シンポジウム開催報告:地球温暖化から考えるエネルギーの選択


2012年夏、原発やエネルギーに関する議論がさかんになされています。一方、地球温暖化を防ぐ取り組みに関しては、原発・エネルギーにくらべるとやや少ない印象があります。でも、温暖化対策はあと回しにできるものではありません。エネルギーに関する議論のなかで、温暖化を防ぐ取り組みについても、あわせて考える必要があります。WWFジャパンは、そのきっかけを提供するシンポジウムを7月22日に都内で開催しました。

エネルギーの議論の背景

東日本大震災のあと、東京電力福島第一原子力発電所で深刻な事故が起こり、原発の安全性への根本的な疑問がわき起こりました。

すぐにでも脱原発をめざすべきという人々の強い叫び声がある一方で、事故前には日本全体で電力の26%を原発に頼っていた現実から、当面は原発に頼らざるをえないとする声もあります。

新聞やテレビの世論調査によると多くの国民は原発ゼロを望んでいますが、それでもある程度の原発は必要という方もいます。そして、経済界、政界では意見が分かれている状態です。

原発事故の前、エネルギー政策は、政府が有識者のあつまる会議を開いた上で決めていました。そのため、一部産業界や電力業界、政府の都合で決められていたのです。

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日比谷図書文化館のホール

事故の後、エネルギーのあり方は、国民の生活の将来の安全・安心を左右することがわかり、もっと国民の声を聞いて決めるべきだという論調が高まりました。

こうして、政府がエネルギー政策を決める前に、国民の意見を聞いたり、募集したりする機会がこの夏、設けられています。パブリックコメント、意見聴取会、討論型世論調査などがそうです。

エネルギーの選択肢の提示

国民的議論のために、2012年6月29日、政府の「エネルギー・環境会議」から3つのシナリオが提示されました。

原発が電力に占める割合を2030年時点で、

  • 0%
  • 15%
  • 20~25%

とする案です。
3つのシナリオには再生可能エネルギーの割合、火力発電の割合も示されており、それをもとにした温室効果ガスの排出量の削減割合も算出されています。

驚いたことに、温室効果ガスの排出量は、1990年と比べて、2030年時点で「0%」のシナリオで23%減、「15%」のシナリオで23%減、「20~25%」のシナリオで25%減となっています。

日本政府は2009年に、鳩山首相(当時)が国連での演説で、2020年までに25%減を目指すことを国際社会に向けて公約しましたから、10年遅れてようやく公約に届くかどうかという数字がシナリオに盛り込まれているのです。

ちなみに、政府は2020年時点での温室効果ガスの排出量は参考値として、1990年と比べて、「0%」のシナリオで0%減(2020年に脱原発を行う場合)から7%減(2030年に脱原発を行う場合)、「15%」のシナリオで9%減、「20~25%」のシナリオで10~11%減としています。

いずれのシナリオを選んでも、2009年に掲げた国際公約には遠くおよばないことがわかりました。

震災や原発事故を理由に、温暖化対策をあと回しにしてもいいものか? また、意欲的な温暖化対策を打ち出すことは不可能なのか?

こうした疑問に答えるべく、エネルギーの選択と同時に温暖化対策についても考えることのできる機会を設けたのが、今回のシンポジウムです。およそ150名の方が、東京都内にある日比谷図書文化館のホールに集まり、熱心に耳を傾けました。

高まる地球温暖化の脅威

まず温暖化の脅威について、再認識しておくことが大切です。
2011年3月以降、地震や津波、原発事故の話題が多くなり、相対的に地球温暖化の話題を見たり聞いたりする機会が減っています。

しかし、大気中の二酸化炭素濃度は上昇を続け、地球の平均気温は高くなっていっています。地球温暖化は気候変動という現象をもたらしますが、近年、日本でも豪雨、突風、猛暑、竜巻などの頻度が増しており、温暖化との関連を疑われる事例が増えています。

この日のシンポジウムで、国立環境研究所の江守正多気候変動リスク評価研究室長は、地球の平均気温の長期的上昇傾向が続いていることを示しました。

陸や海で吸収されるよりもはるかに多い二酸化炭素が人間活動によって排出されており、気温上昇は今後も続くため、いずれ大幅な排出削減が必要になるとの見通しを語りました。

そして、太陽活動は1985年ごろから弱まっているが、温暖化を打ち消すほどの寒冷化が起こるとは考えにくいとして、引き続き温室効果ガスの排出削減に努力すべきことを解説しました。

