新報告書『日本におけるゴーストギア対策の現在地―漁業系プラスチックごみの解決に向けて―』発表 海洋水産大国日本は、各セクター連携による取り組みが急務
2025/02/20

公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(東京都港区、会長:末吉竹二郎、以下WWFジャパン)は、本日2月20日(木)に、新報告書『日本におけるゴーストギア対策の現在地―漁業系プラスチックごみの解決に向けて―』を発表しました。WWFジャパンは、海洋水産大国日本にとって自然環境にも経済にも大きな脅威であるゴーストギア(漁業系プラスチックごみ)の問題について、漁業者、自治体、企業、政府など漁業に関わる各セクターが連携して対策を急ぐべきであると訴えています。以下報告書URL(PDF):
(見開き版)https://www.wwf.or.jp/activities/data/20250220ocean01.pdf
(単ページ印刷版)https://www.wwf.or.jp/activities/data/20250220ocean02.pdf

ゴーストギアは放棄、逸失、もしくは投棄されて海に流出した漁網などの漁具由来のプラスチックごみです。海洋プラスチックごみの約1割を占め、海洋生態系や漁業資源に悪影響を与えるだけでなく、船の航行を妨げるなど、観光や地域経済にも大きな被害を与えます。また、日本の海岸に漂着したプラスチックごみのうち漁具やブイ(浮体)などの漁業系プラスチックごみは重量比で5~6割を占めるというデータもあり(注1)、海洋国家であり、水産業が盛んな日本にとっては特に大きな課題です。
本報告書は、ゴーストギア発生の背景、海洋生態系や漁業への被害、対策の枠組みを示すとともに、すでに始まっている国内のゴーストギア対策の好事例を紹介しています。また、解決に向けた取り組み加速させるため、漁業者、素材・漁具などのメーカー、自治体など各セクターの取り組みの方向性について、WWFジャパンの提言を示しています。
【報告書のポイント】
- ゴーストギア対策では、ゴーストギアの発生を未然に防ぐ管理改善、抑止策、ビジネスモデルチェンジの「予防策」、回避できずに発生してしまったゴーストギア被害・影響を軽減する素材・漁具開発の「軽減策」、ゴーストギアを含む海底ごみを回収し海洋環境を回復する取り組みの「回復(回収)策」の3つを包括的に実施することが求められる。
- 漁業者による漁具管理と適切な廃棄はゴーストギア対策の基本だが、漁業者だけで解決することは難しい。ゴーストギア問題の予防、軽減、回復を効果的に進めるには、漁具の原料・素材調達、製造・販売から使用、廃棄、リサイクルまでのバリューチェーン全体で連携することが必要。
(鍵となるステークホルダーへのWWF提言)
- 漁協のリーダーシップのもと、漁業者は主体的な取り組みをさらに進めるべき(参考事例:宮城県南三陸町、舘浦漁協)。
- 素材メーカー、繊維メーカー、漁具メーカー、リサイクラー等の事業者は、漁具の循環利用を促進するビジネスを進めるべき(参考事例:帝人と木下製網等のチームRe:ism)。
- 自治体は、各自治体内の漁業特性にあったゴーストギア対策を進めるべき(参考事例:香川県、広島県)。
- 取り組みを後押しする制度設計や、いまだ実態がよくわかっていないゴーストギアの状況についての包括的調査の実施、国際的なプラスチック汚染対策との協調など、政府の政策的な後押しが非常に重要。
WWFジャパン 専門オフィサーのコメント

自然保護室 海洋水産グループ 笘野哲史
漁具は、漁業者にとって高価で大切な道具です。しかし適切に管理されている漁具も、急な天候変化や岩礁への引っ掛かり、他の漁業者との接触などで流出を完全に防ぐことは難しいのが実情です。 ゴーストギアへの対策は、一部の先進的な漁業者や企業、自治体などで始まっていますが、関わる方々の様々な自己負担の下進められている実情があり、自主性にのみ依存した取り組みには限界があります。海洋生態系の保全や持続可能な水産業のためには、既に始まっているゴーストギア対策への動きを、さらに大きなうねりにしていく必要があります。WWFジャパンは各ステークホルダーへの働きかけや国際的な知見の提供を通じて、ゴーストギア問題の解決に尽力します。
プラスチック汚染とゴーストギアの問題
プラスチック汚染は、気候変動、生物多様性の損失、汚染のすべてに関わる三重の危機と呼ばれ、人類が取り組むべき大きな環境課題です。海洋に流出する世界のプラスチックごみのうち、漁具は約1割を占め(注2)、毎年の流出量は64~115万トン(注3)に上ると報告されています。流出したプラスチック製の漁具は「ゴーストギア」と呼ばれ、海底に沈降してサンゴや藻場に覆い被さるなど海洋生態系に影響を与えたり、その丈夫さゆえに形状・機能が維持されるため、持ち主のいないまま魚などを獲り続けて漁業資源を減少させる「ゴーストフィッシング」を引き起こしたり、漁業者にも被害をもたらし、持続的な水産業への脅威となります。
ご参考
- 漁業由来のプラスチック汚染とその対策オンラインセミナー 第2回「事例編」を開催
- 漁業由来のプラスチック汚染とその対策セミナー 第3回「軽減策、回収策」を開催
- 「ゴーストギア調査隊」発足――漁業由来の海洋プラスチックごみをダイバーが調査 静岡県西伊豆町を皮切りに、全国へ展開計画(2023年7月14日、WWFジャパンプレスリリース)
- 海洋プラスチック問題への取り組み「ゴーストギア調査隊」活動開始(2023年7月13日、WWFウェブサイト掲載記事)
- 報告書『ゴーストギアの根絶に向けて~最も危険な海洋プラスチックごみ』(日本語版)を発表(2021年7月、WWFウェブサイト掲載記事)
- どうやって防ぐ? 海洋プラスチックごみ「ゴーストギア」(2022年6月、WWFによる寄稿記事)
(注1)環境省(2024)令和4年度漂着ごみ組成調査データ 取りまとめの結果について
(注2 )Macfadyen G, Huntington T, Cappell R. (2009). Abandoned, lost or otherwise discarded fishing gear. UNEP Regional Seas Reports and Studies No.185; FAO Fisheries and Aquaculture Technical Paper, No. 523. Rome, 115p.
(注3)PEW (2020) Charitable Trusts, Breaking the Plastic Wave.