映像で捉えた!四国のツキノワグマ親子の記録(動画あり)
2014/02/05
2013年5月、その生息数が十数頭ともいわれる四国のツキノワグマの親子の姿が、初めて動画で撮影されました。また同年10月、別の場所に設置されていた自動カメラでも、同じ親子グマが撮影され、仔グマが元気に成長していることが確認されました。2012年9月から母グマにGPS首輪を装着して行なってきた追跡調査の結果と、現時点で最新となる2013年のデータをもとに、確認された親子グマの様子をご報告します。
5月、冬眠穴での動画撮影に成功
WWFとNPO法人四国自然史科学研究センターが、共同で進めている四国のクマの保護調査活動では、2012年9月からGPS付きの首輪を付け、追跡調査をしている一頭のメスのツキノワグマがいます。
愛称は「ショウコ」。
2013年3月下旬には、三度にわたるチャレンジを経て、冬眠穴を発見しました。そこは、高知県と徳島県にまたがる剣山山系の、標高約1,020mの南東向きの斜面でした。
調査スタッフは、渓谷を挟んで200メートル以上離れた距離から、冬眠を妨害せずにその様子を観察。冬眠から覚めて行動を開始する姿を撮影するべく、35日間にわたり、観察を続けました。
その結果、ショウコが2頭の仔グマを出産していることが判明。4月から5月にかけて、親子の姿を捉えた動画の撮影にも成功しました。
ツキノワグマは冬眠中の1~2月頃に出産します。
ショウコも2013年の冬期に出産していたとみられ、特に5月6日に撮影された映像には、2頭の仔グマの姿が鮮明に捉えられていました。
これは、四国でツキノワグマの親子を、映像で捉えた初めての例となり、絶滅寸前といわれる四国のツキノワグマ個体群が、確実に繁殖していることを示す貴重な資料となりました。
10月、再び国有林内の自動カメラで確認
5月12日、ショウコ親子が冬眠穴を出たことが確認されましたが、その後2か月程は、冬眠穴のある南東向きの斜面から動く様子が見られず、調査チームも接近できませんでした。
そこで、斜面から移動する際のルートを予測し、自動撮影カメラを設置しましたが、とうとう親子の姿を撮影することはできませんでした。
母グマのショウコに装着したGPS首輪からは、数か月に1度、GPSデータを取り出しており、その行動を確認することができます。しかし、仔グマと一緒にいるのか、ということまでは確認できません。
仔グマが無事に成長していれば、母グマと一緒に行動をしているはずですが、その確認は容易ではありませんでした。
ところが、2013年10月23日の夜、林野庁の四国森林管理局が設置した、ツキノワグマ調査用の自動撮影カメラが、この親子グマの姿を捉えました。それは、まぎれもなくショウコ親子の姿でした。
今回、四国森林管理局にその動画をお借りすることができました。
画面手前に映っているのが成長した2頭の仔グマ、画面奥に映っているのが母グマであるショウコです。なお、画面に映っている有刺鉄線は、ヘアトラップ調査によるものです(ヘアトラップについては後述)。
四国森林管理局とツキノワグマ調査
林野庁の地方支部局である四国森林管理局では現在、貴重な四国のツキノワグマを絶滅させないために、関係機関と連携して調査を行ない、ツキノワグマの生態を踏まえた保護対策を積極的に検討しています。
この中には、新たな保護林の設定や緑の回廊の拡充など、具体的かつ効果の期待できる対策が多く含まれています。
今回、ショウコ親子が確認できたのも、この保護対策の一環として同局が実施しているヘアトラップ調査で撮影された動画でした。
ヘアトラップとは、クマの体毛を取るための仕掛けです。
周囲の樹木を利用して、有刺鉄線(バラ線)を張り、その中心にクマをおびき寄せるエサ(この場合はハチミツを入れた容器)を吊るします。
そして、クマが、おとりのエサを食べようと、有刺鉄線をくぐる、あるいは乗り越えると、有刺鉄線に体毛が引っかかる仕組みです。
その体毛を採取し、分析すると、毛根に含まれるDNAからさまざまな情報を得ることができます。
これまでの調査データと照合することにより、血縁関係などを推定することができるかもしれません。
さらに、このヘアトラップ調査では、赤外線センサーのついた自動撮影カメラを併設し、姿を見せた動物を写すことで、より多くの情報を得る工夫がなされています。
その自動撮影カメラに映っていたのが、今回のショウコ親子の映像でした。
場所は国有林にある「緑の回廊」、つまりクマなど野生動物の生息地をつなぐために設置された保護林ネットワークの中で、仔グマが元気よく相撲を取って遊ぶその姿からは、健やかな成長ぶりがうかがえました。
GPSデータが示す母グマの行動
冬眠中に産まれた仔グマは通常、約1年半母グマと行動を共にします。
つまり、生まれた年の冬(0歳時)と翌年の冬(1歳時)の2回、母グマと一緒に冬眠し、それが過ぎた夏頃に親離れしていくのです。
母グマであるショウコについては、現在までにGPS首輪に蓄積された5月1日から10月10日までのデータが、2013年の最新情報として入手できています。
そのGPSデータをもとに、剣山山中でショウコがいた場所を月別に色分けしてみると、この期間ショウコが2頭の仔グマと一緒に行動していた可能性が、とても高いことがわかりました。
プロジェクトのパートナーで、この調査を中心的に推進している四国自然史科学研究センターの山田孝樹さんは、次のように話しています。
「5月、6月の2カ月間、冬眠地周辺の狭い範囲に居ることがわかります。仔グマがまだ小さいので動く範囲が狭いのかなという感じがします。
その後、7月になると行動範囲が広がり、昨年もよく利用していた地域に移動していきます。8月は2012年からよく利用していた地域で移動、滞在を繰り返していました。
9月になると行動範囲が拡大し、広い範囲を移動しています。液果(ヤマブドウのような果実)などを探して、広い範囲を動いているのかもしれません。
10月になると動く範囲が狭まっているようです。シードトラップ調査の結果によると、堅果(ドングリ)の成熟・落下は10月に多いので、集中的に堅果を食べ出しているのかもしれません。ただし、10月は10日間だけのデータなので、たまたまそのような結果になっただけかもしれません」
希少な野生生物を保護してゆくためには、その生態や行動範囲を、詳しくつかみ、生息域の景観を含めた保全の取り組みを進めることが必要とされます。
ショウコ親子が提供してくれるさまざまな情報は、個体数の極めて少ない四国のツキノワグマを保護する上で、大きく役にたつものです。
現在のところ入手しているのは、2013年10月10日までのデータですが、今後、それ以降のデータが入手できた際には、また改めてご報告いたします。