シベリアトラの個体数が523~540頭に増加
2016/02/23
※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。
2015年12月13~15日、ロシア沿海地方のウラジオストクにおいて、シベリアトラ(アムールトラ)の現状と課題、今後の保護活動について議論するシンポジウムが開催されました。シンポジウムでは、シベリアトラの総個体数調査の最終結果が発表され、10年前の428~502頭から523~540頭に増加していることが明らかになりました。一方で、2022年までに700頭という保護戦略の最終目標を達成するには、新たな保護区の設置といった課題に対処する必要があることも明らかになり、新たな行動計画が採択されました。こうした対策がトラと人の共存を促し、最終目標達成の後押しとなることが期待されます。
5年間で主要生息域の24%が保護区に!
2015年12月13~15日、ウラジオストクにおいて、シンポジウム「シベリアトラ―個体数の現状と課題、保護の見通し―」が開催されました。
このシンポジウムは、ロシア連邦天然資源・環境省とロシア科学アカデミー極東支部生物・土壌研究所、太平洋地理研究所、アムールトラセンター、そしてWWFロシアが共催したもので、ロシア、日本、中国、韓国から60人を超える専門家らが出席。
3日間の会議の間、学会やNGO、政府機関を代表する科学者や専門家らが「シベリアトラの保護戦略」の過去5年間の履行状況について、とりまとめを行ないました。
この保護戦略は、2010年にサンクトペテルブルグで開催された世界トラサミットにおいて、採択されたものです。
その中で、ロシア政府はシベリアトラの生息地を保護し、2015年までにその個体数を500~550頭で安定させ、(次の寅年である)2022年までに2010年比1.5倍の700頭にまで増加させるという目標を掲げました。
そして、2010年以降、数多くの保護活動が実施されてきました。
2010年11月には、その実が草食動物の重要な食物となるマツ科の樹木チョウセンゴヨウを、ロシア政府が伐採禁止樹種に指定。
森林の生態系と、獲物となる草食動物の保全を通じた、トラの個体数増加につながる施策が行なわれました。
さらに、WWFをはじめとする関係機関の働きかけにより、2012年には「ヒョウの森」国立公園とスレドゥネ・ウスリスキー州立野生生物保護区、2015年にはビキン国立公園が設立。
こうした取り組みにより、この5年間でトラの生息域に占める保護区の面積が150万ヘクタール(岩手県と同面積)以上拡大し、主要生息域の24%を占めるまでになりました。
シベリアトラの個体数増加を確認!
これまでの5年間の保護戦略の効果を判断するため、シンポジウムでは、2014~2015年の冬に実施されたシベリアトラの総個体数調査の結果が発表されました。
総個体数調査はトラの主要生息域全域を対象に実施され、トランセクト(あらかじめ設定された直線。その直線に沿って調査を実施する。)の数は1,200以上、その総延長距離は23,000キロ(地球半周以上)に及びました。
そして調査では、トランセクト20kmごとにトラの痕跡が少なくとも1つ、必ず確認されたことが明らかになりました。
こうした調査の最終結果について、総個体数調査の科学コーディネーターを務めるウラジミール・アラミレフ氏(ラゾフスキー自然保護区及びゾフ・ティグラ国立公園の合同代表)は、次のように発表しています。
「調査で得られたデータを分析した結果、シベリアトラの個体数は523~540頭であると推定されます。
オスの成獣が133-136頭、メスが208-213頭、幼獣が98-100頭、そして性別と年齢が不明な個体が84-91頭です。」
オスとメスのみならず、成獣と幼獣の頭数までをも明らかにした、この精度の高い調査結果は、10年前の調査で示された428~502頭から、トラの個体数が着実に増加していることを示しています。
シベリアトラを700頭に!最終目標達成に向けた今後の課題
総個体数調査の結果から、「シベリアトラの保護戦略」が正しい方向に向かって実施されており、シベリアトラを保護するという国際的な責務を満たすものであることが証明されました。
この結果について、元WWFロシアのスタッフで、アムールトラセンターの沿海地方支部代表を務めるセルゲイ・アラミレフ氏は、次のようにコメントしています。
「2015年までにシベリアトラの個体数を500頭以上で安定させる」という中間目標は達成することができました。
これは、5年前に改訂された「シベリアトラの保護戦略」の基本的構想が正しく理解され、正しい方法で実施されてきたことを示しています」
しかし、多くの目標が達成された一方で、新たな脅威や問題も浮かび上がってきています。
課題の1つは、連邦政府の保護区に緩衝帯(バッファーゾーン)を設置する動きが遅れていることです。
さらに、ユダヤ自治州のポンペエフスキー国立公園の設立も停滞しています。
「2022年までに700頭に増やす」という戦略の最終目標を達成するには、どのような取り組みを優先して行なうべきなのかを再度検討し、こうした問題にも対処する必要があります。
これらの懸念点を受け、シンポジウムでは、行動計画に含めるべき新たな対策が提示され、追加条項として採用されました。
科学者や専門家らシンポジウムの出席者たちは、こうした科学研究に基づいた対策の改善と、森の現場での密猟パトロールやレンジャー支援といった保護活動が、トラの共存を促進し、最終目標達成の実現につながると信じています。
日本の消費者ができるシベリアトラ保護の取り組み
シベリアトラ保護のための行動は、現地だけなく、日本をはじめとする海外にも求められています。
それは、シベリアトラ減少の1つの要因が、日本の消費者が利用する木材にあるからです。
極東ロシアでは、今も違法伐採や破壊的な商業伐採が行なわれており、こうして生産された木材は、ロシアから日本に直接輸出されたり、中国で家具などに加工された後に日本に輸出されています。
こうした木材製品を購入することで、日本の消費者が知らず知らずのうちに、トラの生息環境の破壊に加担している可能性があるのです。
もちろん、極東ロシア産の木材の中には、トラをはじめとする絶滅危惧種の生息環境に配慮し、持続可能な方法で生産されたものもあります。
しかし、消費者個人が木材の生産方法まで遡って、追跡するのは困難です。
そこで、環境に配慮して生産された木材を選ぶ最も簡単で効果的な方法は、「FSC認証」が付いた製品を購入することです。
FSC(森林管理協議会)は、林産物が環境、社会、経済的に持続可能な方法で生産されたことを認証する機関で、認証を取得した木材にはFSCマークが付けられます。
日本の消費者がFSC認証材を意識的に選択することで、極東ロシアの破壊的な森林伐採に対して厳しい態度を示し、持続可能な森林管理を促進することになります。
WWFではこれからも、日本とロシアの両事務局が協力して、現地でトラの保護に取り組むとともに、日本の企業や消費者に対してFSC認証材の調達・購買を働きかけていきます。
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