増加が確認されたシベリアトラ さらなる課題も明らかに
2015/08/11
※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。
2015年6月15日、シベリアトラの総個体数調査に関する会議がロシアのウラジオストクで開かれました。天然資源省大臣から、シベリアトラの個体数は現段階で少なくとも523頭に上ると発表され、前回の調査から増加傾向にあることがわかりました。さらに、トラの個体が集中している地域が明らかになる一方、生息適地であるにもかかわらず生息が確認できなかった場所が特定されたり、シベリアトラの食物となる草食動物をめぐる課題が指摘されました。2020年に実施が予定されている次回の調査に向けて、今回の結果を今後の保全戦略の見直しに役立てていくことが期待されます。
シベリアトラの増加を確認
極東ロシアに生息し、トラ亜種の中で最大の体躯を持つシベリアトラ。その総個体数調査が2015年2月に実施されました。
今回の調査では、トラの生息域となっている全ての保護区と国立公園に、686機の自動撮影カメラ(カメラトラップ)を設置。
トラの縞模様を判別することで、個体の特定にも力が入れられました。
5月に発表された暫定結果では、個体数が480~540頭と推定され、2005年に実施された前回調査の428~502頭に比べて、増加傾向にあることがわかりました。
本調査はロシア連邦の天然資源省が中心となって取り組んだもので、WWFもその実施のための資金を支援するとともに、実際の調査にも協力しました。
6月15日には、ウラジオストクにおいて、調査結果に関する関係者会議が開催され、WWFロシア・アムール支部代表のユーリ・ダーマンも出席。
天然資源省大臣からは、正式な報告は10月を予定しているものの、現段階で個体数は少なくとも523頭に上ると発表されました。
この数字は、過去10年にわたり、極東ロシアで政府やWWFをはじめとする多くの関係機関が取り組んできた、保全活動の結果を反映したものです。
さらに、次回の調査は5年後の2020年に実施されることが明らかになりました。
把握が進むトラの生息域と、これからの保全に向けて
しかし、この調査は、決して個体数を知ることだけが目的ではありません。
例えば、保護活動を実施する上で必要な、トラが棲む生息地の把握にも、力が入れられました。
その結果、ビキン川流域やウスリスキー自然保護区、「ウデヘの伝説」国立公園、ゾフ・ティグラ国立公園に、トラの個体が集中していることがわかりました。
こうしたデータは、これらの地域に国立公園や緩衝帯を設置するという政府決定が間違っていなかったことを示しています。
さらに、ユダヤ自治州とハバロフスク州北部のアムール川左岸のように、トラの生息が新たに確認されたエリアもあります。
こうした地域では、国立公園や保護区を新たに設置する必要があることが指摘されました。
一方で、最も心配されるのは、トラの生息に適しているにもかかわらず、生存の痕跡が見つからなかった場所です。
理由としては、密猟者によりトラが殺されたか、あるいはトラの食物となる草食動物が密猟されていることが考えられます。
そうした可能性が想定される場合は、今後、狩猟を管轄する政府機関と法執行機関が、その責務を遂行することが求められます。
このように、得られた調査結果を、今後の保全戦略や10年間にわたる行動計画の見直しに役立てていくことが、何よりも重要な点といえるでしょう。
草食動物の保全の必要性
今回の調査ではまた、トラだけでなく、草食動物の個体数に関するデータも収集され、その結果からも、今後取り組むべき問題点が明らかになりました。
草食動物の個体数が、特にハバロフスク地方において、減少していることがわかったのです。
WWFではこれまで、沿海地方とハバロフスク地方の狩猟局と協力して、草食動物の死亡数に関する調査を実施しています。
WWFロシアの生物多様性保全プログラム・コーディネーターであるパベル・フォメンコによれば、この減少は、2014~2015年に発生した大雪により食物が不足して、多くの草食動物が死んだことが原因だと言います。
草食動物の中でも特に大雪による影響の大きいノロジカやアカシカについては、一刻も早く狩猟規制の行政措置を取ることが重要です。
草食動物は、狩猟区において免許を持つハンターが狩猟することは認められていますが、肉の販売を目的とした草食動物の密猟は深刻な問題であり、トラの生存にとっても大きな脅威となっています。
違法な狩猟肉を市場から締め出すには、今後、狩猟肉の流通を法律により管理することが必要だといえるでしょう。
トラの保護と日本の消費
トラの保護と日本の消費者も決して無関係ではありません。
トラの生存を脅かす原因には、密猟の他に、生息地である森林の破壊が挙げられますが、極東ロシアで生産された木材は、日本の市場でも販売されているからです。
極東ロシアでは、今も違法伐採や、合法ではあるものの持続可能でない大規模伐採が続いています。
こうして生産された木材は、中国で家具やフローリング材に加工された後、日本へと輸出されている可能性があります。
日本の消費者がこうした木材を購入しないことは、トラの生息地保全にとって大きな貢献となるのです。
しかし、個人が木材の原産国と生産方法まで調べるのは非常に困難です。
そこで、破壊的な森林伐採により生産された木材を購入しないための方法の1つが、FSC認証の付いた木材製品を購入することです。
FSCは、林産物が持続可能な方法で生産されたことを証明する第三者機関。その認証を取得するには、合法性はもちろんのこと、環境・経済・社会的な持続可能性も満たすことが求められます。
極東ロシアの木材の最終消費者である日本人が、FSC認証材を選択的に購入することは、トラの棲む極東ロシアの森を守ることにつながります。
WWFでは、今後も極東ロシアでシベリアトラの保護に取り組むとともに、日本では企業や消費者に対して、持続可能な方法で生産された木材の利用を促していきます。