木材調達ガイドラインの強化に関し、NGO9団体が林野庁に要望
2010/11/17
共同記者発表資料 2010年11月17日
生物多様性、森林生態系、人権に配慮した木材・紙調達を!
11月16日、環境NGOなど9団体、15個人が、林野庁宛てに、1)グリーン購入法の木材調達ガイドライン強化、2)木材貿易における違法伐採対策強化――などを求める要望書を提出した。
世界の豊かな生物多様性や森林生態系の減少・劣化は、依然として深刻な状況である。森林減少の主な原因は熱帯林の農業用地や多用途への転換で、過去10年で年平均1,300万ha植林等の増分を除く)の自然林が失われた(FAO FRA2010)。
さらに世界的な需要の拡大を背景に、単一種(モノカルチャー)のアブラヤシ、製紙原料のアカシアやユーカリといった早生樹、大豆、その他バイオ燃料用作物など、商品作物のプランテーションが急激に拡大しつつある。本来の森林生態系/生物多様性や、その豊かさに生活の基盤を置く先住民族をはじめとする地元住民の生活が脅かされる状況が各地で多発している。また、植生や泥炭地の破壊により、大量の温室効果ガスが排出されている。
世界の森林で起こっているこれらの問題の解決に向け、2006年から日本政府で行なわれている取り組みのひとつが、グリーン購入法の木材調達ガイドラインに基づく合法性・持続可能性の確認である。
要望書では、現在のグリーン購入法のガイドラインは、生産国の森林に関する法令の遵守のみの形式的な確認にとどまっており、不十分であると指摘。また、木材貿易における違法伐採対策の一環として、EUや米国が採用している水際対策のための法規制を我が国でも導入を検討することを求めている。
なお、国際的には、EUは、各木材生産国との二国間協定に基づく貿易措置(EU-FLEGT-VPA)を進めてきており、さらに、欧州議会は2010年10月、違法に伐採された木材とそれを使った木材製品をEU市場で取引することを禁止する「違法木材法」を圧倒的多数で採決している。
また、米国では、レイシー(Lacey)法が2008年に改正された。これは、海外において違法に伐採された木材や木材製品を輸入、輸送、販売、購入することは、たとえそれを認識していなくても違法とするものである。この法改正により、すべての木材・木材製品の輸入に、1)樹種、2)原産地国、3)数量、4)価格を含む申告書が必要となる。
この件に関する問い合わせ
国際環境NGO FoE Japan (担当:三柴)
tel: 03-6907-7217 fax: 03-6907-7219
住所:〒171-0014 東京都豊島区池袋3-30-8 みらい館大明1F
財団法人世界自然保護基金ジャパン (担当:橋本)
tel: 03-3769-1364 fax: 03-3769-1717
住所:〒105-0014東京都港区芝 3-1-14 日本生命赤羽橋ビル 6F
要望書:木材調達ガイドラインの強化に関する提言
世界の生物多様性、森林生態系の劣化・減少を憂慮する私たち環境NGOおよび消費者は、下記のような危機感を共有しています。
- 世界の豊かな生物多様性や森林生態系の減少・劣化は、依然として深刻な状況である(注1)。さらに世界的な需要の拡大を背景に、単一種(モノカルチャー)の商品作物(注2)のプランテーションが急激に拡大しつつあり、本来の森林生態系の大きな脅威となっている。
- こうしたプランテーションの拡大により、本来の森林生態系に生活の基盤を置く先住民族をはじめとする地元住民の生活が脅かされる状況が、各地で多発している。
- 植生や泥炭地の破壊により、大量の温室効果ガスが排出されている。
- 違法伐採に対処する国際的な取り組みは進展し、一定の効果は上げているものの、他方、先住民族の土地利用権/所有権などについては十分担保されているとは言えない。このため生活基盤を失い困窮する先住民や地域住民がいる。
こうした状況に鑑み、私たちは日本政府および日本企業に下記を要請します。
日本政府に対する要請
- グリーン購入法の木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン(通称、木材調達ガイドライン)の強化
a) 現在のガイドラインは、実質上、生産国の森林に関する法令の遵守のみの形式的な確認にとどまっているため不十分である。生産国毎に、形式にとどまらず、独立した第三者機関が関与するような、実質的、かつ強固な確認方法を定めるべきである。
b) 同ガイドラインには「持続可能性」に関する明確な定義がない。「持続可能性」について、1)地域住民/先住民族の権利と意思の尊重(注3)、2)労働者の 人権と安全への配慮、3)保護価値の高い森林の保全、4)社会的紛争や天然林の大規模な皆伐の回避などを含む包括的な定義を明記すべきである(注4)。
