鳴門市再生可能エネルギー普及プロジェクト
2014/06/17
プロジェクト概要
実施場所 | 徳島県鳴門市 |
---|---|
実施期間 | 2014年6月~2016年6月 |
概要 | 地域の活性化を促し、合意形成を容易にする再エネの導入モデルの確立による、再エネの普及を目指す |
実施内容 | 1.再エネの導入適地地図(ゾーニングマップ)づくり 2.ゾーニングマップを活用した、地域全体の導入指針・計画づくり 3.再エネの導入支援スキームづくり |
主要プロジェクトメンバー | (1) 鳴門市、(2) 一般社団法人 徳島地域エネルギー (3) 特定非営利活動法人 環境首都とくしま創造センター、 (4) WWFジャパン |
プロジェクトの背景
1−1.再生可能エネルギーの必要性
グローバルの視点から
今、注目を集めている再生可能エネルギー、いわゆる再エネは、太陽光や風力に代表される自然由来のエネルギーを活用した、枯渇しない持続可能なエネルギー源です。最近になり、この再エネが急速に普及している背景には、気候変動(地球温暖化)問題の深刻化があります。
温暖化の進行とその影響は、既に見過ごすことが出来ない程の深刻なものになっており、現在のような化石燃料に依存したエネルギー多消費の社会が続けば、今世紀末には4度以上の平均気温の上昇を引き起こし、地球全体の社会、環境に不可逆的で甚大な影響を及ぼすと言われています。
この深刻な事態を避けるためには、温暖化の原因となっているCO2(二酸化炭素)の排出を削減することが重要となってきます。CO2の最大の排出源は、化石燃料の燃焼であり、特に石炭火力に代表されるような発電所由来の排出が最も大きなウェイトを占めています。
従って、温暖化の最大要因となっている発電を含めた現代社会のエネルギーシステムが、従来の化石燃料依存型から、CO2を排出しない再エネなどをエネルギー源とする「100%自然エネルギーの社会」へと早期に移行していくことが求められています。
地域の視点から
再エネによる恩恵はCO2の排出削減効果だけにはとどまらず、そのさまざまな波及効果による地域活性化の可能性にも注目が集まっています。分散型エネルギーである再生可能エネルギーは、火力発電や原子力発電などの大規模エネルギー源と比較しても、必然的に地域の役割が大きくなり、その分、地域に対する影響も大きいからです。
たとえば、再エネ導入に伴っては、施工、維持管理など、地域の雇用に貢献する効果も期待されます。また製造やメンテナンスに関しても地域が受け持つようになれば、大きな地域産業振興にもつながると期待されます。
さらに、再エネが普及していくことによる燃料費の削減が挙げられます。
日本はエネルギー資源に乏しい国であり、その自給率はわずか4%程度。化石燃料の購入に毎年20兆円前後の国富を海外に流出させています。これまでにも上昇してきた石油などの化石燃料の価格は、今後も更に上昇していくことが予測されており、化石燃料ベースの現行の社会インフラは更なる経済的負担が予想されます。
しかし、こうしたエネルギー源を再エネに移行していくことで、燃料費高騰による負担を避けることが可能となります。
地域がエネルギーを自ら選び、作り上げていく過程で、地域雇用と産業の振興による地域の活性化を促すことで、住みやすい魅力あふれる地域になっていく可能性を再エネは秘めていると期待されています。
1−2.再生可能エネルギー普及の課題
期待される再エネの普及ですが、一方で解決しなければならない課題もクローズアップされるようになっています。大きなものとしては、(1)開発便益が地域に十分還元されていない状況、(2)開発にともなう地域環境への負担、この2点が挙げられます。
地域への便益還元
再エネのポテンシャル(再エネを導入できる可能性)の多くは地域に存在しているのですが、再エネの開発主体の多くは地域内でなく、近年進んでいるのは、地域外の資本による開発が少なくありません。開発にともなう便益の一部(発電収益など)を地域に還元する事業主体も存在しますが、やはりその多くは地域外に流れてしまうのが多くの実情となっています。
地域外の大きな企業の参入によって、大規模に再エネが普及し、日本全国で地域にとっての再エネ普及の道が開かれること自体は重要です。しかしその一方で、それ「だけ」になってしまえば、地域への便益が限定されてしまいます。
地域環境への負担
再エネはクリーンなエネルギーですが、その建設に際しては十分な配慮が必要となります。
再エネは他のエネルギー源に比べ、生み出せるエネルギー量に対する設備の占有面積が大きいため、必要な発電量を確保するのに比較的大きな土地の改変をともなう事ことが多いのが特徴です。当然、土地を改変する場所が自然環境の中や近郊である場合は、そこに生息する生態系へ負荷を掛けることに加え、地域の景観をも変えることになります。
日本における環境アセスメントの仕組みは決して十分とはいえず、さらに、地域においては、危惧種でなくとも、動植物の貴重な地域個体群や、地域に親しまれている象徴種が存在するため、環境への適切な配慮が必要となります。
規模の大きな開発適地の減少
日本は再エネのポテンシャルが豊富な一方で、開発を制約する法制度や、地権者の数も多いため、まとまった再エネの開発場所を探し出すのは簡単ではありません。特に近年はFIT制度(固定価格買い取り制度)が高価格であったことによる後押しから、再エネの増加は大きいものになりました。しかし今後より一層の伸びを期待するためには、これまで対象とされなかった中小規模の適地も視野に検討を進めて行く必要があると考えられます。
