ICCAT会議はじまる:問われる大西洋クロマグロの資源管理
2013/11/18
2013年11月18日~25日、ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)の年次会合が、南アフリカのケープタウンで開かれます。クロマグロの将来を決める各国の漁獲割当量と、漁業管理の方策について、どのような議論が行なわれ、決定がなされるのか。世界の注目が集まります。WWFはICCATに対し、科学委員会の警告を尊重して、漁獲割当量を現状維持するべきことを求めています。
注目されてきた大西洋の「本まぐろ」
地中海の海の生態系の象徴種ともいうべき大型魚、大西洋クロマグロ。
「本まぐろ」とも呼ばれるこの大西洋クロマグロは、世界で最も商用価値が高い魚の一種でもあり、地中海は特にその主要な産卵海域として知られています。
しかし、過去数十年の間に、大西洋クロマグロはこの地中海で、深刻な過剰漁獲に見舞われてきました。
生息海域では違法漁業も蔓延。「安くておいしいマグロ」としての需要が、資源の乱獲を招いたのです。
地中海沿岸では、古くからマグロ漁業が行なわれてきた歴史があり、その伝統的な漁業の限りにおいては、資源が枯渇する懸念はありませんでした。
状況が変わったのは、1990年代に始まった、「畜養」という新たな養殖産業の拡大です。
「蓄養」は、漁獲したマグロを生け簀に放って太らせ、出荷するものです。これが十分な管理監督のなされないまま盛んになったことから、日本をはじめとする世界の市場で大型マグロの需給が増大。
高度で巨大な巻き網漁船団がいくつもつくられ、マグロの産卵域までをも含めた地中海全体に漁獲の網が広げられるようになりました。
この結果、大西洋クロマグロはきわめて急激な過剰漁獲の道をたどることになります。
始まった大西洋クロマグロの回復計画
この海域のマグロ資源問題に取り組む国際機関ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)では、長年にわたり、各国によるクロマグロの漁獲規制と、そのためのルールの合意が話し合われてきました。
しかし、ICCATの科学委員会が毎年のようにマグロの資源状況について、警告を発し続けてきたにもかかわらず、ICCAT加盟各国は常に、持続可能な漁獲量を上回る規模で漁獲割当(漁獲してよいとされる量)を求め、ICCATもそれを認めてきました。
この傾向が2012年、ついに転換されました。
ICCATの会合で、各国はついに「科学的な資源情報に基づき」1年間の漁獲割当量について合意する、という初めての大きな進展を見せたのです。
2013年11月18日~25日、南アフリカのケープタウンで開かれる、第23回ICCAT年次会合では、この2012年に合意された各国の漁獲割当量がどうなるか、注目されます。
2012年の合意による、漁業管理の強化と漁獲割当量の削減は、わずかながらも、東部大西洋と地中海においてクロマグロ資源に回復の傾向をもたらしました。
このことから、WWFではICCATが主導するクロマグロの回復計画を、継続し、推進してゆくためにも、今回の会議で漁獲割当量を増加させるべきではないと考えています。
実際、ICCATの科学委員会も、現在の各国の漁獲割当量を大きく変更することには否定的で、今回も2012年と同じ「13,400トン」に維持すべきとしており、現行のマグロ漁船の漁獲能力が、この割当量を優に超えることに懸念を示しています。
科学的な評価に基づいた管理の徹底を
科学委員会がICCATに対して行なっている提言は、2012年に東部大西洋と地中海で実施された、大西洋クロマグロの資源評価に基づいたものです。
こうしたクロマグロの新たな資源評価は2013年には行なわれていません。
しかし、WWF地中海漁業プログラムのリーダー、セルジ・トゥデラは、「ICCATの科学委員会が、新しい資源評価を実行するまでは、各国は現状の管理方針を厳しく守り、回復の傾向を確実なものとしていくべきだ」と述べ、WWFとしてICCATに対し、割当量を増加させないよう求める姿勢を明らかに示しました。
また、問題は漁獲割当量だけではありません。
マグロ漁業の管理における「抜け穴」の問題が、まだ多く残されています。
その一つが、「養殖クロマグロのトレーサビリティー」です。
WWFは最近行なった研究報告の中で、現行のICCATの漁獲証明制度(BCD)では、蓄養されて育ったマグロの生産地と、蓄養のために漁獲された若いマグロの体重を把握するのが困難であることを指摘しました。
このことは、実際に漁獲され、蓄養されたマグロの数量が正確に記載されない可能性と、割当量を超えた漁獲が行なわれる可能性を示しています。
また、これに連動して、過剰な漁獲を行なっているマグロ漁船への対応も欠かせません。
