密猟続く中部アフリカで高まるゾウ保護の機運
2012/09/11
象牙を狙ったアフリカゾウの密猟が、近年深刻化している中部アフリカのカメルーンで、保護のための対策が進められています。これは、2012年の初めに、一度に300頭ものアフリカゾウが殺される事件が発生した後、この地域で密猟根絶に対する意識が高まっていることを示すものです。困難な状況が続く中、密猟との戦いを続ける中部アフリカ諸国。その連携と、国際社会による協力のゆくえが注目されています。
国境を越えてやってくる密猟者たち
2012年8月12日、「ワールド・エレファント・デー(世界ゾウの日)」に合わせ、WWFは1月から2月にかけて、カメルーンで起きた大規模な密猟事件に取材した動画を公開しました。
中部アフリカで多発している、象牙を狙った密猟と違法取引の収束、そして、この地域のアフリカゾウの亜種マルミミゾウを絶滅種に仲間入りさせないよう、呼びかけることを目的としたものです。
この密猟はカメルーン北部にあるブバ・ンジダ(Bouba N'Djida)国立公園で発生しました。高性能の銃器を持つ密猟者が国境を越えてカメルーンへ侵入。300頭以上ものアフリカゾウを虐殺したのです。世界的にもメディアが注目した出来事となりました。
以来、カメルーン政府は、国立公園内の警備と監視を充実し、野生生物を密猟から守るために、国内の保護対策を強化。ブバ・ンジダ国立公園にも60名以上の保護官(パークレンジャー)を追加配備しました。
さらに、これからの5年間に、2,500名のレンジャーの追加採用を決定し、軍隊で訓練する予定です。
こうした取り組みが進む中、3月末には、カメルーン南部の保護区周辺で、WWFがサポートするパトロール隊の情報により12名の密猟者が逮捕され、14本の象牙と6つの火器、30キロのゾウの肉を没収しました。
また、6月末にも同じく南部で3名の密猟者を逮捕。6丁の新型銃器と264の罠を押収、密猟者のキャンプを撤去しました。
しかし、こうした努力と成果にもかかわらず、危機は払拭されていません。
近年の密猟者はさまざまな情勢に精通し、国境や大陸を越えたグローバルな動きを見せ、より悪質で大規模な犯罪を繰り返しているからです。
人の命と暮らしも犠牲に
また、こうした密猟者たちは、アジアの市場に象牙をもたらすため、毎年何万ものゾウを殺していますが、その犯罪の及ぶ範囲は、動物の密猟だけにとどまりません。
2012年6月24日、同じく中部アフリカのコンゴ民主共和国にあるオカピの保護区内で、自動小銃で武装した密猟団の襲撃により、2人のパークレンジャーを含む7人が殺されました。
さらに、密猟団はパトロールの詰所にも放火し、中の装備も破壊したため、その後の密猟も容易になりました。このまま放置すれば世界自然遺産の森からゾウが姿を消してしまう、とUNESCOは警告しています。
カメルーンでも7月下旬に再び、ブバ・ンジダ国立公園で、地元のコミュニティーが組織した、8人のレンジャーのグループを、武装した密猟者たちが襲撃。容疑者はその後、逮捕されましたが、レンジャーたちは武装しておらず、2人の重傷者を出しました。
密猟者の行動は、今や地域の住民や、保護にあたっているレンジャーたちも犠牲にしているのです。
密猟との戦いに打ち勝つために
カメルーン森林動物省のンゴレ・フィリップ・グウェセ大臣は最近、密猟対策の軍事トレーニングの現場を訪れ、新任のレンジャーたちに対し、次のように言いました。
「我々は、特にブバ・ンジダ国立公園でのゾウの虐殺のような密猟との戦い、そのための挑戦に取り組む上で、皆さんを頼りとしています。私たち全員が共に進もうとしている道のりを勝ち進んでゆくため、皆さんがフィールドに立つ日が待ちきれません。
あなた方は、国のために、カメルーンの価値ある財産の一つである生物多様性を守っている。そのことを、理解しなければなりません」
こうした軍隊を動員した警備や監視、密猟者の撃退は、同じくアフリカゾウの密猟被害が起きている、他の中部アフリカ諸国においても、共通した動き、課題となっています。
実際に7月末に、カメルーンの隣国チャドの南西部で、30頭のゾウが一晩で殺される事件が起きた時も、同国のイドリス・デビ大統領は、密猟者を捕えるため即座に軍隊を投入。全ての出国検査場で密猟者と密輸象牙の検査を行ないました。
カメルーンはこの6カ月の間に、さまざまな施策を実施してきましたが、他の国々もこれに続き、密猟者の襲撃が起きる前に、これを食い止めねばなりません。今の中部アフリカでは、どこの国、地域であっても、ブバ・ンジダ国立公園やチャド、コンゴ民主共和国で起きたような密猟が、起きてもおかしくはないからです。
求められる各国の協力と国際社会の支援
2012年6月、カメルーンをはじめとする、COMIFAC(中央アフリカ森林委員会)に加盟する10カ国は、アフリカゾウを含めた野生動物の密猟対策と、法律による取り締まりを強化する地域計画に署名しました。
この計画は、国同士が協力することで、警察、税関などの機能を大きく強化し、また国境付近にある保護地域を警備する合同パトロール隊を新設する意向を示すなど、保護に向けた新たな動きを見せています。
しかし、課題も多くあります。
地域への普及活動や、レンジャーなど人材の育成には、多くの知見と時間を必要とします。また、保護区の設定やそのインフラの整備、何より軍備増強は多額の出費につながるため、経済力の弱い国々にとって、途方もない負担になります。自国、または周辺国の協力だけで、グローバルな規模に発展している、密猟と違法取引(密輸)に対抗するのは、容易なことではありません。
すでに、自然保護、野生動物の保護問題だけにとどまらなくなった、中部アフリカの大規模な密猟。
今、この問題によって、アフリカゾウのみならず、人々の生活や仕事が危険にさらされています。そして、ゾウが殺されるたびに、生息地の国々は、貴重な生物多様性と、経済的な価値を失っています。
WWFは中部アフリカ諸国の政府に対し、象牙目的の密猟・密輸といった野生動物犯罪の取り締まり強化を求める一方、一部の国々でそのための支援に乗り出しました。
2012年8月には、野生生物取引を監視する国際ネットワークのTRAFFICと共同で、象牙、サイの角、トラの違法取引を抑止する国際キャンペーンを開始。2013年3月に、タイで開かれるワシントン条約の締約国会議に向け、より一層の法整備と実効性ある取り締まり強化に向けた取り組みを行なっています。
グローバル化する密猟と違法取引によって今、危機にさらされている野生生物の未来。それは、中部アフリカ諸国が挑む密猟との戦いを、国際社会がどれだけ理解し、支援できるかにかかっています。