© Troy Enekvist / WWF-Sweden

やさしい林業がマルミミゾウを守っているというおはなし


アフリカ中西部の熱帯林に生息する、ミミが可愛らしいマルミミゾウ。

高値で取引される象牙を狙った密猟と、熱帯林の農地転換、1990年以降の31年間で、個体数が86%も減少してしまいました。

© naturepl.com  / James Aldred / WWF

果実を好んで食べ、移動と排泄を通じて植物の種をまくことで豊かな森を作りだすことから、「森にすむ巨大な庭師」とも呼ばれるマルミミゾウ

アフリカ中部の熱帯林は21%が保護区に指定されていますが、マルミミゾウの生息域は、半分以上が保護区ではなく、林業用地に重なっています。

しかし、林業用地で野生動物の保全ができるのでしょうか?

実は、持続可能な森林管理である「FSC®認証」を取得した森林であれば、それができることが調査で分かりました。

WWFカメルーンも参加したユトレヒト大学の調査では、FSC認証林と非認証林における動物の出現率を比較。

その結果、FSC認証林マルミミゾウの出現率は、非認証林と比べ4.4倍も高かったことが示されました。

また、ニシゴリラなどを含めた絶滅危惧種は2.7倍、チンパンジーなど体重が10kg以上の中型・大型の哺乳類は2.5~3.5倍も出現率が高かったのです。

©Joeri Zwerts, University of Utrecht
©Joeri Zwerts, University of Utrecht

アフリカ中西部の14カ所の森で4年間に渡り行なわれた調査では、474地点のカメラトラップより、約130万点の画像データを取得。FSC認証林による野生動物保全の有効性を示す、世界初の大規模な調査となりました

FSC認証を通じたやさしい林業は、アフリカ中西部で哺乳類に不可欠な生息地を提供しています。

では、日本の場合はどうでしょう?

©Toshitake Tanuma / WWF Japan

入局後の初出張で訪れた南三陸。右側がFSC認証林、左側が商業用に植林された放置林。FSC認証林は太陽が差し込み、豊かな下層植生が広がっている一方、放置林は密集した木々が日差しを妨げ、下層植生が育ちません

日本では森林全体のたった1.7%しかFSC認証を取得していません(2022年12月時点)。

一方、管理が放置された森林が拡大。こうした森は、野生生物が乏しいだけでなく、土砂災害の可能性が高まるといった懸念があります。

そこでWWFジャパンでは今年、宮城県の南三陸森林協議会と「日本のFSC認証林推進協定」を締結しました。

森林管理を通じて、野生動物と人の共生を実現する ―これは、生物多様性の回復、すなわち「ネイチャー・ポジティブ」が目指す姿そのものです。

まずは南三陸の森林から、日本のネイチャー・ポジティブを実現したいと思います。

(森林グループ 田沼 )

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自然保護室(森林グループ)
田沼 俊剛

米国サウス大学において生態系および生物多様性に関する理学士号を取得し、イェール大学環境大学院より環境マネジメント修士号を取得。 新卒で外資系コンサルティング会社に入社後、11年間、金融セクターおよびエネルギーセクター向けに業務改革、組織改編、事業戦略策定など幅広い支援を提供する。英国本社のエネルギー戦略チームへの出向、国内における電力自由化チームの立ち上げを経験。その後2年間、京都へ移住して実兄が経営する不動産DXのベンチャー企業で務めたのち、2024年にWWFジャパンへ入局。 オーストラリアおよびブラジルにおける森林保全、畜産品に由来する森林破壊の抑制、国内企業のサステナブル調達を促進・支援するための業務に従事。

外資系コンサルティング会社に新卒入社して目の前の仕事をこなしていく中で、気付けば"週末と優雅な休暇"が人生の目的と化していることに気づき、40代の手前で脱サラ。 高校生の頃に思い描いていた、「すべての人間活動の土台となる地球を守り、環境問題の解決に携わる」という夢と誠実に向き合うことを決意して、WWFジャパンへ入局。"Make every day count"-少しでも世の中の役に立ち、ポジティブな変化の一部となれるように、与えられた環境とご縁に感謝しながら精進する毎日です。

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