気候変動に関する国連会議:2012年バンコク特別作業部会 報告


2012年8月30日~9月5日、タイのバンコクで気候変動に関する国連の特別作業部会会議が開かれました。今回のバンコク会議は、2012年末に予定されているドーハCOP18に向けた、最後の準備会合です。多くの課題を残しつつ、今回の会議では2020年以降の「新しい枠組み」に向けた議論が始まりました。

開かれた3つの作業部会

今回のバンコク会議は、2012年末にカタールのドーハで開かれる予定のCOP18(第18回気候変動枠組条約会合と第8回京都議定書会議)に向けた、最後の準備会合で、特に3つの作業部会のインフォーマル会合を柱として行なわれました。

1)ダーバン・プラットフォーム作業部会(ADP1)第1回目の続き
2)第17回京都議定書特別作業部会(AWGKP17)
3)第15回気候変動枠組み条約作業部会(AWGLCA15)

この3つの会議はそれぞれ、以下の内容を議論する場として開かれています。

1)ADP =2015年に採択予定の2020年以降の新しい枠組みについて
2)AWGKP =2013年以降の京都議定書の第2約束期間について
3)AWGLCA =2020年までの取り組みを中心とする諸論点について

やっと新枠組作りの中身の議論が進み始めた!

結論から言うと、新枠組作りのADPにおいては、やっと中身の議論が進み始めました。さまざまなアイデアが各国から出され、総じて前回、2012年5月にドイツのボンで開かれた会議の時よりも、建設的な議論が進みました。

2012年はまだ新枠組作りの議論が始まったばかりなので、まずは中身のアイデア出しと作業計画作りの年です。しかし作業計画作りは進まず、ドーハでのCOP18に持ち越されましたが、交渉ではなく、自由に意見が言えて質問ができるラウンドテーブル形式の効果もあって、各国が積極的に中身の提案をしてきたのが、一縷の明るい希望を持たせる結果となりました。

「衡平性」をめぐる対立

その中で、交渉の焦点となったのは、「足りない削減量をどのように埋めていけるか」という点です。中でも「衡平性」のあり方をめぐって先進国と途上国の意見が対立しました。

一番の焦点は、各国が提出している削減目標と、産業革命前に比べて2度未満に抑えるために必要な量との大きな差(ギガトン(10億トン単位)ギャップといわれる)をどうやって埋めていけるかです。

ADPの議論は、2020年に向けてギャップをいかに埋めていけるか(作業ストリーム2:「アンビション」と呼ばれる)、そして2020年以降の新しい枠組み作り(作業ストリーム1:「ビジョン」と呼ばれる)という二つの作業ストリームに分かれて、議論が進められました。

今回はこの二つに加えて、さらに途上国側が強く主張している「衡平性」(先進国と途上国の歴史的な排出責任を踏まえて、いかに排出削減の責任分担をし、途上国の適応や緩和を先進国が支援していくべきか)について特別に議論の場が設けられることになっていましたが、結局、上記の二つの作業ストリームにおいても、衡平性に関する意見が多く出されたため、わざわざ議論を分けても意味がないのではということで、取りやめられました。

ここからもわかるように、両方の作業ストリームにおいて、途上国側は、衡平性と共通だが差異ある責任原則を強く主張しており、先進国に削減目標の引き上げとより強い拘束力のあるルール、それに途上国への資金と技術援助を求めていました。

一方、先進国側は途上国にも応分の負担を求めて、共通のルールの下に入るようにと主張しており、いつもの対立の構図が見られました。

新枠組の中身はさまざまなアイデアが出てきているため、議長がノンペーパーの形で報告書をまとめ、ドーハCOP18で議論が継続されることになっています。

一方、京都議定書の第2約束期間の議論は先行き不透明

一方、京都議定書特別作業部会(AWGKP)と条約作業部会(AWGLCA)の二つは、非常に先行きが不透明になっています。

この2つの作業部会は、ADPの立ち上げとともに、2012年末で終了することが決まっています。しかし、スムーズに役割を終えて終了にこぎつけられるかどうかは、今の所未定です。

京都議定書の特別作業部会(AWGKP)は、意見の隔たりは大きいものの、各国の意見をオプションとしてまとめた議長ノートがインフォーマル(非公式)なものという位置づけで出されて、議論はドーハCOP18に先送られ、終了しました。

