10月23日は「世界ユキヒョウの日」(動画あり)
2015/10/23
アルタイ山脈をはじめとする中央アジアの山岳地帯。今も貴重な自然が息づくその生態系の頂点に立つ野生動物が大型のネコ科動物ユキヒョウです。
個体数は最大でも6,390頭と推定されるこの動物は近年、生息環境の悪化や地球温暖化によって絶滅の危機が心配されています。
「世界ユキヒョウの日」である10月23日、WWFはこのユキヒョウの保護を呼びかけるメッセージを世界に向けて発信。特に、国境を越えた取り組みが必要とされる気候変動への対応が、ユキヒョウをはじめとした中央アジアの貴重な自然を守る上で重要であることを訴えました。
【動画】カメラトラップが捉えたユキヒョウの姿(WWF)
「幻の動物」の危機
1980年代までその姿も、生態も謎に包まれ「幻の動物」とされてきたユキヒョウ。
今もめったに人の目に触れることのないこの動物が生きるのは、ヒマラヤから中央アジアにかけて連なる険峻な山脈の高山帯です。
このユキヒョウの世界的な記念日「世界ユキヒョウの日」が10月23日に定められたのは、2014年の ことでした。
これは、2013年の10月23日に、キルギス共和国の首都ビシュケクで「世界ユキヒョウ保護フォーラム(Global Snow Leopard Conservation Forum)」が開催されてから1年を迎えたことを受け、制定されたものです。
推定個体数は3,920~6,390頭 。
IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでも、絶滅危惧種(EN)に指定されており、ワシントン条約でもその毛皮などの商業取引が禁止 されています。
しかし、生息環境の悪化や密猟は後を絶たず、ユキヒョウが家畜を襲うことなどが原因で殺される例もあり、今も危機が続いています。
気候変動で生息域が減少する
2年目を迎えた「世界ユキヒョウの日」である2015年10月23日、WWFは発表したレポートの中で、こうした危機により、過去16年間でユキヒョウの個体数が20%減少した可能性があることを指摘。
さらに、高山帯で顕在化している気候変動(温暖化)による環境の変化が、これにさらなる追い打ちをかけることに警鐘を鳴らしました。
実際、農業など人間活動が高地にまで拡大している現状に、平均気温の上昇が引き起こす山岳地帯での植生の変化や森林限界の上昇が加われば、ユキヒョウの生息に適した環境は、今よりもさらに減少することになるでしょう。
WWFは、このまま地球温暖化への対策を何も講じなければユキヒョウの生息地が、現在よりもさらに大幅に減少する恐れがあること、そして、今すぐにも世界各国が協力して取り組むべき地球温暖化の防止に向けた活動の必要性を訴えました。
気候変動対策がユキヒョウ保護の一番の近道
WWFはこれまでヒマラヤやモンゴル、ロシアなどで、各国政府や地域のコミュニティと連携しながら、長年にわたりユキヒョウの調査と保護活動を続けてきました。
また近年、国際的にもその動きは大きくなっており、2013年の世界ユキヒョウフォーラムでも、政府や市民団体で構成されたイニシアチブ「世界ユキヒョウ生態保護プログラム(GSLEP Global Snow Leopard and Ecosystem Protection Program)」のもと、ネパール、インド、ブータンなど、ユキヒョウが生息する12の国々で、保護区を新たに制定し、長期間にわたる保護活動を実施しています。
こうした取り組みの結果として、現在はユキヒョウの生息域全体の、およそ14%が保護の対象となっています。
地域の住民との軋轢を軽減させながら、密猟を監視し、保護区の拡大を図ってゆく、その取り組みが今後も継続を求められることは間違いありません。
しかし、同時に温暖化の防止という、国境を越えた世界の協力による取り組みが無ければ、こうした活動の成果も水泡に帰す可能性があります。
ヒマラヤの景観保全プロジェクトを統括しているWWFのサミ・トニコスキは今回のレポートの発表に際し、「ユキヒョウを保護する一番の近道は気候変動対策だ」とコメントをしています。
それほどまでに、気候変動がもたらす自然環境への影響と、生態系の変化は深刻な危機をはらんでいるということです。
問われる世界の意志
「世界ユキヒョウの日」からおよそ1カ月後にあたる11月末、フランス・パリでは、国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP21)が開催されます。
この会議では、世界各国が地球温暖化防止に関する2020年以降の「新しい国際枠組み」への合意が期待されており、既に日本も含む120を超える国々が温室効果ガス排出量削減目標を発表しました。
しかし、その削減目標を全て合わせても、地球の平均気温の上昇を「2度未満」に抑えるには、まだ十分ではありません。
「2度未満」それは、気候変動が環境や社会に深刻な影響をもたらす分水嶺として、国際社会が認識している重要な指標です。
ましてや、ユキヒョウが生きるヒマラヤの山々のように、地球上の中でも特に温暖化の影響を強く受けると考えられている地域への被害を抑えるには、より真剣な削減の取り組みが求められることになるでしょう。
WWFは今後も生息地のフィールドにおける保護・調査活動を継続しながら、新しい温暖化防止のための目標が合意されるように、そして各国がその実現に取り組むように、働きかけを行なっていきます。