エビから考える森と海と人の暮らし
2017/06/05
青空の下、延々と広がる水辺の景色。
豊かな自然の風景を思わせますが、ここは実はエビの養殖場です。
ボルネオ島インドネシア領の北カリマンタン、その海岸近くに位置する大きな養殖場の景色は、ちょっと日本ではお目にかかれません。
養殖と言っても、実際は自然の地形や環境を利用して行なわれており、カニや魚など、他の生物も豊富です。
エビしかいない養殖施設とは違う、半ば自然そのままの、生きもの豊かな景観なのです。
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北カリマンタンのエビ養殖場。ここのエビ(ブラックタイガー)は日本にも多く輸入されています。使用する薬品や飼育方法がきちんと管理されていない養殖は、周囲の自然に悪影響を及ぼします。
ここで今、私たちはWWFインドネシアの仲間たちと、海と森を一緒に守る取り組みを行なっています。
森と海は川を通じてつながっているだけでなく、満潮時や川の水位が上がる時は陸地の奥まで水につかるため、森と海の境界も明確ではありません。
つまりこれらは、一つのつながった自然として守らなくてはいけないのです。
その活動の一つとして、いま私たちが行なっているのが、地域のエビ養殖を環境に配慮した養殖に改善していくこと。
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水質を調査する機材と、養殖場で働く人に掲示されている保護すべき野生動物についてのポスター。水鳥やテングザル、イリエワニなどが説明されています。
そのために、国際的な養殖のエコラベル「ASC」の国際認証の取得を進めています。
しかし、決して簡単な取り組みではありません。
環境に配慮した養殖の実践には、他の一般的な養殖にはない、徹底した水質調査や厳しい作業管理が求められるからです。
また、こうした養殖場で働く人は、地元に住む人々ではなく、インドネシアの他の島から移住してきた人々が多くを占めています。
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養殖場で獲れたという大きなカニ。こうした産品は、地元の人たちと物々交換されることもあるそうです。
インドネシアの文化は多様なため、地元に住む人々と移住してきた人々が異なる文化を持っていることも珍しくありません。
このため、彼らの間でいさかいが起きないよう、日頃からコミュニケーションをとり、お互いの理解を深めることが不可欠です。
さらに、地元に住む人々にも、養殖場で働く機会が提供されることが重要です。
自然を守るといっても、現場で相手をするのは、やはり人自身であったりします。
どうすれば活動を理解し、協力してもらえるか。試行錯誤を繰り返しながら、活動を続けたいと思います。(自然保護室 吉田)
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半分水上にある地元の人たちが住む集落。漁業などを生業とし、養殖場で働く人は少数です。