大幅な増加を確認!インドのトラ調査結果
2015/01/22
※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。
2015年1月20日、インド政府はトラの個体数に関する新しい報告書を発表しました。それによれば、2006年に1,411頭と推定されたインド国内のトラの総個体数が、2014年の調査では2,226頭に増加していることが分かりました。この調査はインドのトラ保護庁が中心となり、同国の森林省やWWFインドをはじめとするNGO(民間団体)が支援する形で行なわれたものです。世界のトラのおよそ半数が生息するといわれるインドで、こうした変化が確認されたことは、トラ全体の保護においても、朗報といえます。
「トラの王国」インドの軌跡
アジアの自然の頂点に経つ野生動物トラ。トラは20世紀の初めまで、中央アジアから東アジア、さらにインド、東南アジアの島々に広く分布し、その数は10万頭とも言われていました。
しかしその後、毛皮や骨を狙った密猟(薬の原料になるとされる)と、生息環境の森林の開発などによって激減。ジャワ島やバリ島、カスピ海沿岸などの地域では絶滅し、現在は4,000頭あまりが生き残るのみとなっています。
その中で、最大の生息国はインドでした。
インドは1970年代に、WWFの支援を得て、国策として大規模なトラ保護活動を展開。保護区の整備と、密猟の取り締まりを行ない、以来、最も多くのトラがすむ国として、その状況が注目されていました。
しかし、1990年代以降、世界のトラは各地で減り続け、インドでもその個体数が減少。保護区でも密猟が相次ぎ、2006年には、過去最低の数字となる、1,411頭という推定個体数が報告されました。
「トラを守れ!」世界の国々の決意
このままでは、野生のトラが本当に姿を消してしまう。危機が確実に大きくなりつつある中、トラの生息国である国々の政府が、保護のための新たな行動を起こしました。
その大きなきっかけとなったのが、2010年11月にロシアのサンクトペテルブルグで拓かれた「世界トラサミット」です。
この会議にはトラが生息する13の国を中心に、保護に協力する国々の代表が参加。WWFもこのサミットの開催と成功に力を尽くしました。
そして、この会議で、各国が協力して策定した「世界トラ回復プログラム」と、「2022年(次の寅年)までに、世界の野生のトラの個体数を倍にする」という首脳宣言が承認されたのです。
この会議で重要だった点は、各国やWWFを含む国際機関が、トラの保護と回復に必要な資金を、協力して拠出することに合意したことでした。
明らかにされた新しいインドのトラの数
その後、各国はトラサミットの「首脳宣言」の目標を果たすべく、それぞれの政策のもとで、保護活動を展開してきました。
そして、その成果をはかるべく、関係各国は2014年9月にバングラデシュで開催された会議の中で、2016年に世界全体のトラの個体数について、中間報告を出すことを合意しました。
今回インド政府が取り組んだ国内のトラの総個体数調査も、その一環です。
この調査で調査対象となったのは、既知の生息地のみならず、その可能性のある地域を含めた、18の州、計30万平方キロ以上。過去に例のない規模の調査となりました。
その結果、2014年時点の推定個体数として、2,226頭という数字が発表されたのです。
トラに限らず、野外での野生動物の調査には多くの困難があり、結果の精度も手法や時期によって変化する場合があります。
このため、単純に前回の調査結果と比較することはできませんが、それでも今回の調査の結果によって、インド国内でトラが増加の傾向にあることは、確認することができました。
WWFインドのラヴィ・シン事務局長は、この数字が今後の保護活動の成果を計る上で、重要であることを指摘しつつ「野生生物を保全する時、政治的な決断と、科学的に確かなフィールドでの努力を結集することが、大きな力になる」とコメント。
過去数年間にわたりインド国内で続けられてきた、密猟の防除を含む保護区などの管理徹底の成果を評価しました。
今後の世界のトラ保護のゆくえ
このインドの動きは、他のトラ生息国に今、引き継がれようとしています。2015年2月には、極東ロシアでも大々的なトラの調査が予定されています。
そして今後、マレーシア、インドネシア、タイ、ミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナムでも調査の実施が期待されています。
何より、世界のトラ個体数の半数が生息するインドにおいて、今回のような調査の結果が明らかになったことは、トラ全体の保護においても、重要な意味を持ちます。
人口の増加と経済的な急成長が認められる、インドのような国や地域でも、トラのような野生動物を守るための意欲的な目標を達成することが、十分にできる可能性が示されたためです。
しかし、十分に安心できる成果が出たというには、まだほど遠いことも確かです。再び密猟が激しくなる事態が生じれば、今回見積もられたトラの増加数と、そのために傾けられた保護の努力は、すぐにも水泡に帰してしまうおそれがあるためです。
WWFは今後も、トラの生息国による保護と調査のための取り組みを支援しつつ、その生息環境である森林などの保全にも力を入れてゆきます。