アムールトラの森でチョウセンゴヨウの伐採が禁止に
2010/12/02
※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。
2010年11月19日、ロシア政府は、国内に生育するチョウセンゴヨウの伐採を全面的に禁止することを発表しました。栄養価の高い実(松の実)をつけるチョウセンゴヨウは、トラなどの野生動物を含めた、森林生態系を支える重要な樹種です。しかし2007年、それまであったチョウセンゴヨウの商業目的の伐採を禁止する法律が撤廃されて以来、大量に伐採され、保護区であっても違法伐採が後を絶たない状況が続いてきました。
森林生態系を支える柱が消える
チョウセンゴヨウ(ベニマツ:Pinus koraiensis))は、極東ロシアの森林生態系の豊かさを保つ上で、非常に重要な役割を果たします。その実は、イノシシやシカなどの草食動物の貴重な食物。チョウセンゴヨウの減少による影響は、草食動物を捕食するアムールトラ(シベリアトラ)やアムールヒョウなどの肉食動物にも及びます。
一方、チョウセンゴヨウは、木材としての価値も高い樹種です。
そのため、中国をはじめとする近隣諸国からの需要も高く、高値で取引されることから、保護区の中でさえも、違法伐採が後を絶ちませんでした。
ロシア政府も、違法伐採から守るため、2010年7月29日に、チョウセンゴヨウを「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)」の附属書3に掲載。これにより、丸太、製材品、薄板を輸出するための手続きが厳正化され、違法取引がより厳しく取り締まられることとなりました。
しかしそれでも、チョウセンゴヨウを違法伐採から守るには十分ではありませんでした。規制の対象となった丸太、製材品、薄板以外の取引には規制が及んでいなかったからです。
例えば、いったん中国に丸太として輸出、加工された場合、出来上がった製品を日本など他の国が輸入する際には、中国とその輸入国との取引になるため、取締まることができません。
トラを守ることは森を守ること
そこで、ロシア政府は2010年11月19日、2007年以降規制を解いていた、チョウセンゴヨウの商業取引目的の伐採を、再び禁止することを発表しました。
この決定は、2011年11月21日から24日までロシアのサンクトペテルブルクで開催された「世界トラ保護会議(トラサミット)」の直前に発表されました。
この会議には、世界におよそ3200頭といわれる野生のトラが生息する13カ国と、トラ保護活動の支援国の代表が集結。次の寅年の2022年までに「野生のトラの生息数を倍増させる」という目標をかかげた「首脳宣言」と、目標達成のための計画「世界トラ回復プログラム」が採択されました。
今回のロシアでのチョウセンゴヨウの伐採禁止は、トラサミットの開催国であったロシアが、その目標を果たすために示した大きな一歩であり、WWFロシアが政府に対して求め続けてきたことでもあります。
実際、野生のトラの生息数を12年間で倍増させることは、大きな目標ですが、こうしたトラの生息環境の保全や、そのための違法伐採や密猟、違法取引などの取締りの強化などが、効果のある形で実施できれば、達成をより確かなものにすることができるでしょう。
こうした生息環境の保全を含めた、野生のトラの保護は、今残されているロシアの貴重な森林を、未来に向けて守ってゆくことでもあるのです。
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