マナス国立公園で再び確認されたバラシンガジカ


バラシンガジカ、と言ってすぐわかる方は、相当な動物通であろうかと思います。

インド亜大陸に生息するシカの一種で、草地や湿地に生息。Swamp Deer という英語名から、インドヌマジカとも呼ばれるそうです。

昨年のものですが、FAO(国連食糧農業機関)の地域事務所が発行しているレポートの中に、このバラシンガジカについての短い報告が出ていました。

インドとブータンを含む東ヒマラヤ地域で、WWFが活動展開しているフィールドの一つ、マナス国立公園で行なわれた、このシカの調査の結果を紹介したものです。

インドのマナス国立公園は、広さおよそ500平方キロ。北はブータンのロイヤル・マナス国立公園に隣接し、トラの保護区としても重要な場所で、世界自然遺産にも指定されています。

しかし近年、ここでのバラシンガジカの記録は絶えており、マナス一帯ではすでに絶滅したのではないか? とも言われていました。

ところが、2010年にインドサイの調査を行なっていたWWFの調査チームが、偶然!このシカを見かけたことがきっかけで、再度調査されることに。そして、2年にわたる調査の結果、少なくとも20頭は確実に生存していることがわかったそうです。

こうした調査は、それ自体が絶滅危惧種であるバラシンガジカの保護のため行なわれるものですが、同時に、この地域の生態系の頂点に立つトラの保護にも関係してきます。

なぜなら、バラシンガジカはインド亜大陸に生息する、トラやヒョウ、ドールなどの食物となる草食動物の一種だからです。

何が野生生物としてのトラを支え、その地の自然の成り立ちを支えているか。このバラシンガジカの一件も、そうした生きものたちのつながりを、あらためて考えさせてくれる例だと思います。(広報担当:三間)

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バラシンガジカ(Cervus duvaucelii)。この写真の個体は、いずれもインド中部の別の亜種(C.d.branderi)。マナスで生息が確認された亜種(C.d.ranjitsinhii)は、インド北東部のカジランガ国立公園に生息する約1,100頭が、ほぼ全てとなる。

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自然保護室(コンサベーションコミュニケーション グループ長)
三間 淳吉

学士(芸術学)。事務局でのボランティアを経て、1997年から広報スタッフとして活動に参加。国内外の環境問題と、保全活動の動向・変遷を追いつつ、各種出版物、ウェブサイト、SNSなどの編集や制作、運用管理を担当。これまで100種以上の世界の絶滅危惧種について記事を執筆。「人と自然のかかわり方」の探求は、ライフワークの一つ。

虫や鳥、魚たちの姿を追って45年。生きものの魅力に触れたことがきっかけで、気が付けばこの30年は、環境問題を追いかけていました。自然を壊すのは人。守ろうとするのも人。生きものたちの生きざまに学びながら、謙虚な気持ちで自然を未来に引き継いでいきたいと願っています。

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