気候変動によるチリの豊かな海への影響
2024/11/15
世界規模の問題となっている気候変動。異常気象などによって、日々の暮らしの中でもその影響を強く感じることが多くなったのではないでしょうか。
この影響は、私たち人間だけでなく、海や海で暮らす生きものにとっても大きなものになっています。
そして、日本で消費されるサーモンの多くが生産されている南米チリの海は、特に気候変動による影響が心配される地域のひとつです。
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生物多様性の豊かなチリ南部の海。チリの沿岸域にのみ生息する固有種チリイルカや、ペンギン類やミズナギドリ類など500万羽にのぼる海鳥をはじめ、さまざまな生きものが息づいています。
チリの海の生態系を支えている大量のプランクトンは、南極からの「ペルー海流(フンボルト海流)」と、海の深いところから湧き上がる湧昇流によって育まれています。
これによって、プランクトンを食べる「アンチョベータ(ペルーカタクチイワシ)」などの小魚、その小魚を餌とする海鳥や鯨類など、多種多様な生きものが生息する、生物多様性の豊かな海がつくられているのです。
ですが、太平洋東部の南米の沿岸域にかけて発生する「エルニーニョ現象」が、この豊かな海に大きな影響を与えています。

南米のペルーからチリ沖にかけて分布する、アンチョベータ(ペルーカタクチイワシ)。粉末状の魚粉(フィッシュミール)に加工され、チリのサーモン養殖の餌の原料となるほか、日本にも輸出され養殖や畜産用の餌の原料などとして使われます。
エルニーニョ現象が発生すると海面水温が上昇し、プランクトンやそれを食べる小魚が減少してしまいます。
それによって餌が減り、1972年のエルニーニョでは、アンチョベータの漁獲量が激減。100万羽もの海鳥が餓死しました。
昨年の2023年に発生した際にも、アンチョベータの漁獲量が減り、漁業に大きな影響が出ました。
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チリを含む南米大陸南部の沿岸で繁殖するマゼランペンギン。気候変動による降水量の増加などにより、繁殖地や繁殖成功率への影響も心配されています。
気候変動は、より強力なエルニーニョ現象を引き起こし、その発生頻度も増やす可能性があるため、チリの海にとって大きな脅威となります。
これは、この海の恩恵を受けている私たちにも深く関わる問題です。
チリの生物多様性の豊かな海を守るためにも、気候変動に対する取り組みが、より一層重要になっています。(海洋水産グループ 吉田)