c) 現在のグリーン購入法では、たとえ問題のある伐採(注5)であったとしても、間伐材、端材、林地残材、そして小径木が原料であるとされる場合は、合法性確 認の対象から除外されることがある(注6)。こうした原料の合法性、持続可能性についても確認すべきである。 - 木材貿易における違法伐採対策の一環として、EUや米国が採用している水際対策のための法規制を我が国でも導入を検討すること(注7)。
日本企業に対する要請
- 企業の原料調達にあたり、上述の政府に対する要請同様、生物多様性や森林生態系など環境的側面、そして人権等の社会的側面を十分に配慮すること。
- とりわけ、木材、紙、森林生態系に影響を与えうる商品作物(パーム油、大豆等)などを原料とした製品を扱っている企業は、現地の市民社会等の指摘なども踏まえ、森林生態系や人権などに影響を与えない原料調達方針を策定し、方針に沿った適切な実施・運用を徹底すること。
[連名団体](五十音順)
A SEED JAPAN、FoE Japan、グリーンピース・ジャパン、サラワク・キャンペーン委員会、WWFジャパン、地球・人間環境フォーラム、熱帯林行動ネットワーク、メコン・ウォッチ、レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表部
[連名個人](五十音順、敬称略)
足立直樹(サステナビリティ・プランナー)、石井悦子(会社員)、井上真(東京大学大学院教授)、内海和夫(自営業・広告業)、大河内秀人(見樹院住 職)、大塚和徳、澤田慎一郎(全国労働安全衛生センター事務局次長)、志葉玲(フリーランスジャーナリスト)、島本美保子(法政大学教授)、杉本正威(ウ インズ保育園園長)、泊みゆき(バイオマス産業社会ネットワーク理事長)、三尾輝久(会社員)、本橋恵一(環境ジャーナリスト)、山本かおり(ゆいツール 開発工房)、横山卓典(学生)
(注1) FRA2010によれば、森林減少の主な原因は熱帯林の農業用地や多用途への転換である。過去10年で年平均1,300万ha(植林等の増分を除く)の自然林が植林や農地など他用途への転換、または自然災害等で失われた。
(注2) アブラヤシ、製紙原料のアカシアやユーカリといった早生樹、大豆、その他バイオ燃料用作物など。
(注3) 2007年9月、「先住民族の権利に関する国連宣言」が日本を含む144カ国の賛成を得て国連総会で採択されている。また地域住民/先住民族の意思を尊重する意味で、十分な情報に基づく自由で事前の合意(FPIC)はとても重要視されている。
(注4) 森林生態系に配慮した紙調達に関するNGO共同提言(2005)、森林生態系に配慮した木材調達に関するNGO共同提言(2006)を参照のこと。
(注5) 「問題のある伐採」の事例として、マレーシア、サラワク州の例を挙げる。同州では、大規模な天然林の皆伐が盛んに行われ、伐出された木材は小径木、かん木を問わず、合板や繊維板(MDF)として使用されている。
(注6) 現在のグリーン購入法基本方針では、合法性の確認について以下のように特例を設けている。紙類(例えばコピー用紙)は「間伐材により製造されたバージンパ ルプ及び合板・製材工場から発生する端材、林地残材・小径木等の再生資源により製造されたバージンパルプには適用しない」。製材等(製材)は「間伐材、林 地残材、又は小径木は適用なし」。再生木質ボード(繊維板)は「合板・製材工場から発生する端材等の残材、建築解体木材、使用済梱包材、製紙未利用低質 チップ、林地残材・かん木及び小径木(間伐材を含む)等の再生資源は適用なし」。
(注7) EUは、各木材生産国との二国間協定に基づく貿易措置(EU-FLEGT-VPA)を進めてきた。欧州議会は2010年7月7日、違法に伐採された木材と それを使った木材製品をEU市場で取引することを禁止する立法措置を圧倒的多数で採決した。今回の措置で2012年以降、EUで営業する企業は物流管理の 文書を提出し、木材製品の出所を明らかにすることが義務付けられ、違反した企業には制裁が科せられることになる。環境破壊や木材の価値などを考慮した罰金 のガイドラインも設定される。
また、米国では、レイシー(Lacey)法が2008年に改正された。これは、海外において違法に伐採された木材や木材製品を輸入、輸送、販売、購入する ことは、たとえそれを認識していなくても違法とするものである。この法改正により、すべての木材・木材製品の輸入に、①樹種、②原産地国、③数量、④価格 を含む申告書が必要となる。紙、家具、丸太、フローリング、合板および額縁などの木材製品をアメリカ向けに輸出するすべての企業が対応を迫られることと なった。