2014年 IATTC会合 96%減少した太平洋クロマグロの未来


南米ペルーのリマで、全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)の会合が始まりました。これまでに資源量が96%も減少したとみられている、太平洋クロマグロ(本まぐろ)資源が今後どうなるのか。保全のための漁業管理の早急な導入に、果たして参加各国は合意できるのか。日本がその8割以上を消費している太平洋クロマグロ。その未来を決める会議のゆくえに注目します。(2014年8月11日 会議報告を追記)

資源枯渇の危機にある太平洋クロマグロ

2014年7月14日より18日まで、ペルーのリマで、21の国とEUヨーロッパ連合が加盟するIATTC(全米熱帯まぐろ類委員会)の第87回年次会合が開催されています。

注目されるのは、世界全体の生産量の80%以上を日本が消費している、太平洋クロマグロ(本まぐろ)の管理措置について。

その資源量は、漁業が始まる以前の推定初期親魚量に対し、96%も減少したとみられており、保全のための漁業管理の早急な強化が求められています。

こうした状況の中、IATTCは2013年に、各国による太平洋クロマグロの2014年の商業的漁獲量を、「5000トン以内」にすることに合意。

しかし、国際的な科学委員会であるISC(International Scientific Committee:資源評価機関)は、それでも対応が不十分であるとして、今回のIATTCの会議開催にあたり、資源回復のため、これまでの合意のほぼ半分にあたる「2,750トン」という漁獲枠に各国が合意すべきことを勧告しています。

これは、太平洋東部を管轄するこのIATTCだけでなく、2014年12月に会議が開かれる、中西部を管轄するWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の会合でも、同じく指摘されており、9月の北小委員会で中心的な議題となります。太平洋クロマグロの漁業管理の取り組む、2つの国際機関の協働が強く求められています。

メキシコで養殖(蓄養)される太平洋クロマグロ。
マグロは卵から育てる完全養殖がまだほとんど普及しておらず、未成魚をつかまえて生け簀で育てる「蓄養」と呼ばれる養殖が一般的に広く行なわれている。この方法は結局、自然の資源に依存するため、蓄養マグロを増やしても、天然資源の保護にはつながらない。

 

世界のマグロ資源管理にかかわる国際機関。
海域や魚種によって管轄が異なる。くわしく見る

持続可能な太平洋クロマグロ漁の未来は見えるか

今回のIATTC会議の開催にあたっては、参加しているWWFも、クロマグロ漁を長期的に持続可能なものとするためには、各国がISCの科学的評価に基づいた漁獲量の削減勧告に従う必要がある、と指摘。

同時に、太平洋クロマグロの幼魚を保護するための厳重な管理措置にも合意するよう訴えています。

これは、主な太平洋クロマグロの漁業国である、日本、メキシコ、アメリカ、韓国といった国々で、現在漁獲されている太平洋クロマグロの約90%が、産卵可能な年齢に達する前の未成魚であることを受けたものです。

実際、こうした若齢魚がメジ、ヨコワといった、クロマグロとは異なった名称でも流通し、市場に安価なマグロを供給する一方で、資源を圧迫する要因の一つとなっています。

さらにWWFグローバル漁業イニシアチブ東太平洋マグロ類コーディネーターのパブロ・ギェレロは、東太平洋で操業しているマグロ漁船が、資源量に対して明らかに多いことを指摘。これが、「経済的なパフォーマンスを下げ、主なマグロ資源の過剰漁獲を招いている」と、強く警鐘をならしています。

この他にも、今回のIATTC会議では、クロトガリザメの東太平洋における資源を回復させるための保全措置や、海上でサメのヒレ(フカヒレ)を切り取る事の禁止、巻き網漁業におけるマンタ(オニイトマキエイ)の取扱いについても、科学的勧告に従った管理と合意が求められる見込みで、各国の漁業に対する姿勢と取り組みが注目されます。

太平洋クロマグロ、競りの様子

関連情報


【2014年8月11日 追記:会議報告】

IATTCは太平洋クロマグロの管理措置を先送り

2014年7月18日、ペルーのリマで開催されていたIATTC(全米熱帯まぐろ委員会)の第87回年次会合が閉幕しました。危機的な資源状況にある太平洋クロマグロの管理措置が採択できるか、世界的に注目されていましたが、合意に至らず、結論は先送りされました。

WWFグローバル漁業イニシアチブ東太平洋マグロ類コーディネーターのパブロ・ギェレロは、「IATTCの21の加盟国による5日間の交渉が具体的な成果をほとんど生まなかったことは、実に残念なことです。太平洋クロマグロの産卵個体の資源量は、漁業が始まる以前の推定初期親魚量のたった4%にすぎず、現在の漁獲量の90%が未成魚であることは、科学的に示されています」と述べました。

今回、IATTCおよび加盟国に対しWWFは、国際的な科学委員会であるISCの勧告に従って漁獲量を5,000トンから2,750トンへ削減すること、また、未成魚を保護するための厳重な管理措置などを求めていました。しかし、主要な漁獲国である日本、韓国、メキシコ、米国は、管理措置に合意することができず、加盟国が2015年の漁獲割当を交渉するために再会する2014年10月まで決議を延期しました。

これに対しWWFは、もしIATTCの加盟国が、ISCの勧告に沿った、拘束力のある漁獲制限を採択できない場合には、太平洋クロマグロの漁獲停止を求めるという、厳しい態度で臨みました。太平洋クロマグロの漁業の将来を保障するには、2014年12月にサモアで開催されるWCPFC(中西部太平洋まぐろ類保存委員会)で、採択される必要があります。

WWFは、太平洋クロマグロの資源管理のため、IATTC/WCPFCや各国政府に対して、以下の提案を行なっています。

  • 太平洋クロマグロの長期的な資源回復計画、限界/目標管理基準値および漁獲制御規制を採用するよう働きかけること
  • ISCの勧告に基づき、すべての太平洋クロマグロの未成魚漁獲量を50%削減させる漁獲制限を設けること
  • クロマグロ畜養における適切なアセスメント(環境影響評価)のため、追加の調査・分析を実施すること
  • 太平洋クロマグロにおける漁獲証明制度の実施と、トレーサビリティの確立。太平洋クロマグロの漁獲活動のモニタリングと管理強化

もし、2014年中に効果的な管理方策が採択されなかった場合、WWFは、IATTCとWCPFCに対し、枯渇しそうな資源を過剰漁獲している現状の漁業をすべて中止・禁漁とし、早急に厳格な資源回復計画を準備することを求めます。

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP