インドのトラ保護区、再生へ一歩前進!4種の哺乳類の生息を確認
2013/08/27
インド北東部にあるヴァルミキ・トラ保護区で、これまで、当地では観測例のなかった野生生物の姿が、調査用の自動カメラに記録されました。ここは、絶滅のおそれの高いベンガルトラの保護区に指定されていますが、1990年代の半ばまで管理が行き届かず、開発されるままになっていた場所です。これまで見られなかった生きものがカメラに捉えられたことは、保護区の自然環境の回復を示すものとして注目されています。
自動カメラに写っていたものは?
2013年8月、WWFインドは、インド北東部のビハール州にあるヴァルミキ・トラ保護区で、これまで記録のなかった哺乳類の姿を確認したと発表しました。ビハール州森林局、WWFインド、インド野生生物トラスト(WTI)が設置した自動カメラに捉えられたのは、カニクイマングース(Herpestes urva)、キエリテン(Martes flavigula)、ヒマラヤカモシカ(Capricornis thar)です。
保護区代表管理官であるサントーシュ・ティワリ氏は「インド動物調査局(ZSI)は、これまで、この保護区で53種の哺乳類を確認しています。しかし、今回撮影されたこの3種の哺乳類はいずれも記録されていません。この調査に先駆けて、インド野生生物トラストのカメラトラップが撮影したイラワジリス(Callosciurus pygerythrus)と合わせれば、4種の哺乳類の生息が新たに確認されたことになります」と話しています。
放置されてきたトラ保護区
ヴァルミキ・トラ保護区は広さは約880平方キロメートル。1994年にインドの18番目のトラ保護区に指定されましたが、ほとんど管理されておらず、地域住民による開発も行なわれていました。ネパールとの国境に位置しているため、密猟者が侵入しやすい場所ともなっているなど、ヴァルミキ地域だけでなく、隣接するネパールのチトワン国立公園などを含む一帯の野生生物にも大きな影響を与えていました。
2003年、ビハール州森林局とインド野生生物トラストは、米国魚類野生生物局(USFWS)の支援を受けて、ヴァルミキ保護区の自然環境の回復を図り、実質的なトラの生息地にしていくプロジェクトを開始しました。また、保護区周辺の地域住民が、森林資源への依存を減らせるようにするためのプロジェクトにも取り組んでいます。
インド野生生物トラストのサミール・クマール・シンハ博士は 「今回、4種の哺乳類について、新たに生存が確認できたことは、放置されてきた保護区が、森林局とNGOの共同活動により、再生の道を歩き始めたことを示しています」と話しています。
国境を越えてトラを守る
ヴァルミキ保護区には、トラと、トラの獲物となる動物に関する生息地、個体数、分布に関する科学的なデータもありません。そこでWWFインドは、環境森林省、ビハール州、国立トラ保護局(NTCA)インド政府と連携して、カメラトラップによる調査を実施しています。また、WWFネパールとも連携して、国境を越えたトラ保護の取り組みを行なってきました。
WWFインドのディパンカール・ゴース博士は、次のように語っています。「私たちは、今回の発見に期待を寄せています。ヴァルミキ保護区は、トラの個体数回復を図る場所として大きな可能性を持っています。また、ネパールのチトワン国立公園と隣接していることから、国境を越えてトラを保全していく上での重要な場所でもあります。WWFはヴァルミキ保護区の管理当局と連携を強化しつつ、保全の取り組みにさらに尽力していきます」。
カニクイマングース(Herpestes urva)
インド北東部と東南アジアに分布する。局地的に生息数が減っているところがあり、インドの個体群はワシントン条約付属書IIIに記載されている。
キエリテン(Martes flavigula)
アジアに広く分布。個体数は比較的安定しているが、インドの個体群はワシントン条約付属書IIIに記載されている。
ヒマラヤカモシカ(Capricornis thar)
ヒマラヤ山脈とバングラデシュに生息。食用としての捕獲や生息地の破壊により、生息数は減少傾向にある。
イラワジリス(Callosciurus pygerythrus)
バングラデシュ、中国、インド、ミャンマー、ネパールに広く生息。南アジアや中国では生息地の減少が見られる。