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地球温暖化(気候変動)を科学的に研究する
江守正多さん

地球温暖化の国際交渉

名古屋大学大学院の髙村ゆかり教授は、国連気候変動枠組条約のもとでの国際交渉をめぐる議論を長年ウォッチしてきた経験から、デンマーク・コペンハーゲンのCOP15(第15回締約国会議)、メキシコ・カンクンのCOP16、南アフリカ・ダーバンのCOP17をふりかえり、一連の会議で重要な決定がなされてきたことを話しました。

とくに、こうした会議を受けて各国が提出した温室効果ガスの排出削減量は、目標の設定自体は自主的なものだが、戦略や計画を立てた上で、検証可能な形で着実に実行していかなくてはならないとしました。

低炭素社会・低炭素経済へ移行し、温室効果ガスを長期的に大幅削減していくことは、国際的文脈においては明確になっているということです。

このことからすれば、日本は法的拘束力のある京都議定書の第二約束期間に参加しないことになってはいるものの、世界の温室効果ガスの排出削減に積極的に貢献しなくてはいけません。

日本は25%の削減をするという2009年に掲げた国際公約を取り下げるのではなく、むしろ、もっと意欲的な目標を掲げることはできないか検討するべきなのです。

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国際交渉に詳しい高村ゆかり教授

さらに、現在の各国の対策水準を積み上げても、世界の温暖化を食い止めるのに必要な排出削減ができず、「ギャップ」(大きな隔たり)が生じていると認識されています。このギャップをどう埋めるかも、国連気候変動枠組条約に加盟する国々の課題となっています。

過去およそ100年のあいだに、地球の平均気温は0.74度上昇していますが、温暖化の影響が深刻さを増すぎりぎりのラインは2度までとされています。

世界が工業化する前と比べたときの気温上昇を2度未満に抑えるためには、カンクンやダーバンで決定されたことを各国が履行するのはもちろん、これから開かれる国連会議にもすべての国が積極的に関与していかなくてはなりません。

パネルディスカッションでの議論

2人の基調講演のあと、WWFジャパンの気候変動・エネルギー担当のスタッフを含めて、パネルディスカッションをおこないました。会場やツイッターからも意見が寄せられ、活発な議論が展開されました。

WWFジャパンの小西雅子はディスカッションに先立ち、6月29日にエネルギー・環境会議が3つの選択肢のシナリオを提示する以前、環境省が選択肢原案の段階で温暖化対策について低・中・高の3つのレベルにわけて示していたことを指摘しました。

高位のケースをとれば温室効果ガスはもっと減らすことができるのです。温暖化対策をもっと強化し、エネルギーの選択と温暖化対策を両立させるべきであると述べました。

パネルディスカッションのなかで、気候ネットワークの平田仁子さんは温暖化対策を強化することはもちろん、さらなる省エネの可能性があるとしました。

環境エネルギー政策研究所の船津寛和さんは、再生可能エネルギーのポテンシャルは日本でも大きいとし、ドイツやスペインの例をひきながら、再生可能エネルギーの割合が大きくなっても電力は安定的に供給されていることを紹介しました。

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木原実さん

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木原さんの巧みな司会で、盛り上がる会場

一方、会場からは、高校生からご年配の方まで、幅広い方から発言がありました。CO2(二酸化炭素)を大幅に削減することは技術的に可能なのか、地球温暖化が進むというのには科学的な誤りがないと言い切れるのか、風力発電のバードストライク(鳥の衝突)をどう考えるのか、といった質問や疑問が出されました。壇上のパネリストたちは、そのひとつひとつに丁寧に答えて、疑問点の解消に努めました。

この日の司会進行は気象キャスターの木原実さん。
終始にこやかで、ユーモアのある進行ぶりのおかげで、会場は何度も笑い声に包まれました。こうしたシンポジウムとしては、会場からの挙手がかなり多かったと言えます。木原さんが、専門的な話になりすぎないように注意を払い続けていたおかげで、全体として分かりやすい話となりました。名司会ぶりに対して会場から拍手が送られました。

さて、エネルギー・環境会議のシナリオについて、数字は示されているものの、どのような社会を築いていこうとするのかビジョンが見えない、という指摘が京都大学大学院の植田和弘教授からありました。大切なのは、数字を選ぶことだけではなく、環境を破壊することなく経済成長が進むような経済構造や産業構造へ転換していくことだと述べたのです。

