西ヒマラヤにおけるユキヒョウ保護 活動報告(~2024年6月)
2024/10/01
- この記事のポイント
- アジアとヒマラヤの高山に生息するユキヒョウは今、気候変動や放牧地の拡大による生息域と獲物の減少、またそれに伴う人との「あつれき」によって、絶滅が心配されています。WWFジャパンは現在、ヒマラヤ西部のラダックでこの問題に取り組むWWFインドのユキヒョウ保護活動を支援しています。現地から届いた、2024年年度(2023年7月から2024年6月まで)に行なわれた活動と、その成果を報告します。
絶滅危惧種ユキヒョウを守るために
中央アジアとヒマラヤの高山帯に生息するユキヒョウは、世界で最も高地に生息する、大型のネコ科野生動物です。
標高4,000mにもなる、険峻な山岳地帯で、野生のヤギやヒツジ類、マーモットなどの草食動物を獲物として生きるユキヒョウは、こうした高山の自然の生態系の頂点に立つ野生動物。
しかし、近年はこうした高地での家畜放牧の拡大や道路などの開発、さらには気候変動(地球温暖化)による生息環境の変化により、絶滅の危機にあります。
ヒマラヤ山脈の南麓を占めるインドは、ユキヒョウの最も重要な生息国の一つですが、それでも、最新の調査で示された推定個体数は700頭あまりに過ぎません。
殊に、近年は高山・高地でも開発が進んだり、家畜の放牧地が広がったことで、ユキヒョウが獲物とする野生の草食動物が減少。
その結果、家畜を襲うようになったユキヒョウが、害獣として駆除されたり、すみかを追われたりする、問題が発生するようになりました。
そこでWWFインドでは、この人とユキヒョウの間で生じる「あつれき」の問題を解消し、ユキヒョウを守りながら、地域の人々との共存を実現するための取り組みを行なっています。
WWFジャパンは、この中でも、特にヒマラヤ西部のラダック地方で、WWFインドが展開している活動を支援。
次のような取り組みをサポートしています。
- ラダックに生息するユキヒョウなど肉食動物および獲物となる草食動物の生息調査
- ラダック・チャンタンでの環境保全と野生動物保護を目指す住民参加型パトロール活動の強化
- 人と野生動物の「あつれき」が生じている地域での家畜被害の防止策や牧草地の持続可能な利用を目指すコミュニティとの連携の向上
- ユキヒョウとオオカミ、およびその獲物となる草食動物の保全活動にかかわる関係者の技術向上
- 西ヒマラヤにおける気候変動の影響に対する理解の促進
2024年8月には、現地から1年間(2023年7月~2024年6月)の活動の内容と成果、課題の報告が届きました。
ユキヒョウと草食動物の調査
今回の調査報告で特に大きな進捗が認められたのは、ユキヒョウとその獲物となる野生の草食動物の生息状況についての調査活動です。
ラダック東部のハンレ地域で、2023年11月から2024年3月にかけて行なわれたユキヒョウの調査では、2,500平方キロのエリアを対象にカメラトラップ(調査用の自動カメラ)を設置。49のカメラを回収することに成功しました。
また、草食動物のブルーシープやウリアル、アルガリといった野生のヤギやヒツジ類の調査も行ない、こちらについては2人一組となった調査チームによる目視の調査も実施。現在は、撮影された映像や写真の解析を進めています。
冬場のマイナス30度にもなるフィールドでの調査は過酷を極めましたが、今回はインド政府との交渉の結果、過去に同様の調査が行なわれたことのない初めての地域での調査が実現できました。
さらに、地域の住民を対象に、家畜をユキヒョウやオオカミなどに襲われた際に政府が行なっている補償についても、聞き取り調査を実施。
今後のユキヒョウ生息地における保護活動の前進につながるデータを集めることに成功しました。
人と野生動物の「あつれき」を解消するために
この他にも、プロジェクトでは、家畜への被害を防除するための設備の設置支援などを実施。
さらに、放牧地をむやみに拡大せず、持続可能な形で地域の暮らしを継続していくためのビジョンづくりを、13の集落で行ない、コミュニティが主体となった野生動物との共存を進める取り組みも展開。
前年からトレーニングを行なってきた、「マウンテン・ガーディアン」と呼ばれる、地域の人々によるパトロール隊の活動も実現するなど、「あつれき」を解消し、人と野生動物が共存できる暮らしの確立に向けた試みが、形になりました。
しかし、そうした中でも、ユキヒョウなどの肉食動物による家畜への被害はいまだ無くなっておらず、問題が解決したわけではありません。
また、地域では若い世代を中心に放牧に頼らない暮らしを志向する人々が増えたり、トレーニングを受けたパトロール人員に生計を立てる手段がなく、予定通りの調査やパトロールが実施できなかったりと、解決が求められる課題はまだ多く残されています。
さらに、気候変動のような、今後の数年間でより深刻化することが懸念される大きな問題についても、どう対応していくのか。こうした点も、今後のユキヒョウの保護に向けた活動の重要なテーマとなってきます。
気候変動に関しては、この半年間で、地域への影響を調査するための手法の確立と、数カ所でのデータ収集を行ないましたが、取り組み自体はこれからより強化していく必要があります。
こうした問題の解決は容易ではありませんが、活動自体は、着実に進んでおり、これまでわかっていなかった現状なども明らかになりつつあります。
WWFジャパンは引き続き、このWWFインドの取り組みへの支援を通じて、ユキヒョウと地域の人々の共存を目指す活動を推進していきます。
担当スタッフより:西ヒマラヤ・ユキヒョウ保全プロジェクト担当 若尾慶子
ラダックでのユキヒョウ保護活動を、日本から支援する取り組みを開始して、はや3年が経ちました。
国境を越えたこの私たちの挑戦を支えてくださってきた、日本のWWFサポーターの皆さま、野生動物アドプト制度のスポンサーズの皆さまに、こうして取り組みの報告をお届けできることを、本当に嬉しく思います。
プロジェクトの立ち上げ当初、最初に現地を訪問した際には、WWFインドのベテランのフィールド・ワーカーたちでさえも、問題解決のカギがどこにあるのか、最も効果が期待できる取り組みは何なのか、まだ見定め切れていませんでしたが、地域の人たちと歩んできたこの3年間で、私自身、活動が確実に進んでいることを実感しています。
今回、ラダックから報告のあった活動は、いずれもユキヒョウを絶滅から救うことを願う日本の皆さまから、WWFジャパンを通じて現地に送られた支援金により実現することができたものです。
フィールドチームを率いるWWFインドのロヒット・ラタンは、会うたびに「日本からの支援のおかげで活動ができている、ありがとう」と言ってくれます。彼に代わって支援者の皆さんへ、心よりお礼申し上げます。
今後も、こうした活動記事や、報告会などの場を通じて、現場の様子や取り組みの成果をお伝えできればと思います。
ぜひ引き続き、私たちの取り組みをご支援いただければ幸いです。
WWFジャパンの「野生動物アドプト制度」について
WWFジャパンは、絶滅の危機にある野生動物と、その生息環境を守るプロジェクトを、日本の皆さまに個人スポンサー(里親)として継続的にご支援いただく「野生動物アドプト制度」を実施しています。
この活動の輪を広げていくために、ご関心をお持ちくださった方はぜひ、個人スポンサーとしてご支援に参加いただきますよう、お願いいたします。
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