四国発、装着完了! 3頭のクマにGPS首輪を付けました!
2012/10/19
2012年8月の終わり、四国の剣山山系で3頭のツキノワグマが捕獲されました。これは、生息数十数頭といわれる、四国のツキノワグマの行動を、GPS(全地球測位システム)を利用した調査を通じて調べるため、捕獲を試みていたものです。3頭のクマはいずれも健康状態がよく、無事に調査用の首輪を装着して、山へと帰されました。これから2年間、クマたちの行動をより詳細に追跡する調査が始まります。
絶滅が危惧される四国のツキノワグマ
四国地方のツキノワグマは、国内で最も絶滅が危惧されるツキノワグマの地域個体群です。徳島と高知にまたがる剣山山系に、十数頭から数十頭のみ生息していると推定され、環境省によって「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定されています。
それにもかかわらず、保護のために必要な情報は限られ、有効な対策が十分に取られてきませんでした。そこで、NPO法人四国自然史科学研究センターは、2002年からクマの基礎的な生態調査を開始。2005年からはWWFジャパンもこの調査を支援してきました。
2012年7月からは、より詳細なデータの収集と蓄積をめざし、新たなプロジェクト「四国地方ツキノワグマ地域個体群絶滅回避のための総合調査」を共同で開始しました。その中でも、重要な調査がGPS(人工衛星を使った全地球測位システム)を用いたツキノワグマの追跡調査です。この調査は、四国では初めての試みであり、四国自然史科学研究センターの山田孝樹さんが中心となって展開しています。
従来の追跡調査の限界
クマの行動範囲や行動パターンを知ることは、クマの保護管理を行なう上でとても重要な基礎情報です。
従来の追跡調査では、ラジオテレメトリー法が用いられていました。
これは、クマに電波発信機をつけ、その発信機からの電波を複数の地点で受信しながら、クマの位置を確定していくものです。
四国のクマは主に標高1,000m以上の奥山で行動しています。そのクマから発信される電波を追跡するには、大変な労力がかかります。この調査方法だと、数日ごとに1回、おおよその位置を把握することしかできませんでした。
それでも、追跡調査をコツコツと積み重ね、2005年から3年間かけて、5頭のクマの行動圏を把握することに成功しました。その一方、行動圏は把握できても、それ以上の情報を得ようとすると、数日ごとにおおよその位置情報しかわからない従来のラジオテレメトリー法では限界があったのです。
GPSによる追跡調査
そこで、今回のプロジェクトで導入したのが、GPS(人工衛星を使った全地球測位システム)です。
従来の電波発信機の代わりにGPSロガーをクマに取り付け、その行動を記録するもの。GPSロガーとは、人工衛星からの電波を一定の時間ごとに自動的に受信し、緯度、経度、高度などの情報を蓄積していく装置です。
今回の調査では、1時間ごとに電波を受信するように設定します。クマは電波障害の多い奥山を移動しますので、100%の割合で電波を受信できるとは限りませんが、上手くいけば、1時間ごとにクマがどこにいたのか、正確な情報を得ることができるのです。
さらに今回の調査では、GPSと共にクマの活動量を計測する装置「アクティビティ・センサー」も使用します。これらの装置は首輪と一体になっていて、その首輪をクマに装着します。
アクティビティ・センサーは、私たちが日常使う万歩計と同じ原理になっていて、装置に振動が加わると、その回数をカウントします。つまり、クマの首輪が揺られた回数を知ることで、その時間にクマがどのくらい活発に活動していたかを知ることができるのです。
調査を待ち受ける困難
しかし、こうした技術面での向上があるにしても、調査にはさまざまな困難が待ち受けていました。
一つは気候です。
四国の太平洋側は、雨量が多いことで知られています。太平洋から水分を運んできた空気は、四国山地にぶつかり、そこで雲となり雨を降らせるのです。
確認されているツキノワグマの主要生息域であり、四国第二の高峰である剣山(標高1,955m)もまさしくそのような場所。
しかも、調査地は剣山山系の南東にあたり、最も雨量が多い場所です。年間降水量は3,000mmを超え(全国平均の約2倍)、夏を中心にしばしば集中豪雨にも見舞われます。
