極東ロシアのトラ生息地に新たな国立公園が誕生!


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

2015年11月3日、極東ロシアのビキン川流域の116万ヘクタールにのぼる森林が「ビキン国立公園」として指定されました。針葉樹と広葉樹が混じるこの豊かな森は、シベリアトラの全個体数の1割が生息する場所であると同時に、先住民の人々の重要な生活な場でもあります。今回の国立公園の制定では、その豊かな自然が守られるだけでなく、ロシアで初めて国立公園における先住民の人々の権利も明確に保障されました。

ビキン川流域に広がる「ロシアのアマゾン」

極東ロシアには、針葉樹と広葉樹が混じる豊かな森が広がっており、そこにはシベリアトラ(アムールトラ)やアムールヒョウを頂点とする多様な野生生物が生息しています。

そんな極東ロシアの森の中でも、「ロシアのアマゾン」と称されるほど広大な原生林が残っているのがビキン川流域です。

ビキン川流域の森林は、シホテアリン山脈の西側に広がっており、これまでに商業伐採の手が入ったことがないため、今でも極東ロシアのタイガ(北方林)の森が残っています。

そして、この広大な森は、シベリアトラの個体数の1割にあたる50頭前後が生息する場所であると同時に、この地の先住民であるウデヘとナナイの人々の生活の場でもあります。

WWFは10年以上にわたり、先住民の人々とともにビキン川流域の保全プロジェクトを実施し、独自の自然と伝統的な生活様式の保護に取り組んできました。

2010年には、ビキン川流域の森林生態系の高い価値が世界的に認められ、ユネスコの世界自然遺産候補にも挙げられています。

こうしたことから、2013年11月と2015年4月の2度にわたり、プーチン大統領はビキン川の中上流域を連邦政府の保護区とするよう大統領令を出しました。

ビキン川流域のシベリアトラ

ビキン川流域と新しい国立公園(クリックで拡大)

国立公園設立に向けた大きな後押し

2015年4月に出された大統領令は、ロシア大統領府管理局長のコンスタンチン・チュイチェンコ氏が率いるビキン作業部会によって、草案が取りまとめられました。

作業部会では、WWFロシア・アムール支部代表のユーリ・ダーマンがビキン国立公園設立のための評価報告書を提出。

この報告書は、WWFロシアと太平洋地理研究所、極東諸民族・歴史・考古・民族学研究所、先住民代表者が共同で準備したものでした。

報告書作成にあたっては、北方・シベリア・極東地方少数先住民族協会のパベル・スリャンズィガ副会長が先住民族の権利保障の重要性を訴えるとともに、連邦政府の保護区で先住民の権利を認める修正案を早急に採択するよう求めていました。

また、沿海地方のウラジミール・ミクルシェフスキー州知事も以前から保護区における先住民の権利保障の必要性を指摘していました。

こうしたことから、報告書では、ビキン川流域の先住民であるウデヘとナナイの人々の伝統的な森林利用権が守られ、国立公園の運営に参加できるように、彼らの要求やコメントを全て含むよう特に注意が払われました。

ビキン川の流れ

国立公園における先住民の権利保障

こうした報告書を受けて、プーチン大統領は関係機関に対して、先住民の伝統的生活様式と経済活動の権利維持を保障するように法律の修正を指示。

その後、ロシア連邦天然資源・環境省が、先住民が国立公園の管理に参加できる仕組みを含む法律を準備しました。

さらに、大統領令では、観光庁と沿海地方及びハバロフスク地方の関係機関が共同で、ビキン国立公園の包括的な観光開発政策を作成し、その計画を地方及び連邦政府の目標に組み込むことも含まれました。

こうした大統領令が出されたことについて、ユーリ・ダーマンは次のように述べています。

「政府の様々な関係機関から承認を得ることの煩雑さや難しさを考えると、プーチン大統領による大統領令は効果的で、時宜を得たものでした。

大統領令により、ビキン国立公園はロシアで初めて先住民の権利が保障された国立公園として、その設立準備が進められることになったのです」

ツキノワグマ。豊かな森は多くの生命を育みます

ついに国立公園設立!

そして、2015年11月3日、ロシア連邦政府はビキン国立公園設立の法律に署名。

沿海地方ビキン川流域の116万ヘクタール(秋田県の面積とほぼ同じ)以上の森林が国立公園として保護されることになりました。

ビキン国立公園が設立されたことにより、沿海地方南東部から北東部のシホテアリン山脈へと続く、トラの保全に必要な保護区ネットワークが完成しました。

そして、大統領令で示された通り、ビキン国立公園はその地域にすむ先住民の利益に配慮した国立公園となりました。

元WWFのスタッフで、現在アムールトラセンターの所長を務めるセルゲイ・アラミレフ氏は、ビキン国立公園設立の意義について次のように述べています。

「ビキン川流域は、チョウセンゴヨウと広葉樹が混じる原生林とそこに生息するシベリアトラだけでなく、そこに住む先住民の人々も含めて、独自の生態系や文化を形成しています。

先住民の伝統と原生の自然が全体として、広大な1つの保全対象となっています」

森の民ウデヘの人々とビキン川の恵み

守られた母なる自然

ビキン国立公園の設立により、豊かな自然だけでなく、先住民であるウデヘとナナイの人々の生活の場も今後、守られていくことになります。

パベル・スリャンズィガ氏は、ビキン国立公園が設立されたことについて、次のように述べています。

「ビキン国立公園が設立されたことで、ビキン川流域の自然が保護されることになりました。これは、先住民の利益に大きく資するものです。

ビキン川とその流域に広がる森林は、ウデヘとナナイの人々が伝統的な生活をおくる母なる自然なのです。

今回の国立公園制定の重要性は、どんなに強調しても強調し過ぎることはありません」

WWFでは、今後も先住民の人々の権利を尊重し、シベリアトラのすむ森の保全に取り組むとともに、日本でも持続可能な方法で生産された木材製品の購入を推進していきます。

2015年のグローバル・タイガー・デーのイベントに先住民の人々と共に参加するパベル・スリャンズィガ氏(中央)。ウラジオストクにて。

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記者発表資料

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