南海の空の王さまの話


ワシやタカというと、大きく勇壮で、小鳥やウサギなどの獣を襲う印象がありますが、世界のワシタカ(猛禽)類には、食を魚介類に頼っているものも少なくありません。

たとえば、冬になると北日本の海辺にやってくるオオワシやオジロワシ。

アフリカのサンショクウミワシや、東南アジアのウオクイワシ、アメリカの国鳥ハクトウワシなどもその類です。また、中にはミサゴのように、魚食に非常に特化したタカもいます。

ところが、南米大陸の南部の海には、こうした魚などを主食とする大型の猛禽がいません。

代わりにいるのが、2種のオオフルマカモメです。

オオフルマカモメ。顔のアップ

この鳥はカモメではなくミズナギドリの仲間で、南米沿岸のみならず、南半球の大洋に広く分布域をもつ海鳥。

主食は魚やイカですが、他の海鳥のヒナを襲うこともあるほか、アザラシやクジラの屍肉もよく食べる、いわゆる「お掃除屋さん」で、生態系の中でハイエナやハゲワシ、トビなどとも同じ仕事をしています。

また、広げた翼は2メートルにもなり、太いクチバシを備えたごつい面構えも相当なもの。顔中を血だらけにしてクジラの死肉をつつきまわしている写真を見たことがありますが、まあその迫力のすごいこと。

ハンターとして、屍肉食いとして、南米の海辺の生態系において、まさにワシやタカに相当する地位を占めた鳥といえるでしょう。

ちなみに、チリ南部の海岸に生息するマゼランペンギンのヒナにとっても、この鳥は恐ろしい天敵なのだそうです。

豊かな海が生み出した、多様な生きもののつながりの中で、特異な分化を遂げたオオフルマカモメ。
水平線を背に、南の空を悠然と飛ぶその飛ぶ姿を、一度間近に見てみたいものです。

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自然保護室(コンサベーションコミュニケーション グループ長)
三間 淳吉

学士(芸術学)。事務局でのボランティアを経て、1997年から広報スタッフとして活動に参加。国内外の環境問題と、保全活動の動向・変遷を追いつつ、各種出版物、ウェブサイト、SNSなどの編集や制作、運用管理を担当。これまで100種以上の世界の絶滅危惧種について記事を執筆。「人と自然のかかわり方」の探求は、ライフワークの一つ。

虫や鳥、魚たちの姿を追って45年。生きものの魅力に触れたことがきっかけで、気が付けばこの30年は、環境問題を追いかけていました。自然を壊すのは人。守ろうとするのも人。生きものたちの生きざまに学びながら、謙虚な気持ちで自然を未来に引き継いでいきたいと願っています。

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