2020年7月 IUCNレッドリスト更新、マダガスカル島のキツネザル類に迫る危機
2020/07/13
- この記事のポイント
- 2020年7月9日、IUCN(国際自然保護連合)は絶滅の危機にある世界の野生生物のリスト「レッドリスト」の最新版を公開。12万372種を評価し、3万2,441種を絶滅危機種に選定しました。今回の更新で特に注目されたのは、その96%が絶滅危機にあるとされた、マダガスカルのキツネザル類です。また、日本で人気の食材であるマツタケも初めて、絶滅のおそれのある種に選定されました。
「絶滅危機種」がさらに増加
今回のIUCNのレッドリストの更新では、「絶滅の危機が高い」とされる3つのカテゴリー「CR:近絶滅種」「EN:絶滅危惧種「VU:危急種」に、3万2,441種の野生生物が選定されました。
これは、前回選定された3万1,030種を、1,000種以上、上回る数字です。
今回のレッドリストの更新で、注目されたのは、全種の再評価が完了したという、アフリカの霊長類(サル類)の危機の現状です。
とりわけ、その深刻さが顕わになったのは、アフリカ大陸の東に浮かぶマダガスカル島に分布する、キツネザル類の危機でした。
キツネザルの96%に絶滅の危機が
世界第4位、日本の1.5倍以上の面積を持つマダガスカル島は、8,000万年以上前に他の大陸と切り離された歴史を持ち、独自の進化を遂げた島固有の野生生物が、非常に多いことで知られています。
その代表が、ワオキツネザル、ベローシファカなどのキツネザルと呼ばれる原始的な霊長類(サル)。
107種を数える種のほぼ全てが、マダガスカルの固有種です。
キツネザル類はこれまでにも、多くが絶滅の危機にあるとされてきましたが、今回のレッドリストの評価では、このうち103種、率にして約96%が、絶滅の危機にあるとされました。
特に、絶滅寸前の状況を示すカテゴリーの「CR(近絶滅種)」には、今回の評価で危機ランクが上がったベローシファカ (Propithecus verreauxi) を含む、33種が選定。
2000年に新種として報告された、体長9センチ、体重約30グラムの世界最小の霊長類、マダムベルテネズミキツネザルも、今回同じく「CR」とされ、その深刻さが明らかになりました。
キツネザル類を追い詰めている主な原因は、焼き畑農業などによる土地の改変が引き起こしてきた、熱帯林などの生息環境の破壊と分断です。
また、2009年起きたクーデターと、その後の政治的な混乱も、森林破壊を助長。
さらに、ネズミキツネザルなどの小型の種は、ペット目的での密猟にも脅かされており、生息環境の減少ともども、絶滅の危機が高まっています。
アフリカの霊長類の半数以上が絶滅の危機に
また、アフリカの大陸部に分布する、103種の霊長類も、その半分以上にある54種が、絶滅の危機にあることがわかりました。
一例としては、「VU(危急種)」から「EN(絶滅危惧種)」に危機のレベルが上がった、西アフリカ沿岸の森にすむ、キングコロブス(Colobus polykomos)があげられます。
減少の原因は、生息国のコートジボアール、リベリア、ギニアなどの国々で、人口増加などに伴い、2001年から2017年までに森が14%~21%も減少したこと。
さらに、野生生物の肉「ブッシュミート」を目的とした密猟も多く行なわれ、キングコロブスは過去30年間で、個体数が50%も減少したとみられています。
保護区の多くでも、キングコロブスは姿を消し、現在は限られた森に、少数で生息するだけになった地域も少なくありません。
マツタケがレッドリスト入り
今回のレッドリストには、日本の代表的な秋の味覚で、高級食材とされている「マツタケ(Tricholoma matsutake)」も、その名を連ねることになりました。
レッドリストでは、日本を含む東アジアやロシア、ヨーロッパにも分布するこのマツタケを、今回初めて科学的に評価。その結果、「VU(危急種)」として、記載されました。
原因は、マツタケが分布する松林の減少。
東アジアでは、マツノザイセンチュウによる「松枯れ」が進行しているほか、中国南西部では森林伐採、ヨーロッパでは松林での窒素過剰の問題が指摘され、生育環境の劣化や減少が懸念されています。
レッドリストへの記載は、あくまで絶滅危機の度合いを示すものであり、これが売買の規制や禁止を意味するものではありません。
しかしこのマツタケの例は、これまでは危機がないとされ、食用にもされてきた身近な野生生物が、レッドリストでこうした評価を受ける可能性があること、そして、その保全が求められることになる可能性を物語っています。
マダガスカルでは、IUCNが750万ドルの資金を投じ、エコツーリズムの促進や、保護区の新設、パトロール、植林、また学校での環境教育を実施しています。
2030年に向けた生物多様性保全の取り組み強化を
今回のレッドリストで、絶滅危機の評価対象となった野生生物は12万3,722種。
IUCNは年々、この評価対象種を増やしていますが、現在、地球上に生息していると考えられている、3,000万種以上の生物の種数と比較すれば、これは一部にすぎません。
しかし、3万種を超える絶滅危機種の数と、それが増加の一途をたどる現状は、この生きものたちが生息する地球環境の危機を物語るものといえるでしょう。
この危機に対処するための、国際社会の目標の一つに、2020年までの達成を掲げていた「愛知目標」があります。
本来、2020年に開催される予定だった、生物多様性条約の第10回締約国会議(CBD-COP10)では、その達成が評価され、さらに2030年までの新たな保全戦略の策定が求められることになっていました。
型コロナウイルス感染症の影響で、開催は2021年に延期されましたが、この新たな目標の合意と、その実現を目指した取り組みの重要性は変わりません。
WWFも2030年に向け、“New Deal for Nature and People”(人と自然の新たな関係(仮訳))と称した、新たな生物多様性保全のありかたを呼びかけ、「陸域の少なくとも30%を保護区にする」、「人間の行為による生物の絶滅をなくす」といった目標に向けた取り組みを呼びかけています。
今回新たに発表された新しいレッドリストの結果をふまえ、各国政府には延期されたCOP15に向けて、より踏み込んだ生物多様性保全の意思を示すことが求められています。
地球から、森がなくなってしまう前に。
森のない世界では、野生動物も人も、暮らしていくことはできません。私たちと一緒に、できることを、今日からはじめてみませんか?