個々人がエネルギー社会の変革をつくる時代へ 政府に意見提出
2016/01/18
すでに始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度にくわえ、2016年4月から始まる電力自由化を経て、我々の社会がいま大きく変わろうとしています。そして今まさに、この変革の礎となる指針や制度の具体的なルールの策定が、国の審議会で進められています。WWFジャパンでは、2016年1月8日、および1月15日に、これらの検討がなされている国の検討委員会による意見公募(パブリックコメント)のうち、「電力の小売営業に関する指針(案)」および、「再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会 報告書(案)」に対して意見を提出しました。
電力システムの改革を取り巻く状況
昨今、普段目にするニュース・報道でも「電力自由化」が話題になるようになり、いくつかの企業も電力自由化の開始を見据えた広告を打ち出し始めています。
2016年4月から始まるこの「電力自由化」の最大の特徴は、端的に言えば、「一般家庭でも、電力会社を選べるようになること」です。この電力自由化の開始を含む、電力事業全般に関する一連の改革は電力システム改革と呼ばれています。
2013年4月、経産省の審議会である電力システム改革専門委員会の議論を受けて、国の今後の電力事業構造の「大きな在り方」を決める指針が閣議決定されました。
それから今日まで、電力改革を進めるための「具体的なルール策定」に向けて、いくつかの諮問機関で審議が進められてきました。
その中で今回、2016年4月の電力自由化開始に向けて、電気の小売事業者による電力販売の在り方について検討を進めてきた委員会(※1)が、電力の販売に際してのガイドラインである「電力の小売営業に関する指針(案)」をとりまとめました。
また時を同じくして、再生可能エネルギーの今後の普及拡大に向けた制度の在り方を検討してきた委員会(※2)が、今後の制度改革の方向性を示した「再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会 報告書(案)」をまとめました。
それぞれの委員会の指針(案)と報告書(案)は、今後、消費者である需要家の電力の選択についてと、その選択肢として、そもそも再生可能エネルギーを選べるほど十分に普及させられるかに関わる重要な論点等について論じられています。
これら両委員会の指針(案)、報告書(案)は、1月8日、15日を期限として意見公募(パブリックコメントの募集)をしており、今回WWFも意見の提出を行ないました。
- ※1)経済産業省 電力取引監視等委員会
- ※2)経済産業省 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会
主な論点と意見
前者の「電力の小売営業に関する指針(案)」では、4月からの電力小売り自由化に際して、電力を販売する小売電気事業者(以下 事業者)が、販売先である需要家に対して成すべき事項について主に記載がされています。
つまり、電力自由化後、一般家庭が直接に接するのは、電力会社の中でもこの「小売」事業者になるのですが、この指針は、その小売事業者が、消費者にどういう情報を提供するべきなのかについて述べているのです。
特に重要な点としては、事業者が需要家(一般家庭)に販売する電気について、どのような種類の電源で何割程度供給されるかの電源構成を、開示するべきか言及がなされている点です。
WWFでは、需要家による電気の選択が促されることで、選択肢を提供する事業者間の市場競争の拡大や電力市場の活性化につながるよう、事業者が販売する電気の電源構成を開示するべきと考えています。
そもそも、どういう電気を提供しているのかが事業者によって提供されなければ、消費者としては選びようがないからです。
また、需要家が温暖化問題の当事者として、自身の選択に意識を向けることができるように、開示にあたっては電源構成の情報だけでなく、販売する電気にまつわるCO2の排出程度についても開示をするべきと考えています。
一方で、後者の「再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会 報告書(案)」では、2012年7月より開始され、再生可能エネルギーの普及促進を支えてきた固定価格買取制度(以下 FIT制度)の、今後の制度変更の内容を中心に記載がされています。
こちらで特に重要となる点は、現在は固定された価格と期間での再生可能エネルギー由来の電気の買取りを、特に事業用の太陽光に関しては、競争原理を用いた入札制度へ移行させるか検討するという内容です。
この背景には、再生可能エネルギーの中でも、まだ比較的に高価である太陽光の導入を、なるべく低コストで進めるにはどうするべきか、という問題意識があります。
また別の重要な点としては、こうしたFIT制度を活用して作られた電気の買取り義務者を、これまで想定されていた「小売電気事業者」ではなく、主に発電所から需要家への電気の融通を担う「送配電事業者」にするという点です。
WWFでは、日本の再生可能エネルギーの導入量がまだ少ない中において、これまで再生可能エネルギーの導入を順調に後押ししてきたFIT制度を大きく変える事業用太陽光の入札制度への変更については、時期尚早であると考えます。
一方で、FIT電気の買取り義務者については、今後長期的に更なる再生可能エネルギーの普及拡大を目指す上で、電力の広域融通等を促進できるシステム構築が重要であるとの観点から、その買取り義務者を送配電事業者とする今回の方向性を適当と考えています。
電気を選ぶということ
これまで電気は、あまりに身近にあるがゆえ、それがどこかで作られ、どのような環境負荷を与えてきたのかについて、意識を向ける機会は多くはなかったと思われます。
東日本大震災を経験し、当たり前の存在となっていた電気そのものに対する意識が変わり始めてきた日本において、社会が今後どのような電気を選んでいくのか。いま、真に選択が問われる段階へと入ろうとしています。
需要家の選択によって、社会に設置される電源の様相が変わること。ひいてはそれが日本のエネルギー社会のあり方を変えることにつながること。
これらはいわば、身近な電気を選ぶことを通じて実現できる、個々人による社会変革への参画と言えるでしょう。
今回のパブリックコメントにおける論点は、もうじき始まる小売り電力自由化をはじめとした電力業界の変革にともなって、今後進めなくてはならない数多くの指針やルール策定の一部に過ぎません。
需要家は、引き続きその動向をウォッチしていくことが重要であるとともに、今後、電気を選ぶ際には、目指す社会の在り方をそれぞれが描きながら、その電気料金だけでなく、料金以外に事業者が示す情報をも踏まえ、自身の選択を決めていくことが求められていくでしょう。
今回WWFが提出した、それぞれのパブリックコメントについては、以下を御参照ください。