速報!四国でのツキノワグマGPS追跡調査


四国のクマプロジェクトでは、2012年8月から9月にかけて、3頭のツキノワグマを捕獲。GPS首輪を装着し、山へと返しました。今後2年間にわたり、クマの行動を追跡する調査を行なっていきます。これはGPS(全地球測位システム)を使って、毎時間、クマがいる地理情報を蓄積していくもの。蓄積された情報は数カ月に一度、取り出すことができます。今回早速、取り出してみた情報から、興味深いクマの行動をうかがい知ることができました。

3頭のクマにGPS首輪を装着

四国地方のツキノワグマは、国内で最も絶滅が危惧されるツキノワグマの地域個体群です。徳島と高知にまたがる剣山(つるぎさん)山系に、十数頭から数十頭のみ生息していると推定され、環境省によって「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定されています。

WWFジャパンとNPO法人四国自然史科学研究センターは、2005年から共同で調査を実施してきましたが、2012年7月からは、新たなステージでのプロジェクトを開始しました。

その一つが、GPS(人工衛星を使った全地球測位システム)を用いたツキノワグマの追跡調査です。この調査では、今まで以上に詳細なデータの収集と蓄積が可能になります。四国では初めての試みであり、四国自然史科学研究センターの山田孝樹さんが中心となって展開しています。

2012年8月~9月、プロジェクト・チームは3頭のクマを捕獲。クマたちに、GPS首輪をつけて再び山へと帰しました。このGPS首輪は、人工衛星からの電波を一定の時間ごとに自動的に受信し、緯度、経度、高度などの情報を蓄積していくことができます。

今回の調査では、1時間ごとに電波を受信するように設定しました。首輪装着から約2ヵ月経った時点で、蓄積されたデータを取り出すことができました。このデータ取り出しには、GPS首輪を付けたクマにある程度の距離まで接近する必要があります。

3頭クマはすべてメスで、それぞれ「ショウコ」「ミズキ」「クルミ」の愛称がつけられていますが、ショウコは豪雨で崩れた林道の先に行っている様子で、なかなか接近することができません。一方、ミズキとクルミの2頭のデータは取り出すことに成功しました。

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<ショウコ>

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ツキノワグマが生息する四国の奥山

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四国自然史科学研究センターの山田孝樹さん。ドングリ調査を実施中。

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2頭のクマが約2ヵ月間でたどった軌跡。1時間毎に「クマが居た地点」を示している。
※クリックすると拡大します

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<ミズキ>

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<クルミ>

「クルミ」と「ミズキ」の行動が少しずつ明らかに

約2カ月分のデータを取り出すことができた2頭のクマ、「クルミ」と「ミズキ」の行動をまとめたものが、下にある2つの図です。上図がミズキ、下図がクルミのものです。

これは、ミズキとクルミがいつどこにいたかを点で示しています。前述のように、1時間毎にクマがいた地点を表示しています。それらの地点は4色に分けて表示しました。

  1. 濃い紫色 ⇒GPS首輪を付けてから2週間後から4週間後まで
  2. 青色    ⇒GPS首輪を付けてから4週間後から6週間後まで
  3. 濃い青色 ⇒GPS首輪を付けてから6週間後から8週間後まで

この2つの図には共通点があります。
まず、最初にクマが居た地点(濃い紫色)が散らばっている、ということです。これは、2頭のクマがあちこちを動き回っていたという証拠です。

その後、次第にクマが居た地点(青色や濃い青色)は、一定に集まっています。これは、2頭のクマが特定の場所に留まっていたという証拠です。

2頭のクマは、なぜこのような行動パターンを示したのでしょうか?

ミズキの1時間毎の行動を表した図(9月15日から11月2日まで)※なお、ピンク色の地点は、GPS首輪をクマに付ける前に測位されたものである。

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クルミの1時間毎の行動を表した図(9月1日から10月6日まで)

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なお、図が少々見づらいかもしれませんが、これは貴重な四国のツキノワグマの保全をするため、公開する情報を限定した結果です。ご了承ください。いずれの図も国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」を利用

ドングリ調査から予測されるクマの行動

山田さんは、その原因を次のように推測しています。

「最初は、食物を探して動き回っていたのでしょう。この時期には、まだドングリが実っていなかったので、あちこちに散らばっている植物の実を探すために移動を繰り返していたのだと思います。
その後、ドングリが実るようになると、まとまってドングリがある森を見つけて、集中的にその森を利用していた(ドングリをひたすら食べていた)のだと考えられます」

もちろん、これは少ない情報からの推測で、今後より詳細に解析・検証していく必要がありますが、山田さんがこのように推測するには理由があります。

現在、この追跡調査と同時に、山林のドングリの実りの調査を行なっていますが、この調査からの情報と合わせたところ、次の事がわかりました。

すなわち、2頭のクマが特定の場所に留まった時期、その場所には、ドングリがちゃんと実っていたのです。このことを山田さんは、ドングリ調査で得られた情報から把握していました。

山田さんは、2012年の秋、四国剣山山系のドングリの実りは悪くない、むしろ良いくらいだ、との感触を得ています。本州では、ドングリの実りが悪い、あるいは良くない地域が多く、食物不足に端を発するクマの人里への出没が心配されていましたが、ここ四国ではまた異なる独特の状況があるようです。

もう1頭のクマ「ショウコ」についても、新しい情報が入りました。
ショウコは、GPS首輪を付けてから2カ月後に再び捕獲檻で捕まったのですが、そのわずか2カ月の間に、見るからに丸々と肥えていたのです。これは、ドングリをたっぷり食べて太ったものだと考えられます。

このように、プロジェクトでは早くも、GPSを使ったクマの追跡調査とドングリ調査の相乗効果が見え始めています。まだまだ始まったばかりで、得られたデータもわずか。解析もこれからですが、今後の展開が期待されます。どのような発見があるのか、またご報告いたします。

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ブナの実。毛が生えた殻の中には蕎麦の実に似た形の
実(果実)が2個入っています。

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ミズナラの実。
多くの人がイメージする「ドングリ」。

 

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