1−3.課題解決に求められていること
こうした課題を踏まえ、再エネを普及させていくためには、再エネ普及に大きな役割を果たすことが可能である地域における再エネの導入形態を変えていく必要があります。
大企業による開発も再エネの普及に大きな貢献を果たしますが、普及拡大をよりスムーズに果たしていくためには、再エネに取組む主体の裾野を広げていくことが必要であると同時に、地域自身が納得して、再生エネを進めることが重要となってきます。
そのためには、現在の主な開発主体となっている地域外資本の大規模な企業のほかに、地域自体の中で開発の主体が生まれてくることが、重要な普及の『鍵』となってきます。
地域特有の事情を良く知る地域関係者が、全国各地でより多く取り組んでいくためには、多くの地域(自治体)で活用することが可能な、汎用性があり、効率的で、地域の合意を得やすい、再エネの導入モデルを確立して、広めることが必要になると考えられます。本プロジェクトは、そのようなモデル確立の第一歩として、鳴門市での再生可能エネルギー普及を試みるものです。
2.プロジェクトの全体像
2−1.鳴門市におけるプロジェクトの目指すところ
本プロジェクトは、他の多くの地域(自治体)の模範となり得る、"地域レベルの再エネの導入モデル"を鳴門市で確立し、自治体での再エネの普及を目指すことにあります。
プロジェクトを進めるにあたっては、地域の生きた情報や意見を反映・集約することにより、地域環境に合った、開発合意の図り易い再エネの導入形態を確立します。
本プロジェクトの特徴は、これまでの通常の再エネ導入は、個別の事業が積み重なっていくだけであったのに対し、当該地域全体にとって、どこが導入に適しているのかの情報を、技術的かつ社会的な合意を経ながら明確にし、個々のプロジェクトの普及を計ろうというところにあります。
2−2.本プロジェクトで行なうこと
本プロジェクトでは、次の3つを想定しています。
- 鳴門市におけるゾーニングマップ作り(ゾーニングマッピング)
- ゾーニングマップを活用した、地域全体の導入指針・計画づくり
- 導入指針・計画に基づいた、再エネの導入の支援スキームづくり
3.鳴門市におけるゾーニングマップ作り
3−1. ゾーニングについて
ゾーニングとは、地図上の領域(土地)を、その領域の持つ地理特性に応じて、特定の利用 形態や評価に分類することを指します。(たとえば、ある土地区画の地理特性が、傾斜度が弱く、市街化区域外に属し、林木地でない場合、その土地区画を"農地"として規定する。など)分類の方法は目的によってさまざまです。森林施業において適切な施業形態を決めるため、植生図と地形図を活用して、その土地区画ごとに合った利用形態を決めることもあれば、道路建設の最適地を決めるために、土地の法規制区や人口密集度を参考に、土地区画ごとの道路利用地としての合否を判断したりもします。
3−2.ゾーニングマッピングについて
ゾーニングを行った結果が分かる地図を作成することを指します。
3−3.本プロジェクトで行うゾーニングマッピングについて
本プロジェクトのゾーニングの目的は、対象地域(鳴門市)全域における、領域(土地)ごとの太陽光、風力を中心とした再生可能エネルギー導入の適正度を評価することです。
具体的には、地域全域におけるそれぞれの土地が、
- 法的制約
(例:農用地、市街化区域、自然公園特別地域など) - 物理的制約
(例:土地の傾斜、地質、植生など) - 地域固有の制約
(例:多数の地域住民が開発を望まない重要なコミュニティ地区、景観条例対象ではないが地域住民に重要とされている景観地区、危惧種指定されていないが地域の象徴的な種の重要生息地など) - 再エネの賦存量
(例:風速=5.5m/s以上、太陽光=1000W/m2など)
(1)~(4)に示すような、開発のし易さを左右する条件・制約にどれほど該当するかを判別し、該当条件ごとの重要度を判断した上で、それぞれの土地区画が、どの様な再生可能エネルギーに対して、どの程度の導入の適性があるかを明らかにします。
4.ゾーニングマップを活用した、地域導入計画・対策づくりと再エネ導入
ゾーニングマップは、どのエリアが、どの様な再生可能エネルギーの適地になるのかを判断する上で重要な客観的資料になります。ただし、自治体が持続可能なかたちで再エネの普及を進めていくためには、ゾーニングマップが示す"適地はどこか?"の情報以外にも重要な要素があります。たとえば、自治体が今後進める開発は再エネだけとは限らず、自治体によっては再エネ以外で進めなければならない(あるいは進めたい)計画や町の長期ビジョンが存在します。
こうした町の将来像や全体像と照らし合わせながら、齟齬が起きないよう、具体的に町の一体どこに? どの様な?種類の再エネを導入していくかを指し示していくことで、長期的には地域内での順調な再エネ普及が進むと考えられます。
地域の合意が採れた、町に合った再エネを、町が求める形で導入していくことで、スムーズな再エネの普及が進むよう、ゾーニングマップを活用した町の導入計画・対策作りを目指します。
問い合わせ先
WWFジャパン 気候変動・エネルギーグループ (担当:市川)
東京都港区芝3-1-14 日本生命赤羽橋ビル6F
Tel: 03-3769-3509 / Fax: 03-3769-1717
Email: climatechange@wwf.or.jp
URL: /re100/