トラの「シンデレラ一家」のマイホーム


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

先日、WWFロシアから届いた「ゾルシュカ」が母親になった、というニュース。ご覧いただきましたでしょうか。

「ゾルシュカ」は、仔トラの頃に親とはぐれて保護され、約3年前に森に戻されたメスのシベリアトラで、意味はロシア語で「シンデレラ」だそう。

今回、このシンデレラが、しっかり野生の世界に適応し、2頭の仔トラの母親になりました、という嬉しいニュースでした。

ところがこのニュースには、あれ?と思う情報が添えられていました。

「生まれた2頭は今世紀初めて、アムール川北岸で誕生が確認された仔トラ」だというのです。

アムール川北岸にトラがいなかった?

気になったので調べてみると、トラの分布域は、確かにアムール川の東と南に集中し、北および西岸の生息域は、わずかに3カ所ほどしか認められていないことが分かりました。

しかも、そのうちの1カ所は川から北に約75km離れた、孤立したエリアになっています。

そして、シンデレラが放され、いま子育てをしているバスタック自然保護区は、その孤立したエリアから、さらに75kmほど西に位置していました。

つまり、現在の分布地図には記載されていないエリア、ということです!

今回の仔トラ誕生の確認により、この場所が今後、トラの生息域として新たに色を塗り替えられることになるかもしれません。

WWFロシアからの情報によれば、このバスタック自然保護区には以前、少数のオスしか生息しておらず、そこにシンデレラが入ったことで初めて繁殖が確認できた、とのことでした。

もっとも、アムール川北岸に残る他の3つの分布域も、最大のエリア(孤立エリア)は1つで千葉県くらいの広さなので、そこで仔トラが生まれている可能性はあるかもしれません。

シンデレラ一家をはじめ、アムール川北岸のトラたちがしっかりと未来に命を引き継いでいけるように。日本からも応援してゆきたいと思います。(自然保護室 川江)

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自然保護室長(森林・野生生物・マーケット・フード・コンサベーションコミュニケーション)、TRAFFICジャパンオフィス代表
川江 心一

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修士課程修了。
小学生の頃に子供向け科学雑誌の熱帯雨林特集に惹きつけられて以来30年間、夢は熱帯雨林保全に携わること。大学では、森林保全と地域住民の生計の両立を研究するため、インドネシアやラオスに長期滞在。前職でアフリカの農業開発などに携わった後、2013年にWWFに入局。WWFでは、長年の夢であった東南アジアの森林保全プロジェクトを担当し、その後持続可能な天然ゴムの生産・利用に関わる企業との対話も実施。2020年より現職。

小学生の頃に科学雑誌で読んだ熱帯雨林に惹きつけられると同時に、森林破壊のニュースを知り「なんとかしなきゃ!」と思う。以来、海外で熱帯林保全の仕事に携わるのが夢でしたが、大学では残念ながら森林学科に入れず・・。その後、紆余曲折を経て、30半ばにして目指す仕事にたどり着きました。今でもプロジェクトのフィールドに出ている時が一番楽しい。

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