(本まぐろ)について、大型魚の漁獲量を15%増枠する方針となりました。時期尚早の漁獲量増枠により、太平洋クロマグロの回復への道のりに暗雲が漂いはじめました。
目次

太平洋のクロマグロ資源は回復傾向に

太平洋の海洋生態系の頂点に立つ太平洋クロマグロ*(標準和名:クロマグロ 学名:Thunnus orientalis)。
*:この記事では便宜上クロマグロを太平洋クロマグロとしております

東アジア近海からメキシコ沿岸まで、大洋を回遊するこの大型魚は、「本まぐろ」とも呼ばれ、寿司や刺身として高値で取引されることから「海のダイヤ」とも言われています。そして、日本はその7割以上を消費する、世界最大の消費国です。

しかし、長年続いた過剰な漁獲により、その資源量は危機的な状況に陥っています。

太平洋クロマグロ資源量は、2010年には初期資源量(漁業が開始される以前の推定資源量)の1.7%まで減少しましたが、その後の漁獲規制の効果により資源量は回復傾向に転じ、2018年には4.5%までに回復しました。

最新の太平洋クロマグロについての情報はこちら

しかし、世界的には、初期資源量の20%を下回ると禁漁を検討しなければならない危険水準であることを考えると、4.5%である太平洋クロマグロ資源は、依然として枯渇状態にあり、予断を許さない状況です。

世界のマグロ資源管理にかかわる国際機関。クロマグロについては、WCPFCとIATTCとが共同で管理しています。

世界のマグロ資源管理にかかわる国際機関。クロマグロについては、WCPFCとIATTCとが共同で管理しています。

4年間続いた漁獲枠増枠についての議論

今回の会合でも、2018、2019、2020年と同様、日本から、現状で設定されている太平洋クロマグロの漁獲枠を増枠するよう求める、管理措置の改定が提案されました。

これは、資源が回復傾向にあることに加え、資源の将来予測シミュレーションにおいても、増枠することは資源回復計画に大きな影響を与えないという結果をうけた提案です。

それら提案に対し米国は、2020年までは一貫して反対、増枠は見送られてきましたが、今回の会合では一転して賛成を表明。島嶼国から懸念の声もあり、正式な決定は2021年11月から開始される年次会合に持ち越されましたが、いまのままでは大型魚(30kg以上)のみ15%の増枠をとなる見込みです。

この15%増枠は、確かに科学的には資源回復に影響がないと思われますが、もしもIUU(違法・無報告・無規制)漁業が予想以上に太平洋クロマグロを漁獲していた場合、この仮定は大きく崩れることになります。

資源が初期資源量のわずか4.5%まで減少している現状では、このIUU漁業の存在は、太平洋クロマグロを再び絶滅の危機においやる致命的なリスクとなる可能性があります。

遅れるIUU漁業のリスク対策

このIUU漁業リスクを大幅に軽減する方法として、「漁獲証明制度(CDS)」があります。

漁獲証明制度とは、漁獲された水産物が違法でないことを示すための制度で、漁獲物に対し、いつ、どこで、だれが、どのように漁獲したかを記録することを義務づける制度です。

タイセイヨウクロマグロやミナミマグロでは、すでに漁獲証明制度が導入されており、太平洋クロマグロについても、導入することがすでに決定しています。現在、不正がおきにくい電子漁獲証明制度導入に向けて、日本が率先してWCPFC内での調整を行なっています。

しかし2021年は、新型コロナウイルスの影響もありこの調整議論は完全に停滞。なんら進捗がみられず、太平洋クロマグロのIUU漁業対策は放置されたままです。

© James Morgan / WWF-US

漁獲証明制度導入は急務 これからの太平洋クロマグロの資源量変化に注視

今回の会合では、IUU漁業リスクが排除されないまま、太平洋クロマグロの漁獲枠増枠とする方針となりました。

これは、短期的な利益を優先した結果であり、ようやく回復してきた太平洋クロマグロを再び絶滅の危機におとしいれる可能性があります。

会合に出席したWWFジャパン海洋水産グループサイエンス&テクノロジー担当の植松周平は、今回の結果について次のように述べています。

「漁獲証明制度などのIUU漁業対策が導入されていない状況で、漁獲枠増枠の方針となったことは非常に残念な結果です。そしてこれは、WCPFCによるリスク管理に対する不信感を抱かざるをえないものです。

IUU漁業で漁獲された水産物は、一般的に不当に安価で取引されるため、まっとうに操業している漁業者にとっては大きな脅威です。世界最大の太平洋クロマグロ漁獲国である日本は、太平洋クロマグロの資源を守るためだけでなく、その漁業者を守るためにも、早急に漁獲証明制度の導入を実現する責任があります」。

太平洋クロマグロの漁獲枠増枠については、2021年11月よりはじまるWCPFC年次会合で再度議論され、決定される見込みです。WWFは、持続可能な漁業実現のため、太平洋クロマグロの資源回復の行方を注視しながら、引き続き各国政府に働きかけを行なっていきます。

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