「種の保存法」改正までのNGOの働き
2013/06/27
「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(以下、種の保存法)の一部を改正する法律が、2013年6月4日の衆議院本会議で可決成立しました。WWFジャパンをはじめとするNGOは抜本的改正を求めていましたが、法律そのものは小幅な改正にとどまりました。しかし、参議院、衆議院の両方で11項目におよぶ附帯決議がつけられ、3年後の見直しに向けた課題が整理されたのは収穫と言えます。
種の保存法の抜本的改正を求めて
種の保存法は、絶滅のおそれのある国内外の野生の動植物種を守る法律です。1992年に制定され、1993年に施行されました。この法律は、もとをたどれば「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律」(1972年)と「絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律」(1987年)に行き着きます。この2つの法律が、生物多様性条約が採択されるという1980年代終わりからの国際的な機運を背景にして統廃合され、1992年に「種の保存法」となりました。1992年の制定時点では、生物の多様性を守るための法律のひとつとして大きな期待が集まりました。
しかし、実際には、種の保存法で、捕獲や譲り渡しなどが規制される「国内希少野生動植物種」は、2013年6月時点で90種が指定されているに過ぎず、種の絶滅を防ぐための法律としては、非常に物足りない内容の法律となっています。環境省が2012年から2013年にかけて公表した第四次レッドリストには3,597種が絶滅危惧種として掲載されていますので、わずか2.5%の種にしか、この法律の効力がおよばないことになります。
WWFジャパンをはじめとするNGO(市民グループなどを含む非政府組織)は、2003年から環境省に対し、抜本的な改正の必要があるとの意見書や要望書を提出してきました。しかし、法律自体に定期的に見直す規定がないため、ほとんど手がつけられることはありませんでした。
絶滅のおそれが高まっている種については、速やかに国内希少野生動植物種に指定し、適切な保護策が講じられるようにしなくてはなりません。それを可能とするような条文を設けるよう、いろいろな機会に提言を出してきたのです。そのためには、法律を抜本的に見直す必要があるとNGOは考えているのです。
法改正の機運が生まれる
種の保存法を改正するための具体的な動きが、ここ数年、政府に見られるようになってきました。法律の施行状況を専門家が点検する会議が開催され、また、2013年1月までパブリックコメントが募集されるなどしました。こうした動きに、WWFジャパンとトラフィック イーストアジア ジャパンは点検会議に委員として加わって意見を述べたり、パブリックコメントを提出するなどして対応してきました。
こうした法改正の動きは、2008年に制定された生物多様性基本法の附則の第2条が、種の保存法を含む生物の多様性に関わる法律について、「法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」と明記したことなどが起点となっています。ちなみに、生物多様性基本法は、WWFジャパンをはじめ約45の民間団体が連携して法律の草案(当初の法案名は「野生生物保護基本法案」)をまとめ、国会に働きかけて、成立にこぎ着けたという経緯があります。
法改正の機会を捉えて
しかしながら、2013年のはじめに政府が考えていた法改正は、罰則の引き上げと広告の禁止、5年後の法律の見直しという部分的なものにとどまっていました。これまでの罰則は、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」でした。これでは再犯を防ぐのに十分ではないということで、今回の法改正では、「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金(両方を科すこともありうる)」へと大幅に引き上げられ、法人については1億円以下の罰金が科されることになりました。
これによって、罰則は野生生物に関する法律の中ではもっとも厳しいものとなり、一定の犯罪抑止効果が期待できるとされています。しかし、これだけでは20年間で90種どまりという国内希少野生動植物種の指定は進みません。また、ワシントン条約附属書I掲載種から選定される「国際希少野生動植物種」に関わる登録票の不正な利用などを防ぐことはできません。
そこで、WWFジャパン、トラフィック イーストアジア ジャパン、日本自然保護協会、日本野鳥の会などのNGOは、参議院、衆議院の与野党各会派に所属する国会議員に面会し、必要とされる法改正の要点などを説明して回りました。法律の制定は、国会という立法府のもっとも大切な仕事です。与野党議員の賛同なしには法案は成立しません。幸い、NGOの提言は、与野党議員のみなさんの共感を呼び、いくつかの条文が修正されました。
まず、第1条の目的条項に「生物の多様性の確保」がはいりました。これで生物多様性基本法のもとにあるすべての個別法の目的条項に「生物の多様性の確保」が明記されることになりました。
種の指定が進まない理由として、絶滅危惧種に関する情報が不足していることを政府があげていたことから、第2条の国の責務に「科学的知見の充実を図る」ことが加えられました。
また、絶滅のおそれのある野生生物について効果的に施策を展開するためには、国民の広範な支持が必要なことから、第53条に「教育活動等により国民の理解を深めること」が追加されました。
そして、法律の見直しについては、附則の第7条で、3年後とされました。
3年後の見直しと附帯決議
法案が修正されたといっても、NGOが提案していた「科学委員会の設置」などの種の指定手続きに透明性をもたせ、迅速に指定を進めるための仕組みづくりは、条文には盛り込まれるに至りませんでした。かわりに、参議院、衆議院ともに、11項目からなる附帯決議をつけ、ここに、今後解決すべき課題が書き込まれました。
この附帯決議には、3年後の見直しに向けて、種の保全戦略の法定計画化を検討すること、科学委員会の法定化を検討すること、国際希少野生動植物種の個体登録制度を改善するためにマイクロチップの導入を検討すること、登録票の流用防止措置を検討することなどが盛り込まれています。種の保存法が抱える問題点の多くが附帯決議のなかに整理されており、今回の種の保存法の改正は、附帯決議が実行されていくのであれば評価できる、とWWFジャパンは考えています。
附帯決議には法的拘束力はありませんが、誠実に履行していくべきものです。参議院、衆議院ともに一字一句違わない附帯決議がついたことで、その重みは一層、増しています。NGOが求めていた提言は、その多くが3年後の見直しに先送りされてしまいましたが、附帯決議の内容を3年後には現実のものとするために、政府は行動を開始する必要があります。
種の指定が進むことが期待される
附帯決議には、注目できる点がたくさんありますが、特に、「当面、2020年までに300種を新規指定することを目指し」という文言が目を引きます。20年間でわずか90種の指定だったのですから、大幅にペースアップしなくては、300種の新規指定はかないません。WWFジャパンとしては、300種という 数字だけにこだわるのではなく、科学的観点から検討を加えた上で指定するという手続きの透明化が図られることが大切と考えています。そのためには、中央環 境審議会自然環境部会野生生物小委員会に生物の分類群ごとに専門家会合を設置し、議論するといった仕組みの導入が期待されます。
種の指定に際しては、これまで国民からの提案制度はありませんでしたが、一定の科学的情報をもつ人からの提案を受け付ける制度が設けられるべきでしょう。
こうした仕組みが導入されていけば、種の指定は、これまでよりも迅速に進んでいくものと思われます。ただし、絶滅のおそれのある野生生物種を守るための国の予算と人員は不足しており、予算と人員の手当がともなうように、政府をあげた取り組みとすることが重要になります。同時に、指定するだけではなく、保全施策もしっかりと講ずる必要があります。
NGOとしても、附帯決議の内容が今後どのように履行されていくのか、3年後となった見直しに向けて果たして課題は着実にこなされていくのか、引き続き注目していきます。