世界の野生生物犯罪の撲滅を!国連が歴史的な決議
2015/08/14
2015年7月30日、国連は、違法取引や密猟などの野生生物犯罪を根絶するための、歴史的な決議を採択しました。これらの犯罪は年々深刻化しており、アフリカを中心とする各地域で野生生物を絶滅の危機に追いやっているのみならず、地域社会に混乱や治安の悪化をもたらし、武力紛争の資金源にもなるなど、他の国際問題にも深く関与しています。WWFは同日、世界から野生生物犯罪を無くすための重要な一歩として、この決議を歓迎する声明を発表しました。
野生生物の危機をめぐって
象牙を目的に、毎年3万頭が密猟されているアフリカゾウ。高価な薬の原料としてその角を狙われ、2014年の1年間に1,215が密猟された、南アフリカ共和国のシロサイとクロサイ。
トラが生息するアジアの各国でも、2000年から2012年の間に、少なくとも1,425点のトラの骨や爪などの部位が押収され、その背景にある深刻な密猟の現状が明らかにされています。
こうした野生生物を使った製品の違法取引の背後には、高度に組織化された国際的な犯罪組織の存在が指摘されています。
その脅威が年々拡大する中、国連(国際連合)は2015年7月30日、アメリカのニューヨークで開かれた第69回目となるその総会で、国際社会が協力して野生生物犯罪を撲滅し、全ての国はそのための努力を誓約する、「Tackling illicit trafficking in wildlife(野生生物の違法取引への取り組み)」に関する決議を採択しました。
この決議は、ガボンとドイツが中心となり、84の国々が協力して、3年間にわたる外交努力を傾けた結果、実現したものです。
この3年の間には、2013年の「パリ宣言」、2014年の「ロンドン宣言」、2015年の「カサネ声明」および「ブラザビル宣言」を含めた、野生生物の違法取引の撲滅をめざす重要な国際的な宣言が発表されました。
それらに基づいて成立した今回の決議は、国連に加盟する193の国々全てが、野生生物の危機の深刻さを認め、その改善に向けた意志を明らかにした、初めてのものとなります。
世界の秩序を脅かす問題として
野生生物犯罪がもたらすその影響は、単に特定の野生生物を絶滅の危機に追いこむだけにとどまりません。
こうした犯罪が繰り返し行なわれる結果として、その国や地域では、法律の機能やガバナンスが損なわれ、社会全体が安定と安全を失うことになります。
さらには、そこで得られた莫大な利益が、犯罪のネットワークや、武装勢力の軍資金に回ることで、紛争などのリスクを大きくすることも指摘されています。
いうまでもなく、こうした社会的な不安や紛争は、資源の乱獲や乱開発の呼び水となり、結果として深刻な自然破壊を引き起こす悪循環をもたらします。
一頭のゾウの密猟がもたらす象牙の利益は、もはや一国にとどまらない、より広範な地域の暮らしや、安全保障にも深刻な打撃を与えるものとなっているのです。
WWFインターナショナルのマルコ・ランベルティーニ事務局長も、今回の国連決議について、次のように述べています。
「この決議の採択は、野生生物犯罪が、これまでのような少数の国に限定された単一の環境問題ではなく、すべての国にとっての優先課題となったことを証明しています」。
消費や取引を通じた問題とその解決
こうした、ガバナンスや法の順守、地域の安定や安全を視野に入れ、採択された今回の国連決議では、密猟される野生動物が生息する国だけでなく、そこから海外に違法に持ち出される象牙などを流通、消費している国々に対しても、犯罪防止のための措置を採ることを促しています。
たとえば、以下のような取り組みが強く求められました。
- 組織的な犯罪グループが関与する野生生物の違法取引に対処すること
- 違法取引で得られた利益がマネー・ロンダリングされることを防ぐこと
- 国家レベルで、野生生物犯罪の対策に取り組む部門を、政府機関内に設置すること
- 司法と法執行努力を強化すること
- 汚職を防止、根絶すること
- 危機にある野生生物を使った製品の需要を削減すること
違法かつ大量の取引と、消費を抑えることは、長期的には生息地における密猟を防ぐ、最も強力な手立てになります。
各国政府が連携しながら、そうした取り組みに注力すれば、野生生物をめぐる犯罪行為は、これまでと異なり、非常にリスクの高いものとなるでしょう。
さらに、同決議では、野生生物の違法取引により影響を受けている地域社会のために、違法取引に加担せず生活してゆく手立ての確立を、各国に支援するよう呼びかけています。
これは、その場所における環境保全と野生生物の保護に、地域の人々が主体的に参画しながら、「持続可能な生計手段の構築」を進め、長期的な自然環境の保全をめざした取り組みとなります。
新たな段階に入った野生生物犯罪との戦い
今回の決議を受け、国連事務総長は2016年以降、国際的な野生生物犯罪とその対策について、毎年報告を行ない、さらなる行動を促す勧告を行なうことになりました。
長年、野生生物の密猟や違法取引問題に取り組み、それが社会に広く及ぼす脅威を訴えてきたWWFも、この決議を問題解決に向けた大きな動きとして歓迎。
サイやゾウ、トラなどをはじめ、その保護活動に深刻な課題を抱えている地域や国に焦点を当て、国際的な視野をもって取り組みへの協力と支援を続けていくことを表明しました。
ま た、WWFとIUCN(国際自然保護連合)の共同プログラムであり、世界の野生生物取引を監視するTRAFFICネットワークのスティーブン・ブロード代 表も、この決議によって、「国家安全保障と、持続可能な開発のための努力を弱体化させてきた、また世界の象徴的な数種の野生生物とレンジャーの生命を脅か し、他にも多くの危険をもたらしてきた組織的な犯罪集団が、優位に立っている今の形勢は逆転されるだろう」と述べています。
新たな段階に入った野生生物犯罪との戦いに、世界の国々がどう取り組むのか。
WWFとしても、今後に向け活動を強化していきます。
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