国連気候変動ボン会議(APA1-3・SB46)報告


2017年最初の国連気候変動会議が5月8日~18日の日程でドイツ・ボンにて開催されました。2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された、地球温暖化防止のための新しい世界の約束「パリ協定」。それを今後、実施していくための詳細ルール作りに関する交渉が国連気候変動会議では進められています。トランプ政権の姿勢をめぐり注目を集めた今回の会議も、その交渉は堅実に継続され、難航しつつも、一定の前進がみられました。

2つのトピックでの緩やかな前進

COP21で採択されたパリ協定は、気候変動の影響を抑制していくために、世界全体の脱炭素化、つまり、石炭・石油・ガスといった化石燃料に頼らない社会の構築を目指しています。

その大きな目標に向かって国際社会で取組みを進めていくために、今回の会議では以下の2つのことが議論されました。

1つは、パリ協定を実施していくための詳細ルール作りで、これはよく「ルールブック」交渉と呼ばれています。

現在の予定では、この「ルールブック」は、2018年12月のCOP24で完成させる予定となっています。

もう1つは、2018年に予定されている「促進的対話(Facilitative Dialogue)」というイベント(後述)に関する協議です。

前者の「ルールブック」交渉は、難航しつつもなんとか前進を見せました。

分野によっては、概念的な議論から、各分野の章立てをどうするのか、という議論に移りつつあります。

後者の「促進的対話」については、これがパリ協定にとって重要な機会となること、COP23でそのデザインを作り上げなければならないことついての認識もほぼ全ての国に共有されたようです。

議題項目にすら上がってなかった2016年のCOP22の段階からすればこれでも大きな進歩です。

ゆっくりと進む「ルールブック」交渉

パリ協定自体が大きな「ルール」と言えますが、現在交渉が行なわれているのは、分野ごとのより詳細なルール作りです。

たとえば、パリ協定の下では、各国が自分で決めた目標(排出量削減目標など)達成に向けた取組みを実施していくということが義務になっていますが、その取組みを何年ごとに、どのような形式で報告するのか、というルールなどが議論されています(下記一覧の「透明性フレームワーク」に相当します)。

議題として上がっていた項目だけでもかなりの数になりますが、主な分野としては、パリ協定特別作業部会(APA)の下で議論されている6つの議題と、科学および技術助言に関する補助機関(SBSTA)の下で議論されている1つの議題があります(下記一覧)。

APAの議題項目

  • 国別目標(NDC)に関するガイダンス
  • 適応報告
  • 透明性フレームワーク
  • グローバル・ストックテイク
  • 促進および遵守
  • その他(適応基金の扱いなど)

SBSTA

  • (市場)メカニズム

前回(2016年11月のCOP22)までの交渉では、各分野ともに、概念的な議論に留まっていましたが、今回の会議では、分野によっては、ルールブックの当該分野に関する「章立て」に相当するものの議論がされ始めました。

その結果は、それぞれの分野のファシリテーターによる「インフォーマル・ノート」と呼ばれる非公式文書にまとめられています。

また、次回の2017年11月のCOP23までに再度、各国からの意見提出を求めたり、ラウンドテーブルと呼ばれる、交渉ではない、やや非公式な意見交換の場を次回COP23の直前に開催することなども決まりました。

そうした今後の予定に関する決定はAPA、SBSTAそれぞれの結論(conclusions)と呼ばれる文書にまとめられています。

今後の交渉は、各インフォーマル・ノートの内容をより詰めて、2017年11月に開催されるCOP23が終了する段階で、「章立て」だけでなく、「本文」に相当する部分の下書きを議論する段階にたどり着けるかどうかが鍵となりそうです。

「緩和」「適応」「支援」の3分野をめぐって

このルールブック交渉は多岐にわたるため、一般化することは極めて難しいのですが、1つ典型的な対立点を上げるとすれば、緩和・適応・支援という3分野のバランスをめぐる議論があります。

