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WCPFC北小委員会会合2022閉幕 太平洋クロマグロ資源は想定以上の回復傾向も乱獲防止策導入が急務

この記事のポイント
2022年10月4日から3日間にわたりオンラインで開催されていた中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の北小委員会が閉幕しました。絶滅が危惧されるまでに減少した太平洋クロマグロ(本まぐろ)について、新たな資源評価結果が公表され、想定以上の速さで資源量が回復していることが明らかとなりました。再び絶滅の危機に陥らないため、他のクロマグロ類ですでに運用されている予防的な管理方策を早期に導入することが必要不可欠です。
目次

太平洋のクロマグロ資源は回復傾向に

太平洋の海洋生態系の頂点に立つ太平洋クロマグロ*(標準和名:クロマグロ学名:Thunnus orientalis)。
*:この記事では便宜上クロマグロを太平洋クロマグロとしております

東アジア近海からメキシコ沿岸まで、大洋を回遊するこの大型魚は、「本まぐろ」とも呼ばれ、寿司や刺身として高値で取引されることから「海のダイヤ」とも言われています。そして、日本はその7割以上を消費する、世界最大の消費国です。

しかし、長年続いた過剰な漁獲により、その資源量は危機的な状況に陥っています。

太平洋クロマグロ資源量は、2010年には初期資源量(漁業が開始される以前の推定資源量)の1.7%まで減少しましたが、その後の漁獲規制の効果により資源量は回復傾向に転じ、2020年には10.2%(約6.5万トン)までに回復しました。2019年の時点で、予定よりも5年早く暫定回復目標を達成しており、順調に漁獲規制の効果が現れていると考えられます。

しかし、世界的には、初期資源量の20%を下回ると禁漁を検討しなければならない危険水準であることを考えると、10.2%である太平洋クロマグロ資源は、依然として枯渇状態にあり、予断を許さない状況です。

世界のマグロ資源管理にかかわる国際機関。クロマグロについては、WCPFCとIATTCとが共同で管理しています。

資源量回復で増加混獲問題

クロマグロ以外の魚を獲るために設置された定置網にクロマグロがかかってしまう「混獲」の問題は、漁獲量の上限が定められた2014年の管理措置導入以降、日本では大きな問題として取り上げられてきました。

定置網漁業とは、沿岸の魚の回遊経路に網を設置して漁獲する漁法で、漁獲する魚種を選択することができません。よって、もし漁獲枠上限に達した後にクロマグロが網に入ってしまった場合は、他魚種とともに放流しなければなりません。場合によっては魚の水揚げがゼロになることもあることから、水産業関係者にとって大きな問題となっています。

それに対し日本は、クロマグロだけを放流できる定置網の研究開発に着手。すでに一部、実用化が進んでいます。

いっぽう韓国でも、クロマグロの資源量回復とともに、定置網での混獲問題が顕在化しており、2022年7月には、投棄されたと思われる大量のクロマグロが沿岸に漂着し、大きな問題となりました。

韓国政府からは、漁獲枠を超過した場合でも、定置網漁業で混獲されたクロマグロに限り国内流通を認めるよう提案がありましたが会合では却下されました。

持続可能な漁業管理に必須管理戦略評価(MSE)

持続可能な漁業管理のためには、正確な情報と科学に基づいて作成された管理戦略が必要不可欠です。その管理戦略のベースとなるのは魚の資源量ですが、それを推定するには、魚の子供の生残率といった正確に把握することが難しい、不正確な情報を使う必要があります。しかし、その情報の不確実性により、資源量を誤って推定してしまい、結果として想定していた戦略(目標)どおりの管理ができなくなるリスクが存在しています。

このリスクを軽減するために導入が検討されているのが、管理戦略評価(MSE)と呼ばれる手法で、不正確な情報について様々なシナリオを仮定し、候補となる管理戦略案の結果をコンピューターでシミュレーションし評価することができるため、より安全性の高い管理を行うことができます。すでにミナミマグロ、大西洋クロマグロでは導入、運用されています。

WCPFCでも多くの魚種でMSE導入の検討が行われており、今回の会合では、北部太平洋のビンナガについてのMSE案が合意され、年末の年次会合で正式導入されることとなりました。また、太平洋クロマグロについては、2025年に導入される予定となりました。

国内でも未報告漁獲が発覚早期導入が望まれる漁獲証明制度

2022年、クロマグロのブランド産地である大間で、未報告漁獲という不正行為が発覚しました。これは世界的に問題となっているIUU漁業とみなされる行為であり、国際的にも許されるものではありません。

このようなIUU漁業リスクを大幅に軽減する方法として、「漁獲証明制度(CDS)」があります。

漁獲証明制度とは、漁獲された水産物が違法でないことを示すための制度で、漁獲物に対し、いつ、どこで、だれが、どのように漁獲したかを記録することを義務づける制度です。

大西洋クロマグロやミナミマグロでは、すでに漁獲証明制度が導入されており、太平洋クロマグロについても導入することがすでに決定しています。2018年以降、日本が率先して導入のための詳細設計を行なっていますが、未だ導入に至っていません。

近年は新型コロナウイルスの影響もあり、この導入への議論は停滞していましたが、今年は検討会議も開催され、2024年には漁獲証明制度の導入が完了予定であることが正式に発表されました。

商品として陳列された本まぐろの柵
©Michel Gunther/ WWF

再び絶滅の危機に陥らないために計画通りMSEと漁獲証明制度の導入を

今回の会合では、太平洋クロマグロの資源が想定以上の速度で回復し、またMSEや漁獲証明制度の導入スケジュールも明確となりました。一方で、増加する混獲問題という課題も明らかとなりました。

会合に出席したWWFジャパン海洋水産グループ水産資源管理マネージャーの植松周平は、今回の結果について次のように述べています。

「今回の最新の資源評価結果は、一度は絶滅の危機に陥った太平洋クロマグロに対し、効果ある保全管理措置を採択し、それを漁業者が守ってきたことの成果の証といえます。

一方、定置網漁業での混獲問題対策が不十分であることや、大間で発覚したようなIUU漁業を防ぐための漁獲証明制度が遅れていることなど、まだ解決すべき課題は多くあります。

そのような中、日本は定置網漁業における混獲回避技術を開発し、また漁獲証明制度についても導入検討を主導しています。

世界最大の太平洋クロマグロ消費国である日本には、常に予防的な立場で、資源量回復とIUU漁業の根絶にむけた、さらなるリーダーシップを期待しています」

順調に資源回復傾向にある太平洋クロマグロ。再び絶滅の危機に陥らないためにも、計画どおりMSEと漁獲証明制度を導入することが必要不可欠です。WWFは、引き続きWCPFCでの議論を注視しながら、各国政府に働きかけを行なっていきます。

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