トラの森に潜む罠


20世紀初頭、10万頭が生息していたといわれるトラ。

現在の推定個体数は3,200頭ほど(成獣のみ)とされており、各地で絶滅が心配されています。

トラを脅かす主な原因は、すみかの森の消失と、骨などを狙った密猟。

特に密猟は、国際取引が禁止されているにもかかわらず続いている違法取引(密輸)に支えられ、大きな脅威となってきました。

さらにこの問題を助長しているのが、近年アジア各地の森で急増しているワイヤーロープを使った違法な「くくり罠」です。

自転車の部品でも作れるという簡易で恐ろしいこの罠により、トラはもちろん、ゾウやヒョウ、その他の草食動物など、さまざまな森の動物が犠牲になっています。

インドネシアのスマトラ島からは、森で回収されたくくり罠の数が、2006年から2014年までに2倍に増えた、という報告もありました。

罠を回収するレンジャーたち(カンボジア)。輪にしたワイヤーに動物が足を踏み入れると、輪が締って捕まえる仕組みです

森を守る現場のレンジャーたちは、罠の回収を必死に行なっていますが、資金や人手が不足している地域も少なくありません。

スマトラのリンバン・バリンの森では、正規の政府職員2人を含む、地域の人たちによるわずか26人のレンジャーが、1,400平方キロ(沖縄本島を上回る広さ)の森をパトロールしています。

罠にかかったトラの足。逃れることができた場合も、傷がひどいと、脚が壊死してしまったり、獲物が獲れなくなります

違法な伐採などをくい止め、すみかの森が守れたとしても、こうした罠猟が横行すれば、成果も無駄になりかねません。

トラは近年、ロシアやインド、ネパールなどでは、わずかながらも個体数が増加。保護活動の成果が顕れ始めていますが、一方では、こうした新たな脅威となる問題も、大きくなっています。

木材や紙、パーム油、ゴムなどの産品を通じて、東南アジアの森林の現状に深くかかわっている国として、日本からも現地の取り組みを支援してゆかねばと思います。(広報担当 三間)

回収されたくくり罠。仕組みやサイズなどは何種類もあるといいます

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自然保護室(コンサベーションコミュニケーション グループ長)
三間 淳吉

学士(芸術学)。事務局でのボランティアを経て、1997年から広報スタッフとして活動に参加。国内外の環境問題と、保全活動の動向・変遷を追いつつ、各種出版物、ウェブサイト、SNSなどの編集や制作、運用管理を担当。これまで100種以上の世界の絶滅危惧種について記事を執筆。「人と自然のかかわり方」の探求は、ライフワークの一つ。

虫や鳥、魚たちの姿を追って45年。生きものの魅力に触れたことがきっかけで、気が付けばこの30年は、環境問題を追いかけていました。自然を壊すのは人。守ろうとするのも人。生きものたちの生きざまに学びながら、謙虚な気持ちで自然を未来に引き継いでいきたいと願っています。

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