2017年、南アフリカのサイの密猟は減少するも、1,000頭が犠牲に
2018/01/31
南アフリカ共和国政府は2018年1月25日、2017年の一年間に、同国内で密猟被害にあったサイの頭数を公表しました。その結果は1,028頭。密猟対策の拡充の成果により、前年の2016年より若干減少しました。しかし、依然として1,000頭を超える高水準です。また、象牙を狙った密猟がアフリカゾウも脅かしているほか、エコツーリズムに頼る地域社会の経済にも影響がおよぶことが懸念されています。現地での密猟対策の強化と、象牙やサイの角の消費地であるアジア諸国における取締と需要の抑制が求められています。
3年続けて密猟は減少
過去10年間にわたり、深刻なサイの密猟が続いてきた南アフリカ共和国。
2018年1月25日、南アフリカ共和国政府は、2017年の1年間で、1,028頭のサイが密猟されたことを公表しました。
これは前年2016年の1,054頭を若干下回る数字で、2014年の1,215頭をピークに、3年連続で減少していますが、毎年1,000頭を超える高い水準であることに変わりはありません。
世界で最も多くのサイが生息する南アフリカ共和国には、シロサイとクロサイを合わせて、およそ2万5,000頭が生息しているといわれています。
ここで密猟が増加し始めたのは、2008年からでした。
2007年に年間13頭だった密猟が、2008年に83頭へと急増。その後も年々増加が続いたのです。
密猟が続く状況の背景には、ベトナムなどアジア地域で高価な薬の原料になるとされる角を狙った、国際的な犯罪集団の暗躍があるとみられています。
こうした集団は国境を越えて侵入してくる例も多く、性能の高い銃などで武装し、時には地域の貧しい人たちに代わりに密猟をさせるといった行為を繰り返しています。
その中で、南アフリカ共和国政府は、密猟を行なう犯罪集団の取り締まりや保護区のパトロールを強化。WWFやトラフィックも、この取り組みを支援してきました。
3年連続でわずかながらも密猟が減少している理由としては、こうした取り組みのほか、犯罪行為を摘発し、有罪判決をくだす、南アフリカ政府の法執行の強化が成果を収めてきたことなどが、考えられます。
消費国が抱える問題
しかし、密猟を根本的に抑制するにはいたっていません。
実際、ベトナムなどサイの角の消費国では、需要がなかなかなくならず、富裕層の一部が、金よりも高価な贈り物として、珍重しているともいわれています。
同じく、象牙についても、アジア地域での消費が、現地で密猟を呼ぶ原因になっています。
過去数年、多くのサイが犠牲になった、南アフリカ共和国のクルーガー国立公園内では、アフリカゾウも密猟されており、2016年には46頭が、2017年には67頭が犠牲になりました。
また、政府の取り締まりなどが及びにくい国立公園のような保護区の外にも、密猟が広がっています。
サイと同様、アフリカゾウなど、他の野生動物の密猟の防除も、欠かせない取り組みとなりますが、同時に、アジア側に存在する需要と市場の問題を解決しなければ、密猟を根本的に撲滅することはできません。
日本には今のところ、こうした違法な象牙が大量に流入している可能性はないとされていますが、WWFジャパンとトラフィックが2017年に行なった調査の結果、日本から海外へ、国内の在庫象牙が違法に流出している事実が確認されました。
行先の多くは中国と考えられており、同国で2011年から2016年にかけて押収された日本からの違法象牙は、2.42トンにのぼると見られています。
こうした状況が続けば、海外の違法な取引市場が活性化され、さらなる密猟が生じるおそれもあります。日本もまた、その責任の一端を負っているといえるでしょう。
保護区周辺の地域社会に影響
こうした野生生物の危機は、南アフリカ共和国の地域社会にも、深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
現地の保護区などでは、野生生物を観光対象としたエコツーリズムが盛ん、これにより地域の経済が成り立っている例が多くあるためです。
WWFインターナショナルで、アフリカのサイ保全プロジェクトのリーダーを務めるジョー・シャウ博士は、次のように懸念を述べています。
「サイの密猟は依然として蔓延しており、ゾウやライオンにも密猟者の手が伸び始めています。こうした野生生物は保護区で観光を成り立たせ、雇用をもたらしているため、犯罪行為は周辺住民の生活にも影響をおよぼします」
また、WWFの野生生物保全プロジェクト(Wildlife Practice)のリーダーであるマーガレット・キナードも、密猟の減少を喜びつつも、問題の根深さと、求められる取り組みの大きさについて述べました。
「サイの密猟頭数が3年連続で減っているのは励みになる事実です。
しかし、影響を受ける住民の生活にも光をあてなければなりません。
密猟されたサイの角が国際取引されるのを可能にしているのは、社会的な腐敗であり、これを改善しなくてはなりません。
アジアにおける違法な野生生物製品への大きな需要も抑える努力が求められます」
南アフリカ共和国、およびその周辺国では、今後さらなる密猟防除のための法整備とその執行が、そして、国際社会はそれを支援しつつ、サイの角が今も消費されている国や地域で、需要の抑制に取り組む必要があります。
毎年発表される、南アフリカ共和国のサイの密猟頭数が、今後さらに減少へと導けるかは、こうした連携と取り組みの成否にかかっています。