パリ協定のルール作りは進展するか?国連気候変動ボン会議(APA1-3・SB46)始まる!
2017/05/06
ドイツのボンにおいて、2017年で初めての国連気候変動会議が、5月8日~18日の日程で開催されます。今回の会議は、前年に引き続き、パリ協定のルール作りに関する交渉が続けられる予定です。2018年末までにパリ協定のルールブックを完成させ、パリ協定が本格的に始動する2020年に間に合わせるというのが現在の予定です。数多くの論点をこなしつつ、世界を脱炭素化させていくための国際的な体制を準備していかねばなりません。その中で、日本は積極的な貢献をしていけるか、注目していく必要があります。
パリ協定のルール作り
危険な気候変動を抑制するため、世界全体の脱炭素化の方向性を打ち出したパリ協定。
世界的な平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて2度より低く抑え、できる限り1.5度に抑えることを目指す、温暖化防止のための世界の新しい約束は、2015年12月のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)における採択の後、多国間条約としては異例のスピードで各国が批准をしたことにより、わずか1年で同協定は発効(国際法として効力を持つ)しました。
現時点までの批准をした国の数は144か国になります(2017年5月1日現在)。
パリ協定発効を受け、2016年11月にモロッコ・マラケシュで開催されたCOP22では、2018年までに、同協定を実施していくにあたっての細則、通称「ルールブック」の策定が目指されることが決まりました。
今回、2017年5月8日~18日の日程で開催される国連気候変動会議(パリ協定特別作業部会第1回第3セッション(APA1-3)および補助機関第46回会合(SB46))は、このルールブック策定に向けた交渉を進めていくための大事な一歩となります。
加えて、2018年には、「2018年の促進的対話(Facilitative Dialogue in 2018)」と呼ばれる、大事なイベントが予定されており、この準備は2017年内に完了しなければなりません(後述)。
3つのポイント
2015年の「パリ協定採択」、2016年の「パリ協定発効」と比較すると、やや大きな争点が見えにくい2017年ではありますが、ルールブック策定に向けた交渉を着実に続け、かつ、2018年促進的対話の準備を終わらせることは、大きな課題です。今回のAPA1-3・SB46のポイントを整理すると、以下の3点を挙げることができます。
1.「ルールブック」策定に向けた交渉は、そもそも論を超えて、重要争点をあぶりだしていけるか
ルールブック交渉で、詰めていかなければならない項目は、単純に項目数だけでも約60あります。議論するべき論点には、「各国の目標の実施状況はどうやって確認していくのか?」「新しい市場メカニズムをどう設計するのか?」「世界的な取り組みの進捗確認はどのように行っていくべきか?」「適応対策について、各国はどのように定期的に報告をして知見を共有するのがよいのか?」等々、様々な論点をこなしていく必要があります。
これらのルール作りは、一見地味な議論に見えますが、パリ協定が真に有効なものになるかどうかは、こうした細かいルールがしっかりしているかどうかに依存します。
ルール作りは作業量としてみただけでも大変ですが、内容を詰めるような交渉に入っていく以前に、そもそもの言葉の定義などで異論が出てきてしまっている争点もあり、そこを越えて、実質的な議論できるかどうかが大きな課題です。
2017年末には、ドイツのボンでCOP23が開かれます。この次回COP23の段階から、文書をベースにした交渉に入っていく道筋を見いだせるのか。それが今回の会議の大事なポイントです。
2.「2018年の促進的対話」に関して、次回議長国が提案をかけるか
パリ協定は、それ自身の中に、各国の削減目標をはじめとする取り組みを改善していくための自己改善の仕組みを盛り込んでいることに大きな特徴があります。
この仕組みは5年サイクルで機能していきますが、その最初の機会が「2018年の促進的対話」です(図1)。
パリ協定が正式に始まる2020年より前の期間は「2018年の促進的対話」と呼ばれ、2020年以降に行われるものは「グローバル・ストックテイク」と呼ばれるこの一連の仕組みは、パリ協定の下での取り組みを、世界全体としてのレベルで進捗を確認するものです。
その進捗確認作業で得られた知見や教訓を、各国が次に削減目標やその他の目標を作る時のベースにするというのが、パリ協定の「5年サイクル」の肝に当たる部分であるため、最初の機会である「2018年の促進的対話」の準備を着実に進めていけるかどうかは、パリ協定自体の成否を握るといっても過言ではありません。
今回の会議では、各国と議長国の協議を通じて、次回COP23において決定を出せる道筋が見いだせるかどうかがポイントです。
(出所)WWFジャパン作成
3.2020年目標に向けての取り組みの進捗確認
現在、各国は2010年に作ったカンクン合意の下で、2020年に向けた自主的な削減目標に向けた削減努力を続けています(EU等、京都議定書の第2約束期間に参加している国は京都議定書下での目標を持っています)。
この自主的な目標について、その進捗状況を確認するために作られた制度に従い、今回の会議では、日本、アメリカ、インドなどの現状の取り組みについて、各国が質疑応答を行うセッションが予定されています(表1)。これは、パリ協定の下の仕組みではなく、あくまで既存の2020年目標に伴う仕組みですが、今後の対策を占う意味でも重要です。
表1:APA1-3およびSB46で2020年目標の進捗状況に関する質疑応答の対象となっている国々
先進国で対象となる国々(18か国) 5月12日・13日開催予定 | 途上国で対象となる国々(10か国) 5月15日開催予定 |
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ベラルーシ、カナダ、キプロス、フランス、ギリシア、アイスランド、アイルランド、日本、カザフスタン、リヒテンシュタイン、ルクセンブルグ、モナコ、ポルトガル、ルーマニア、ロシア連邦、スロベニア、スペイン、アメリカ | インド、インドネシア、イスラエル、マレーシア、モーリタニア、モルドバ、モンテネグロ、モロッコ、タイ、ウルグアイ |
(出所)UNFCCC事務局資料よりWWFジャパン作成 |
日本に対する質問は合計31問。質問している国は、EU、韓国、中国、アメリカ、ブラジル、フランス、オーストラリア、タイの8か国(地域)で、質問の内容は表2のような質問が挙げられています。こうした質問に、日本政府がどのように答えるのか。WWFも注目していきたいと思います。
表2:日本に対する質問(一部抜粋)
EU | 長期戦略の検討状況について |
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韓国 | 地球温暖化対策実行計画の実施はどのように担保するのか? |
中国 | JCMのクレジットは2020年目標に対して使うのか? |
中国 | 火力発電所の普及による効果は?石炭の多い国への普及を検討しているか? |
オーストラリア | 自主行動計画は有効だったのか? |
(出所)UNFCCC事務局資料よりWWFジャパン作成