2012年 国連気候変動バンコク会議
2012/08/28
2011年末に南アフリカ共和国のダーバンで開かれたCOP17において、京都議定書の第2約束期間が決定され、2015年には2020年以降の新しい枠組みが採択されることになりました。2012年5月のドイツ・ボンでの国連会合では、新枠組みを話し合うダーバンプラットフォーム作業部会(ADP)が立ち上がり、議論がスタート。8月30日からは、その作業部会会議が、タイのバンコクで開かれます。
2015年採択予定の新枠組みの議論・ドーハCOP18に向けて進展するか?
バンコクでの3つの会合
今回のバンコクでの気候変動に関する国連会議(バンコク特別作業部会会議:第1回ダーバンプラットフォーム特別作業部会&第17回京都議定書作業部会&第15回条約作業部会)は、2012年末のCOP18・COP/MOP8(第18回気候変動枠組条約会合と第8回京都議定書会議)に向けて最後の準備会合となるものです。
開催期間は、2012年8月30日~9月5日。
新しく立ち上がったダーバンプラットフォーム作業部会(以降ADP1という)の第1回目の続きと、第17回京都議定書特別作業部会(以降AWGKP17という)、それに第15回条約作業部会(以降AWGLCA15という)の3つの特別作業部会のインフォーマル会合が行なわれます。
3つの会合というとややこしく聞こえるのですが、要は
- ADP1:2015年採択予定の新しい枠組みの議論
- AWG KP:2013年以降の京都議定書の第2約束期間についての議論
- AWG LCA:(主に)2020年までの緩和・適応・資金等々の取り組み全般について議論
ということになります。
中でも一番の焦点は、新枠組みを議論するADPです。
前回5月のボン会議では、まず誰が議長となるかという"形"でおおもめにもめたのですが、一番こだわりを持っていたインドが共同議長のひとりとなることで決着しました。
今回のバンコク会議では、新枠組みの"中身"の議論を進めていくことが求められます。新枠組み作りの今後の作業計画をしっかり作り、アイデア出しを行ない、そして一番肝心な各国の削減目標の引上げの議論をいかに進めていけるか、2012年末のカタール・ドーハでのCOP18(11月26日~12月7日)を前に最後の準備会合となります。
WWFが注目するポイント
WWFが考える主な注目点は以下の4点です。
注目点1:各国の削減目標の引き上げを行なうことができるか?
気温上昇を産業革命前に比べて2度未満に抑えるためには、現在各国が2020年に向けて公表している削減目標では足りません。危険な温暖化を防ぐためには、今の削減目標を2倍の水準に引き上げる必要があります(現状の目標は先進国全体で1990年比12~18%→25~40%へ)。
その知恵を出し合い、いかに実現していけるかの手法について議論を進めていかなければなりません。議論の場はADPになりますが、2012年度はまず知恵の出し合いです。なるべく実現可能な道を探っていく必要があります。
また削減目標の引き上げは2020年目標に向けてと、2020年以降に効力を発する新枠組みの両方で必要です。その両方の議論を進めていかなければなりませんが、現状の交渉は錯綜しており、整理したうえで、両方を進めていくことが求められます。
注目点2:議論の場の整理について
今議論を進める場は、3つの特別作業部会に分かれています。
このうちAWGLCA、AWGKPは、2012年年末のドーハCOP18で終了させることが決まっていますが、まだ議論が終了していない論点をどうするかについて、しっかり合意する必要があります。
これは形式的な議論に思えますが、実は、先進国と途上国の深刻な対立を背景にしているのです。
1990年に採択された気候変動枠組み条約では、先進国と途上国の間に明確な差をつけており、「共通だが差異ある責任」原則に基いて、先進国だけに法的拘束力のある削減目標を課してきました。その差を反映して、AWGLCAとAWGKPという二つの場で議論が行なわれてきたのです。
ところが今では一部の途上国が急速に開発が進んで排出が増加しています。そのことを踏まえて、新たに新枠組では先進国と途上国の排出削減の取り組みの差を縮めていこうというのが、新しく立ち上がったADPでの議論ということになります。
そのため、歴史的な排出責任があり、かつ一人当たり排出量にまだ大きな差がある現実を踏まえて、途上国と先進国の差を強調したい途上国と、なるべく差を縮めたい先進国の間の対立が、この形の争いとなって現われてきているわけです。
先進国側は、差のついた議論を象徴している二つに分かれた特別作業部会をきっちり終わらせ、積み残した技術的なものだけ他の技術的な会合で話せばいいとしているのに対し、途上国側は、AWGLCAを継続させるか、大事な要素をADPに持ち込んで議論を続けたいという意向があり、話し合いは難航が予想されます。
しかし今最も求められているのは、すべての排出国がその責任に応じて大幅な削減を実現していくということ。その究極の目標を見据えて、最適解を求めていかなければなりません。
注意点3:「衡平性」の議論
インドがダーバンCOP17で最後まで最もこだわっていた先進国と途上国の間の衡平性。ボンSB36では、まず議長の選出という形で紛糾し、インド出身の議長が共同議長となりました。今回のバンコク会議では、1つの主要な議題として「衡平性」が提示されており、集中して議論がされることになっています。
そもそも条約は「共通だが差異ある責任」原則に基づきますが、ダーバンプラットフォーム合意にはこの「衡平性」や「共通だが差異ある責任」は文言が入りませんでした。この点がダーバンで紛糾した点でした。
しかしダーバンプラットフォームはそもそも気候変動枠組条約に基づくため、当然その「共通だが差異ある責任」原則に基づいているというのが、大半の見方であり、先進国の多くはそれを認めています。
しかし先進国側は「1990年に決めた先進国と途上国の差は、今では開発度は大きく変化しているから、責任も変わって当然」としているのに対し、特に急速に開発が進んでいる新興途上国は「歴史的な責任逃れをしようとしている先進国」と反発しているのです。これを背景として、「衡平性」の議論を集中して行うことになったわけです。
正直に言って「衡平性」のあり方は千差万別で、議論が収束へ向かうのは非常に大変だと思いますが、新たな枠組みにおける責任分担には不可欠な議論なので、日本も積極的に貢献していくべきです。
注目点4:日本の二国間オフセット制度の行方
日本は削減目標を達成するために、二国間で排出削減プロジェクトを行い、その削減分を日本の貢献分として移転する仕組みを提案しています。今までCDMなど国連主導の排出削減プロジェクトと違って、各国の裁量に任せる形のオフセットの仕組みが、国連によって認められるものになっていくかどうかというのも、今回の会議の焦点のひとつです。
なるべく環境十全性を重視したい欧州連合や小島嶼国連合などは、国連による中央管理システムを志向しているのに対し、分散されたシステムを志向する日本との対立が予想されます。こうしたオフセットの仕組みを認めるにあたって、国連の下で共通基準を作るかどうかが議論されていきます。
日本は共通基準を課されることは好まないのですが、国連の下において、目標達成としてのツールとしての認知は求めています。
今回のバンコク会議で結論がでるものではありませんが、ドーハCOP18に向けて注目する点の一つとなっています。
その他にも、オーストラリアが京都議定書第2約束期間に目標を持つかどうかなど注目点がありますが、WWFジャパンではスタッフを派遣して、会議全般の行方を追っていきます。
関連資料
■スクール・ドーハ配布資料(PDF形式)