ツキノワグマのすむ森で?徳島県中部で計画される風力発電事業
2018/05/18
再生可能エネルギーへの期待と課題
地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を排出する石炭や石油などの化石燃料。
これに頼らない風力や太陽光、地熱といった「再生可能エネルギー(自然エネルギー)」による発電が今、国内で広がりを見せています。
特に、再生可能エネルギーの電気を優遇して買い取る固定価格買取制度(FIT)が2012年にスタートしてからは、全国各地で発電所の計画が急増してきました。
さらに、こうした動きは、2015年に世界の国々が温暖化防止の約束として交わした「パリ協定」の採択で、より一層その重要性が認識されたため、今後さらに進むことが期待されています。
しかし一方で、こうした新しいエネルギーの普及により、各地域では、新たな問題が生じるようになってきました。
豊かな自然環境が残る場所や、景勝地の近くで発電設備が設置されるようになり、野生生物の生息地が失われたり、景観の悪化を招くようになり始めたためです。
国内における今後の風力発電開発の見通し
四国のブナの森で計画される風力発電事業
こうした自然環境への負担が、特に大きいと目される事業の1つが、いま徳島県中部の山間地で計画されています。
徳島県の美馬市、神山町、那賀町の3市町にまたがる、(仮称)天神丸風力発電事業の計画です。
この事業は風車42基、約14万kWの発電を行なうことを想定した大規模な計画ですが、その事業想定地は、県が指定したいくつかの鳥獣保護区を取り囲む形で設定されています。
また、その一部は、四国でもごく限られた地域にしか残されていない、自然度の高いブナなどの森林が残るエリアにも重なっています。
この森林地帯は、残りわずか数十頭ともいわれる、四国のツキノワグマ個体群の最後の貴重な生息地でもあります。
また、同事業想定場所の多くが保安林指定され、地域の水源涵養の地となっているほか、国指定の鳥獣保護区や、国際基準により選定された「IBA(重要野鳥生息地)」にも隣接することが分かっています。
WWFジャパンでは、地域の自然環境に与える影響が大きいと判断し、2018年5月1日に、この風力発電の事業計画を推進するオリックス株式会社に対し意見書を提出。
この事業が及ぼす問題の大きさを指摘し、計画の見直しを要請しました。
意見書
不適切な開発を助長してしまう背景
なぜ、このような数少ない自然が残る場所で開発計画が進むのでしょうか。
その背景には、日本ではいまだに、自然環境の保全上重要とされる場所での開発行為を、厳しく規制する法律が十分に整備されていないことが挙げられます。
例えば、県や国が野鳥などの保護を図ることを目的として指定する鳥獣保護区に関しては、基本的に狩猟の規制は行なっているものの、建築物の設置などに関しては、十分な規制がありません(特別保護地区を除く)。
また、鳥獣保護区以外でも、このように法律によって自然環境の豊かな場所に設けられる保護エリアの中には、同様に開発規制が緩い例が多くあります。
さらに、規制が緩いだけでなく、希少な野生生物が生息する重要な場所であるにもかかわらず、そもそも法律で保護区に指定されていない場所が、数多く存在することも、こうした問題を引き起こす原因の1つとなっています。
開発の適正化に向けた動き
こうした事業計画の現状は、貴重な自然環境を損なうばかりでなく、地球温暖化問題を解決する上でも欠かせない再生可能エネルギーの普及を、阻んでしまうものになりかねません。
この問題を回避するため、WWFジャパンでは全国の自治体に向け、「ゾーニング」と呼ばれる取り組みの実践を呼びかけています。
この「ゾーニング」とは、地域の住民の意見や、文化的、環境的に高い価値を持つエリアについて情報を集め、風車などの建設に適した場所を選定するものです。
WWFジャパンでは2017年まで徳島県鳴門市と共同で、このゾーニングの取り組みを実施。
実際の選定や検討にあたっては、地域の人々や有識者と協力して行ない、開発事業を行なう業者の意向ばかりが偏重されない、手法の確立をめざしてきました。
全国で再生可能エネルギーの開発事業が加速する中、この「ゾーニング」の取り組みは、各地の自治体でも広がりを見せています。
残された貴重な自然環境の保全と、地球温暖化の防止に必要な再生可能エネルギーの開発は、必ず両立しなくてはならない課題です。
WWFでは今後も、各地でゾーニングの取り組みが広がるように活動を実施していきます。