たとえば、APAの議題項目の1つとして、今後、国別目標(NDC)に対して、一定の共通性を与えていくためのガイダンス(指針)を与えていこうという議論があります(上述の一覧の1つ目)。

素直に読むと、この議題項目は「緩和(排出量削減)」目標に関するガイダンスを設定していくと読めます。

このため、先進国は、各国が排出量削減目標を国連に提出するに当たっては、どういう情報を盛り込まなければいけないのか、といった点を中心にして議論をしようと主張します。

しかし、ここで複雑になってくるのが、パリ協定の中での「国別目標(NDC)」の定義です。

パリ協定の第3条では、国別目標は、緩和だけではなく、温暖化の影響に対する「適応」対策、(途上国への)資金・技術・能力構築「支援」等も含むということが書かれています。

これを受けて、一部の途上国は、「このガイダンスには、他の項目も入れるべきだ」という主張を展開しています。

こうした議論の背景にあるのは、個別の議題項目の中での技術的な論点や解釈を超えた、このパリ協定の「ルールブック」全体の中での重点の置き方というより象徴的・政治的な問題です。これまでの気候変動対策の議論では、緩和に関する議論に重点が置かれがちでした。これに対し、途上国は、パリ協定の下では、適応や(途上国への)資金・技術・能力構築支援にも、もっと重点を置きたいという意向を持っています。

先進国の側には、「緩和」の部分をしっかりと作っていくことによって、排出量が増えつつある途上国にも、排出量削減の負担をもっと負って欲しいという意向があります。

途上国の側には、先進国がこれまできちんとやってこなかった削減努力の責任転嫁を安易に受入れるのではなく、「支援」をきちんと引き出したいという意向があります。

こうした双方の思惑が、詳細ルールをめぐる、一見技術的・専門的な交渉のそこかしこに表出することで、交渉を難しくしています。

ただ、実際の対立点は、ここで説明したような「先進国と途上国」という単純な二項対立的な図式ではもはやなく、ここにさらに、それぞれのグループ内でも、重点の置き所(「適応」対策を重視する途上国など)があり、議論はさながら複雑な方程式を解くがごとこくとなっています。

「2018年の促進的対話」について進む協議

もう1つ、今回の会議で重要だったのは、パリ協定が導入した特徴的な仕組みについての協議です。

パリ協定を特徴づける仕組みの一つとして、「5年ごとに、世界全体での取組み状況を見直して、各国の取組みに反映させる」という自己改善の仕組みがあります。

この最初の機会が、2018年に予定されており、「2018年の促進的対話」と呼ばれます。

パリ協定の下で各国が掲げている排出量削減目標は、パリ協定が掲げる「世界の平均気温上昇を、産業革命前と比較して、2度より充分低くおさえ、かつ1.5度に抑える努力を追求する」という大きな目標には全く足りていません。

このため、この「5年ごとの自己改善の仕組み」が機能するかどうかは、パリ協定全体の命運を握るといっても過言ではないのです。

2018年の促進的対話は、最初の「世界全体での取組み状況の見直し」に相当し、その後、2019~2020年の間に、各国は今の国別目標(NDC)を再度提出もしくは更新することになっています。

その際、必ず「目標を引き上げなければならない」とはなっていないのですが、ここには、目標の引き上げにつなげていきたいという意図が込められています。

このイベントの重要性は、WWFおよび環境NGOの連合体であるClimate Action Network (CAN) が、繰り返し強調してきました。

2016年のCOP22の決定に従い、今回の会議では、COP22議長国モロッコとCOP23議長国フィジーが共同で各国との非公式協議を通じて意見を聞いて回ることになっていました。

その協議は今後も続けられ、11月のCOP23の場で報告するということになっています。

非国家アクターの存在感

ボン会議の第1週目は、議長国たちが個別に各国・交渉グループにあって協議を行ない、この間には、WWFなどNGOからの意見を聞く場も設けられました。

会議2週目には、公の場で意見交換が行なわれました。

その場では、この促進的対話が極めて重要な機会であること、2018年に実際にそれを行なうためには、COP23の段階で中身について合意がされていないといけないことなどにういて、おおむね認識が共有されていることがうかがえました。

