オキナワトゲネズミなど41種が新たに「国内希少野生動植物種」に指定
2016/03/02
2016年2月19日、日本に生息する野生生物の中から、41種の絶滅危機種が新たに「国内希少野生動植物種」に指定されました。国内希少野生動植物は、「種の保存法」に基づき、法的な保護が義務付けられている野生生物です。今回加わった41種には、オキナワトゲネズミやケナガネズミをはじめ、沖縄を中心とした南西諸島に生息する希少種が多く含まれ、世界自然遺産の登録を意識した内容になっています。しかし一方で、この指定が必ずしも十分な保護施策に繋がっていないケースが認められており、今後の法執行のあり方には、まだ懸念される点が多く残されています。
日本の絶滅危機種は3,596種!
でも保護されているのは?
環境省が作成しているレッドリスト(絶滅の恐れのある野生生物のリスト)は、現在3,596種の日本の野生生物を絶滅危機種としてリストアップしています。
しかし、レッドリストへの掲載は、その法的な保護を約束するものではありません。 レッドリストは、あくまで危機に対する「警鐘」を鳴らすものであり、それを保護するには別に法律や政令などを作り、施行する必要があるのです。
そうした国の法律の中で最も重要なのが、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」、いれゆる「種の保存法」です。
この「種の保存法」では、法的な保護を義務付けた「国内希少野生動植物種」の指定を行なってきました。
すでに、トキやコウノトリ、アユモドキ、ツシマヤマネコ、イリオモテヤマネコ、レブンアツモリソウ、アマミテンダなどの動植物が名を連ねていますが、その数は決して多くありません。
2016年2月19日には、新たに41種の日本の野生生物が「国内希少野生動植物種」に指定されましたが、それでもその総数は175種(亜種含む)にとどまっています。
「国内希少野生動植物種」を300種に!
「世界自然遺産」への登録も意識
今回、41種が国内希少野生動植物種に追加された背景には、大きく2つの理由があります。
一つは、2013年に行なわれた「種の保存法」改正時の附帯決議の中で、「2020年までに300種を国内希少野生動植物種に指定する」ことが定められたことです。
これを実現するためには、単純に考えても、毎年50種程度を指定して行かねばならない計算になります。
今回の増加は、2013年の法改正以降、改正時の定め通りに、施行が行なわれていることを示すものであり、評価すべき点といえるでしょう。
もう一つの背景には、現在政府が目指している、南西諸島の「世界自然遺産」への登録があります。
実際、今回追加された41種には、オキナワトゲネズミやケナガネズミ、ホルストガエル、アマミイシカワガエル、オキナワマルバネクワガタ、ヤエヤマヒメウツギなど、南西諸島に生息する希少種が数多く含まれています。
環境省では過去にも小笠原諸島の世界遺産登録を目指す際に、国内希少野生動植物種への指定を増やしてきましたが、それと同様の意識が働いていることは、間違いありません。
日本の生物多様性の保全に向けて
WWFジャパンでは1990年代から、時代に合わなくなっていた「種の保存法」の不備を指摘し、その改正を繰り返し求めてきました。
2013年同法の改正時にも、与野党の国会議員に対し情報提供と提言を実施。スタッフも国会の参考人として登壇するなど、さまざまな取り組みを行ないました。
今回、41種の指定増加を導いた附帯決議と、3年後の抜本的な見直し、そして法案の一部修正は、この時の改正において実現した働きかけの成果です。
何より、この時の改正では、同法の目的条項に「生物多様性の確保」が位置付けられ、個別の野生生物の保護法であった「種の保存法」に、より環境保全に向けた大きな視野を与えることにも成功しました。
また、国内希少野生動植物種を、新たに指定する手順においても、上記の附帯決議の中で、国民に対する情報公開を徹底する旨が約束されたほか、環境省設置法に基づいた「希少種保全推進室」が設置されるなど、いくつかの進展が見られています。
しかし一方で、オオタカのように国内希少野生動植物種としての指定を解除する場合の対策に、まだ不備が認められる例や、国際的にも絶滅寸前の危機が指摘されている日本固有の淡水魚アユモドキのように、すでに指定されながらも、その保護が十分に行なわれていない状況にあります。
保全政策の施行が改善されなければ、国内希少野生動植物種の指定自体が、意味を失う危険もあるといえるでしょう。
2017年1月からは通常国会で再度、「種の保存法」の改正が議論される見込みです。
WWFジャパンでは、今回の41種の指定が、3,000種を超える絶滅危機種が示す、300種指定の第一歩、そして日本の生物多様性の現状を変えてゆく第一歩となるように、制度上の課題と改善を指摘、提言を継続してゆきます。