過去にも日本は、深刻な公害や石油ショックなどの危機に直面したことがありますが、危機をチャンスに変えて、乗り越えてきました。今回のエネルギーの問題についても、危機をチャンスに変えてイノベーション(技術革新)を果たし、グリーン成長を実現するような社会に転換していくという発想が大切であるとしました。

植田教授は、政府のシナリオには、それだけを見ても不明な点が多いことから、パブコメを出すとともに、政府にさらなる説明を求めていく必要性があると話されました。

高村教授も、地球温暖化を防ぐという世界全体の問題をどうすれば解決できるかという議論が、日本のエネルギー選択の際にも重要となってくるという大きな視点を示しました。

温暖化対策を強化したシナリオが必要

2012年6月29日に政府が示した3つのシナリオは、どれも温暖化対策が不十分で、温室効果ガスを大幅に削減するような内容をもったものではありません。

省エネをとっても、どのシナリオも一律にしてしまっており、電力で2010年に比べて約10%の削減、そして電力以外のエネルギー含む全エネルギーで約20%の削減としています。

これでは温暖化対策の重要なポイントである省エネの強度が選べません。もっと省エネの強度をあげる必要があります。とくに、電力以外のエネルギー消費の削減にもっと取り組めると考えます。

しばらくは火力発電に頼るにしても、1990年以降に日本の温室効果ガスの排出量を増やす原因となってきた石炭火力発電を減らし、CO2排出量が石炭よりも4割少ない天然ガスによる発電へと切り替えるべきです。再生可能エネルギーが主流となる前の移行期においては、石炭から天然ガスへとシフトさせることで温室効果ガスを減らすことができます。

WWFは、2011年以降にまとめたエネルギーシナリオですでに述べているように、2050年時点で自然エネルギー100%とし、原発からも化石燃料からも脱却すべきことを訴えています。そうすれば、原発事故の不安がなく、温室効果ガスが劇的に少なくなっている、とくに化石燃料からのCO2についてはゼロとなる社会が成立しているはずです。

WWFジャパンが示すエネルギーシナリオでは、温室効果ガスの排出量は2020年時点で25%減、2030年時点で53%減と推計しています。このように温室効果ガスを大幅に減らす道筋はあるのです。

京都議定書に代わる、すべての国を対象とした新たな法的枠組みが2015年までに決まり、2020年以降に発効することが、国連気候変動枠組条約の会議で議論されています。この議論に乗り遅れることなく、日本も国際社会における責務を果たすためにも、野心的な温暖化対策をまとめる必要があります。

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活発なパネルディスカッション

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植田和弘教授

2050年を見据えて、脱原発と大幅な省エネを実現し、自然エネルギーの導入拡大によって、もっと意欲的な温暖化対策を含んだ、より賢明なエネルギーのシナリオを政府がまとめる方向性もあるでしょう。

最後に、2012年8月12日まで政府が募集しているパブリックコメントに、ぜひこの日のシンポジウムに集まったみなさんにも意見提出していただきたいと、主催団体とパネリストは呼びかけました。

シンポジウム:地球温暖化から考えるエネルギーの選択 開催概要

日時 2012年7月22日(日) 13:00~16:30
内容 【基調講演】
1.地球温暖化は今どうなっているの?   
江守正多(国立環境研究所地球環境研究センター気候変動リスク評価研究室長)
2.温暖化問題の国際的な議論と、日本の責任は?
髙村ゆかり(名古屋大学大学院環境学研究科教授)
【パネルディスカッショ ン】
地球温暖化から考えるエネルギーの選択
*twitterや会場からの意見を交えて議論。
コーディネーター:
木原実 (日本テレビ「ニュースエブリイ」天気キャスター)
パネリスト:
植田和弘(京都大学大学院教授)
江守正多(国立環境研究所地球環境研究センター)
小西雅子(WWFジャパン)
髙村ゆかり(名古屋大学大学院教授)
平田仁子(気候ネットワーク)
船津寛和(環境エネルギー政策研究所)
場所 東京都 日比谷図書文化館
共催 気候ネットワーク、地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)、レインフォレスト・アクション・ネットワーク (RAN)日本代表部、オックスファム・ジャパン、WWFジャパン、グリーンピース・ジャパン、環境エネルギー政策研究所(ISEP)、FoE Japan
備考 Ustreamアーカイブ
http://www.ustream.tv/channel/wwfjapan-climatechange

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