現在取り組まれているマグロ資源の回復計画を、地中海および東部大西洋で成功させるためには、こうした漁業の現場が抱える問題を解消しつつ、各国が2012年の水準に抑えた漁獲割当量を、2013年の会議においても合意することが必要です。
この合意は、2022年までにICCATが目指している、大西洋のクロマグロ資源の完全な回復にもつながるものでもあります。
そして、現在より深刻な資源の危機が懸念されている太平洋クロマグロの資源を、今後沿岸国がどのように管理、利用していくかについても、大きな示唆を与えるものとなるでしょう。
ICCATに対するWWFの要望(2013年11月)
・各国の漁獲割当量を2013年水準以下とすること
・実際の漁獲能力を漁獲が許される水準まで引き下げるため、現行の漁獲能力の削減計画を評価し、強化すること
・巻き網船団による漁獲と、養殖(蓄養)に回されるマグロの定量評価とトレーサビリティーをすみやかに改善すること
・ICCATの科学委員会が実施する2015年の資源評価の信頼性と確実性を高めるために、新たな手法の開発と、データの収集をサポートすること
【2013年11月29日 追記】
ICCAT閉幕:各国は科学委員会の勧告を順守
2013年11月25日、南アフリカのケープタウンで開かれていたICCAT(大西洋マグロ類保存委員会)の第23回年次会合が閉幕しました。
この会議において、参加各国は科学委員会の警告を尊重し、2014年からの大西洋および地中海のクロマグロの漁獲割当量を、年間13,400トンとすることに合意。WWFはこれを歓迎する声明を発表しました。
この13,400トンという数字は、枯渇が懸念されるほどに減少傾向をたどっていた大西洋のクロマグロ資源を、回復に転じ、持続可能なレベルに戻すことができる可能性が十分に高いことを、科学委員会が指摘した漁獲量です。
「WWFは、大西洋・地中海における大西洋クロマグロについて、科学を順守した漁獲割当量が設定されたことを歓迎します。これはICCATの信頼性を高める意味でもよいサインとなりました」(WWF地中海プログラムオフィス水産プログラム代表:セルジ・トゥデラ博士)
しかしながら、まだ大きな懸念事項は残されています。
2012年は、ICCATが科学委員会の勧告に従って、大西洋クロマグロ漁獲割当量を13,400トンとした初めての年となりましたが、2013年の今回の会議では、早々にいくつかの国が「漁獲割当量を増やしたい」という、提案を行なったのです。
2013年には新しい資源評価が行なわれていないため、資源の確かな回復状況が確認できていないにも関わらず、こうした科学委員会の勧告を無視する提案が行なわれた形となります。
結果として、漁獲割当量を増加させる提案は棄却されましたが、こうした一部の国の姿勢は、今後のマグロの資源管理を、再び非持続可能な方向へいざないかねません。
未報告という「抜け穴」をふさぐ
WWFはまた、今回のICCATの会合に際して、「マグロ蓄養現場におけるトレーサビリティの欠如」という重要な事案を提示しました。
WWFは、2013年にまとめた報告書「地中海における蓄養マグロの成長率」において、地中海でいまだに「未報告」のマグロ漁獲が行なわれている可能性を指摘。ICCAT加盟諸国に対し、至急、技術的な解決策を示すよう求めました。
この「未報告」のマグロ漁獲は、主に蓄養のために行なわれているとみられています。
そして、この事実が「蓄養」を最もコントロールが出来ていない、クロマグロをめぐるビジネス領域の一つにする原因になっています。そのことをWWFは長年にわたり訴えてきました。
今回、WWFが行なった提議の結果、会合では、この未報告の漁獲という、漁業管理の「抜け穴」をふさぐために、ビデオカメラを用いた調査手法が採用されることとなりました。
実際、これまでに行われた、地中海の蓄養現場におけるビデオカメラを使った調査で、未報告のクロマグロが見つかったとされており、懸念すべき事態が続いています。
重要な年となる2014年
地中海および東部太平洋で、新たな資源評価が行なわれる2014年は、大西洋クロマグロにとってきわめて重要な年となるでしょう。
ICCAT科学委員会は今回、「資源評価のためには、ICCAT加盟国からのより多くの支援が必要不可欠である」と呼び掛けました。
こうした大きなビジネスに直結している漁業資源の管理と、持続可能な漁業の実現をめざした取り組みは、大西洋や地中海に限ったものではありません。
WWFジャパン水産プロジェクトリーダーの山内愛子は、
「資源の回復基調が確認されたとはいえ、大西洋クロマグロ資源はまだ確実な回復の途上にあり、資源枯渇のリスクはいまだに大きいです。同じく深刻な資源悪化が問題となっている、太平洋クロマグロもあわせ、船から食卓までを結ぶマグロのトレーサビリティ確保を急ぐなど、日本の流通関係者は責任あるクロマグロ資源利用に真摯に取り組むべきです」と述べています。