四国のクマの主な生息地は、その標高1,000メートル以上の奥山。
調査には、舗装をしていない林道を移動します。その林道が、集中豪雨によってしばしば崩壊するのです。2012年も6~7カ所、林道が崩壊、しかも同じ場所がたびたび崩壊しました。そのため、調査のスケジュールが大幅に遅れました。
二つ目の困難は、実際にクマが捕獲できるかどうか、という調査の基本にかかわる課題です。
高性能の調査用の首輪も、クマが捕まらなければ装着することができません。
そこで、ドラム缶をつなぎ合わせたクマ専用の捕獲オリを設置。2011年まで使用していた捕獲オリが6基あり、2012年はさらに新しく5基を追加して、合計9カ所に11基の捕獲オリを設置しました。
ところが、悪天候で林道が崩壊すると捕獲オリを設置した場所に、すぐに駆けつけることができません。捕獲オリに入ったクマを長時間放置しておくわけにはいきませんから、確実に林道が通れる期間を見越して、設置したオリのふたを開け、クマが中に入れるよう実際に稼働させなければならないのです。
ただでさえ生息数が少ない四国のクマ。クマはそう簡単に捕まるものではありません。
「いつ、どこの捕獲オリを稼働させるか?」山田さんの悩む日々がつづきました。
捕獲成功!「今年はフィーバーです!」
さまざまなトラブルが重なって、結局、捕獲オリを稼働させて調査を開始したのは、2012年8月の下旬のことでした。
今までにクマが捕獲された時期は、7月下旬~8月上旬、そして8月下旬~9月上旬の、大きく2回でしたから、今回の捕獲作業では、すでに最初の時期を逃してしまったことになります。
しかも、これでクマが捕まらなければ、翌年の夏まで追跡調査はできず、1年間を棒に振ることになります。
オリを稼働させて、クマを待つこと数週間。クマは捕まりません。不安が募り始めて久しい8月31日、ついに山田さんから一報が入りました。
「クマが捕まりました!」
捕まった四国のツキノワグマ
その後は、9月5日、そして9月14日と、立て続けにクマ捕獲の知らせが届きました。結果的に、調査では3頭のクマを捕獲することができたのです。
年間3頭の捕獲数は、四国自然史科学センターが、四国でツキノワグマの追跡調査を始めてから最多となる数字です。
この状況に、山田さんが思わず発した言葉は、「今年はフィーバーです!!」。
当初の心配はどこへやら、うれしい悲鳴を上げることになりました。
名前(愛称) | 性別 | 推定年齢 | 頭胴長 | 体重 |
---|---|---|---|---|
新規個体 | メス | 4~5歳 | 115cm | 45kg |
ショウコ | メス | 12歳 | 115cm | 52kg |
新規個体 | メス | 6~7歳 | 116cm | 55kg |
「ショウコ」は2005年に捕獲され、それ以降ラジオテレメトリー法によって追跡調査をしてきた「顔なじみ」のクマです。2006年の冬には越冬穴で仔グマを出産していることも確認されました。
しかし、今回の調査では初めて捕獲に成功した「新規個体」のクマが2頭も含まれていました。
どちらも、自動カメラを使った調査でその姿は確認されていましたが、そのうちの1頭は、捕獲時の体重が四国で今まで捕獲されてきたメスグマの中では一番重い個体でした。山田さんは、以前撮影された写真を見ていた時から「太っていて状態が良いクマだな」と思っていたそうです。
実際に捕獲の確認にオリを見回った時にも、非常におとなしく、本当に入っているのか心配になったとのこと。でも、近づいて覗くと声が聞こえ動き出したので、無事に入っていると安心したそうです。
この3頭は捕獲後、無事にアクティビティ・センサーとGPS付き首輪の装着を終え、再び山中へ放されました。
GPSを使ったクマの調査は順調なスタートを切りました。
これから2年間に渡って、彼女たちの行動を追跡していきます。なお、GPSロガーに蓄積された情報は、数か月に1度、送信されてきます。新たな情報が明らかになりましたら、あらためてお知らせする予定です。
調査にご協力いただく3頭のクマの顔ぶれと、彼女たちの「月の輪模様」。ツキノワグマの「月の輪模様」はクマによって異なり、そのクマ固有のものです。
クマ「ショウコ」の捕獲から首輪装着の様子は、こちらの動画でご覧いただけます。
動画提供:四国自然史科学研究センター