また、ここで一つ印象的だったのは、多くの国が「非国家アクター」の重要性を強調したことです。

非国家アクター/非締約国ステークホルダーとは、政府ではない、企業、自治体、市民社会などの主体のことを指します。WWFなどのNGO(非政府組織)もこれに含まれます。

パリ協定自体が、これらの非国家アクターが創り出した勢いに後押しを得て成立したという経験から、今回の促進的対話でも、そうした勢いを取り込むことができるようにしなければいけないという意識が、多くの国の発言から出てきました。

たとえば、2018年9月には、カリフォルニア州が非国家アクターを集めての大規模なイベントを企画しています。

そこでは、州や自治体だけでなく、企業や市民社会なども集まって、気候変動に関する取組みを発表することが期待されています。

こうした流れを、どのように活かしていく事ができるかが鍵になりそうです。

COP23では、そうした事項を含む「促進的対話」のデザインが決められる予定です。

多国間評価(Multilateral Assessment)での日本政府プレゼン

会議での交渉や協議の対象ではありませんでしたが、会期中、1つ大事なイベントとして、「多国間評価(Multilateral Assessment)」がありました。

これは元々、現在各国が取組んでいる2020年までの排出量削減目標に向けての進捗状況を国際的にチェックするための仕組みです。

各国が順番に取組みをプレゼンし、それに対して、他の国が質問をするという形で進められます。

日本に対してはJCM(二国間クレジット制度)のクレジットは使われるのか、2020年の目標に対して排出量見通しはどうなっているのか、各分野での削減コストはどれくらいかなど、それなりの数の質問がでていました。

日本の政府代表は淡々と丁寧に答えていましたが、1つ、WWFの視点から極めて残念だったのは、日本は石炭火発への資金支援をどう数えているのかという質問について、日本は「気候資金としてカウントしている」と答えていたことです。

新しいポジションではないですが、いかに効率がよいとはいえ、国際的な潮流から見ても、石炭火発への支援はもはや気候変動対策のための資金支援としてカウントするべきものではありません。

この「多国間評価」では、アメリカも対象となっていましたが、アメリカの代表は何か予断を招くような発言は極力避けているようでした。

「多国間評価」での日本のプレゼン動画(00:23:50頃から)

アメリカ・トランプ政権の影響は?

会議開始前から会議関係者の間で話題になっていたことの1つとして、アメリカ・トランプ政権のパリ協定に関する動向がありました。

会議前からの報道で、会議第一週目2日目に火曜日に、政権内閣僚会議を経て「パリ協定離脱の是非についての決定が出てくるかもしれない」との情報がありましたが、結果としてみると、決定はさらに先延ばしになりました。

その後の報道で、5月26~27日のイタリアでのG7サミットの後に先延ばしになったということで、ひとまず、今回の会議ではそれ以上あまり話題になりませんでした。

アメリカ代表団は、交渉団のメンバーとしては前政権時の人たちと変わらず、今回はひとまず、大きな決定が出るまで登壇の大きな発言をしないというスタンスのようでした。

このため、特に目立った動きはありません。かといって、交渉の中で完全に黙っているわけではなく、他の先進国と同様の発言をしていました。

COP23に向けて

COP23は、2017年11月6~17日の日程で、ドイツのボンにて開催されます。

今回は、温暖化の影響を大きく受ける国の代表ともいえる島嶼国のフィジーが議長国です。

「ルールブック」交渉の期限は2018年のCOP24までということで、まだ時間があるようにも見えますが、交渉で詰めなければならない内容の多さから考えると、相当大変な作業になるということが予想できます。

日本には、引き続き難航する交渉の中で、バランスのとれた建設的な交渉スタンスをとることを、WWFとしては期待したいと思います。

そのためには、「2018年の促進的対話」のような重要課題において、積極的にアイディアを出し、交渉の中での議論に積極的に貢献することが必要です。

温暖化の脅威にさらされる国の代表、フィジー

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