アサリが教えてくれる生態系のバランスの大切さ


自然保護室の安村です。

先日、九州・有明海のアサリが中国産アサリと交雑している、というニュースがありました。

東京海洋大学の調査により、1980年代から放流していた中国産アサリと日本産アサリ、それぞれの貝殻の形や模様の特徴を併せ持つ雑種が、有明海で生まれていることが分かったそうです。

中国産アサリが放流された理由は、減少していた国産アサリの収穫量を上げるため。

中国産のアサリ。日本はその一大輸入国でもあります。

最近では別種とする説があるそうですが、当時はまだ、中国産と日本産は同じ1種のアサリとされていましたから、こうした放流が問題視されることは無かったのかもしれません。

ですがこれが、もともとその海にいなかった生きものを放す行為でもあります。

こうした人の手による短時間での自然の改変は時に、何万年もかけて形作られた複雑な生態系のバランスを壊し、在来の野生生物を絶滅に追い込む原因になることがあります。

夕日の有明海。遠くに風物詩の海苔ひびが並びます。

また埋立てや干拓、環境に配慮しない養殖場の拡大や、そこで使う薬剤の散布など、海の自然を脅かす問題は他にも少なくありません。

アサリの名産地であり、東アジア最大の渡り鳥の休息地でもある黄海は中国の鴨緑江干潟で、以前私たちが行なった調査でも、こうした沿岸漁業と渡り鳥など干潟の生き物たちが、相互に影響を及ぼし合っていることが明らかになりました。

海の自然を守りながら続けてゆく「持続可能な漁業」を実現するカギは、その問いの中にあります。

有明海や黄海の干潟を訪れる、シギ・チドリなどの渡り鳥たち。その数は数十万羽にのぼります。

春秋に数千キロの距離を飛ぶシギやチドリなどの渡り鳥や、小さなアサリのような生きものたちと、私たちヒトはどのように共存してゆくべきなのか。

100年後の世界でも、有明海や黄海の干潟で多くの渡り鳥が見られるように、今できる取り組みを進めてゆきたいと思います。

絶滅危機種のヘラシギ。きわめて数の少ないシギ類の一種です。

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自然保護室長(淡水・リーダー開発・PSP)
安村 茂樹

修士(生物化学・早稲田大学)
サンゴ礁センター駐在時に地域住民主体の環境調査を立ち上げ(現在も石垣島、久米島で継続中)。南西諸島域にて、多分野の研究者と協働した野生生物有害化学物質汚染調査、生物多様性評価調査を指揮。GIS手法を用いた保全重要域図は生物多様性条約で示されたEBSAに、野外調査ではオキナワトゲネズミ再発見や久米島沖のサンゴ大群集発見に寄与。UNEP/GEF黄海プロジェクトと連携した日中韓湿地保全活動をリードし、2020年より緊急支援や淡水・教育活動に関わる部門を統括。

沖縄のサンゴ礁と森、中国・韓国の干潟の保全に従事。国際会議でサイドイベント主催やロビー活動をする機会をいただきました。国際、環境、NGO-この3ワードが合わさるWWFで、何をすべきか考え、その仕事の醍醐味を実感し、行動する。そんな機会を一人でも多くのスタッフに提供したいです。晴れの日に気が向いたら、自転車で通勤し、休みは、川でカヌー漕いでいます。

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

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