数値目標を持たない日本が、京都議定書の第2約束期間にもCDM(京都メカニズム)の活用を可能にしてほしいという日本の要求については、小島嶼国や低開発途上国グループなどから強い反対の声が上がりました。

小島嶼国は「第2約束期間に数値目標を持ち、京都議定書の暫定適用を受け入れた国だけがCDMを使える」とする案を提出しましたが、オーストラリアや欧州連合は「京都議定書の数値目標の有無にかかわらず使える」という意味の案を出しており、両案併記の形で、これも決定はドーハCOP18へ持ち越されました。

その他、京都議定書の改定に必要な作業は遅れており、不透明な状況ですが、バンコク会議では議長のインフォーマル(非公式)ノートで終了しました。

先進国と途上国の対立で混迷した条約の特別作業部会

条約作業部会(AWGLCA)については、先進国と途上国の対立が先鋭化しています。
そもそも条約作業部会は、2007年に策定された「バリ行動計画」に基づいて、先進国から途上国への支援の実施を主要な目的とする作業部会です。

その支援の宿題が終わらない限り「LCAは終了できない」とする途上国に対して、先進国は「ダーバン(COP17)での合意で決まったことだから、必ず終了するべき」として対立しています。

先進国には、1990年段階で決められた、先進国と途上国の「壁」を残す形の、京都議定書と気候変動枠組み条約の二つに分かれた作業部会(AWGKPとAWGLCA)は早く終了させ、先進国と途上国の壁を越えた新たなダーバン特別作業部会(ADP)で、今後の将来枠組みを話し合っていきたい、という強い願望がもともとあり、これを反映した対立の構図です。

こうした状況の中で、AWGLCA議長は、すべての論点について文書を作ることを、会議当初から指示しており、最後にまとめて「議長のインフォーマル(非公式)概要ノート」というタイトルの文書として出してきました。

「あくまでも正式な交渉文書案ではない」という位置づけですが、これに対しては、先進国・途上国両方から自らの主張が反映されていない、と不満が噴出していました。

しかし位置づけがインフォーマルな議長ノートということもあり、バンコク会議では大きな波乱はなく、終了しました。

ドーハCOP18においては、このAWGLCAの宿題をきっちり進展させて、その後の論点の話し合いの道を作り、無事に終了にこぎつけられるかどうかが、一番の対立点となりそうです。

日本が求める「二国間オフセット制度」の行方はドーハCOP18へ先送り

その他、日本が強く提案している「二国間オフセット制度」については、AWGLCAの『さまざまなフレームワーク』の中で話し合われました。

日本が、「オフセット制度のルール作りは各国の自由に任せるべきで、条約では何らかの原則だけを合意し、条約の下で報告していけばよい」と主張しているのに対し、小島嶼国や後発開発途上国グループなどは、「各国の裁量に任せる形のルールでは、厳格に真の削減につながらない制度になる可能性があるとして、オフセット制度は、条約が中央管理する形であるべき」と強く反対の声を上げています。

他の先進国は総じて日本の提案を受け入れる発言をしていますが、結論はドーハCOP18に持ち越されました。

ドーハCOP18へ向けて

今回のバンコク会議は、各国とも総じて中身の議論をはじめた会議となりました。
単にお互いに言いっぱなしで質問&回答にまでも至っていませんが、なんとか新しい枠組みに向かって前向きになったことは評価できます。

またこれは、前回のボンにおける補助機関会合が、ADPの立ち上げにあたって議長の選出やどのように議論を進めていくか、などの形式論に終始して終わってしまったことに比べれば、前進といえるでしょう。

しかし、会議の一番の焦点である、「温室効果ガスの削減量を、産業革命前に比べて気温上昇を2度未満に抑えるレベルに引き上げていく」ことについては、まだ議論の端緒についたばかりです。

2020年までの削減目標を引き上げ、その後に続く2020年以降の新たな枠組みにおいて、さらに大幅な削減約束に合意していくことに向けて、議論を加速していかなければなりません。

残された時間が少なくなってきている中、ドーハCOP18に向けて、日本は現在掲げている「2020年までに1990年比25%削減する」という目標を極力維持していくべきです。

またAWGLCAとAWGKPをスムーズに終了し、ADPでの新たな枠組み作りに集中していくためにも、日本は途上国への資金と技術援助に積極的に貢献し、世界の温暖化交渉へ寄与していってほしいと思います。

 

関連情報

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