緊急セミナーを開催!政府のエネルギー・環境に関する「選択肢」を問う
2012/07/06
2012年7月2日、WWFを含む9つの団体は、政府が設置する「エネルギー・環境会議」によって示された「エネルギー・環境に関する選択肢」に対して、その問題点を指摘し、広く発信する緊急セミナーを開催しました。ここで各団体は、「脱原発が、温暖化防止を犠牲にしなければできないような選択肢になっている」こと、また現状よりも原発を増やさない選択肢は、「実質的には「ゼロシナリオ」の一つしかないこと」を指摘しました。
「選択肢」では温暖化防止政策が後退
政府から「エネルギー・環境に関する選択肢」が提示されたのは、2012年6月29日のことです。政府は、8月上旬までにこの「選択肢」をもとにした「国民的議論」を行ない、8月には最終的な結論を出す、としています。日本の将来を左右するエネルギー政策の見直し作業が今、ひとつのヤマ場を迎えようとしているのです。
しかし、WWFを含む9団体は、この6月の提示よりも前に、今回の緊急セミナーを企画していました。なぜなら、どのような「選択肢」にするかの議論の過程で、すでにさまざまな問題点が、各方面から指摘されていたからです。
WWFをはじめ、地球温暖化防止に係わってきたNGOは、原発の扱いがどうなるのかに加えて、温暖化防止のための対策が大きく後退している点について、強い懸念を持っています。
そして、折しも、緊急セミナーの3日前に、「選択肢」が国民に対して提示されることとなりました。タイムリーな開催となったこのセミナーでは、各団体から、特に温暖化対策という観点で、提示された「選択肢」が抱える問題を指摘する内容となりました。
脱原発と温暖化防止は両立できる!
今回示された「選択肢」は3つ。それぞれ、2030年の発電電力量における原子力発電の割合を以下の%にするというものです。
- 0%にする(ゼロシナリオ)
- 15%にする(15シナリオ)
- 20~25%にする(20~25シナリオ)
また、再生可能エネルギーが電力に占める比率は、以下の通りとなっています。
- ゼロシナリオでは「35%」
- 15シナリオでは「30%」
- 20~25シナリオでは「30~25%」
また、省エネルギーの目標は、3つのシナリオすべてで(電力について2010年比で)「マイナス10%」と設定されています。
今回の緊急セミナーで各団体が指摘したのは、「脱原発をするには、温暖化防止を犠牲にしなければならないような選択肢になってしまっている」という点です。また、脱原発についても、現状よりも原発を増やさない選択肢は、実質的には「ゼロシナリオ」のひとつしかないことも指摘されました。
さらに、政府は「国民的議論をする」と言っているけれども、多くの人が議論に参加できる環境が整えられるのか、最終決定において、どこまで国民の声が活かされるのか、などがはっきり示されていなことも問題としてあげられました。
本当に選ぶべき選択肢とは?
政府が今回示した3つの選択肢は、「いずれも選ぶことはできない」というのが、各団体の一致した見解です。
会場からの質疑を交えた議論の中では「選択肢といわれると、多くの人は、この3つの中から一つを選ぶしかないのだ、と考えてしまう。しかし、そこまで囚われる必要はないのはないか」という声があがりました。
政府は、8月上旬までに、「選択肢」をもとにした「国民的議論」を行ない、8月中に最終的な結論を出す、としています。
この3つの選択肢を土台にして、本当に望ましい将来像はどのようなものなのか、そのためには何が必要なのかを、多くの国民が参加して議論する場が必要です。そこで出てきた声を新たな「選択肢」に反映するしくみもまた、求められています。
声明
【関連資料】各発表の内容
当日の発表を下記でご試聴いただけます。
「市民の視点から見た政府選択肢のポイント」
気候ネットワーク代表 浅岡美恵
3つの選択肢は、原発依存度の違いはあっても、再生可能エネルギーの導入量や、省エネルギーの目標に差がない。再生可能エネルギーへの切り替えや、省エネルギーを進めれば、脱原発と温暖化防止が両立できるはずだが、そういう選択ができない「選択肢」になっている。
「国際的な気候変動対策の流れ」
WWFジャパン 気候変動・エネルギー プロジェクトリーダー
小西雅子
原発への不安が高まる中、温暖化の進行を止めることより、原発を止めることのほうが先決、という声もある。ただ、温暖化もまた、各地で人の命や財産を脅かしつつある、まったなしの問題。昨今、異常気象が多発しているのも温暖化と無関係ではない。国際的には、削減の水準を引き上げようという議論がされていることもふまえるべき。
「温暖化対策にはなりえない原子力」
グリーンピースジャパン 気候変動・エネルギー担当
高田久代
3つの選択肢のうち、「ゼロシナリオ」以外は、原発を今より増やすものになっている。福島にある10基と、危険度が高いといわれる女川原発、浜岡原発を止め、築40年経ったものを廃炉にしていくと、2030年には、原発依存度は15%を下回る。つまり、「15シナリオ」ですら、原発を増設するという選択肢である。原発は、温暖化防止にとって、コストが高く、危険が多く、無駄な時間を使う対策でしかない。
「脱原発・脱化石燃料と気候変動」
気候ネットワーク 東京事務所所長 平田仁子
過去を振り返れば、原発が増える中で、CO2の排出量も増えてきたという事実が見えてくる。原発は、CO2削減に貢献するものではなく、むしろ、エネルギー多消費社会を作り、支えてきた。3つの選択肢は、脱原発だけでなく、脱化石燃料という考え方も入っていない。石炭を天然ガスへシフトさせるなどの案も、検討されているとはいえない。
「経済影響・産業としての自然エネ/省エネ」
CASA(地球環境と大気汚染を考える全国市民会議)理事
上園昌武
CASAが独自に開発した「CASA 2020モデル」による試算によって、省エネ対策などによるエネルギー需要量の削減と、脱原発、脱石炭、再生可能エネルギーの普及を図れば、2020年に、CO2排出量を1990年比で25%削減する可能性があることが示された。また、その際には経済への波及効果も期待できることがわかった。
「長期的な排出量削減とエネルギーシナリオ」
WWFジャパン 気候変動・エネルギーグループリーダー
山岸尚之
WWFは2011年、『脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案』を発表した。日本における省エネルギーの推進と、再生可能エネルギーの導入実現の可能性について、シミュレーション研究を行なっており、特に再生可能エネルギーの導入量については、「2030年に電力比率で63%が可能」という、かなり野心的な内容となっている。不可能だと断じることは簡単だが、今は、野心的な目標を持つことが必要ではないか。それによって喚起される社会的な効果もあるのでは。
緊急セミナー「政府のエネルギー・環境に関する「選択肢」を問う!」開催概要
日時 | 2012年7月2日(月) 15:00~17:30 |
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場所 | 参議院議員会館 101会議室 東京都千代田区永田町1-7-1 |
参加費 | 無料 |
共催 | 気候ネットワーク、地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)、レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表部(RAN)、オックスファム・ジャパン、コンサベーション・インターナショナル・ジャパン、グリーンピース・ジャパン、FoE Japan、環境エネルギー政策研究所(ISEP)、WWFジャパン環境エネルギー政策研究所(ISEP)、WWFジャパン |