40年ぶり!ボルネオ東カリマンタンでスマトラサイが捕獲される


ボルネオ島のインドネシア東カリマンタン州で、絶滅寸前の危機にあるスマトラサイが捕獲されました。場所は、2013年4月に20年ぶりにスマトラサイの生存が確認された同州の西クタイ県。同地での捕獲の記録としては、実に40年ぶりのこととなります。ここは孤立した森林地帯で、保護区にも指定されておらず、スマトラサイの生息数も数頭しかいないと考えられるため、捕獲した個体は保護区へ移送することが決まりました。

40年ぶりの捕獲

スマトラサイは、スマトラ島とボルネオ島の熱帯林に生息していますが、東南アジアの熱帯林の消滅と、角を狙った密猟により減少。

IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト」でも、絶滅寸前の危機を示す「CR(近絶滅種)」にランクされています。

このスマトラサイはボルネオ島のカリマンタン(インドネシア領)では、久しく絶滅したと考えられていましたが、2013年4月にWWFなどの調査により東カリマンタンの西クタイ県に生き残っていたことが判明。

そして、2016年3月12日には、同地で生きた個体が捕獲されました。

捕獲されたのは、4歳から5歳になるメスで、この場所での記録としては、実に40年ぶりといわれています。

保護区への移送

今回の捕獲は、あらためてスマトラサイの生存を明らかにし、また4、5年前までは確実に繁殖していたことを示す、喜ばしいものでした。

しかし、この場所に生息すると考えられるスマトラサイの個体数は、わずかに数頭。

また捕獲地点はよい生息環境が残る場所ではあるものの、森林の面積は狭く、孤立しており、保護区にも指定されていません。

そこで、今回捕獲されたスマトラサイは、捕獲地点から150キロ離れた保護区に、急ぎ移されることが決まりました。

野生生物は本来、生息していた自然の中で保護すべきものであり、保護活動もそれを目指すのが基本です。

しかし、今回の場合は、この場所ではいずれ、スマトラサイが生存できなくなることがほぼ明らかであったため、難しい決断ながら、移動させる手立てが選ばれました。

スマトラサイを守るために

現在生き残っている、スマトラサイの総個体数は、推定で220~275頭ほどとみられていますが、実際にはもっと少なく、危機の高さを指摘する見解もあります。

ボルネオ島では2015年に、北部のマレーシア領に生息していた地域個体群が姿を消しており、カリマンタン地域に生き残る個体も、正確な数は不明ながらも、決して多くはないと考えられています。

西クタイに生息していると考えられるスマトラサイも、現時点ではどんなに多くても15頭。それが3つの集団に分かれていると考えられています。

WWFインドネシアのエフランジャ事務局長は次のように述べています。

「今回の捕獲によって、一度は絶滅したと考えられていたスマトラサイが、今もカリマンタンの森に息づいていることが証明されました。私たちは、この特別な野生動物の保護に向けた努力を、今あらためて強いものとしてゆくつもりです」

スマトラサイは、失われゆくスマトラ、ボルネオの自然を象徴する生きものといっても過言ではありません。

WWFでは、今後もインドネシアの森林保全と、スマトラサイの調査活動を継続しながら、その長期的な保護に向けた取り組みを目指してゆきます。

急速に減少するボルネオ島の森


2016年4月6日 追記

捕獲されたスマトラサイの死亡について

2016年4月5日(ヨーロッパ時間)、残念なことに今回捕獲されたこのスマトラサイの死亡が確認されました。
直接の原因については、現在調査が行われている段階ですが、今回の捕獲以前に密猟者の罠によって負傷しており、この傷からの感染症が原因である可能性があります。
詳細につきましては、後日改めてご報告させていただきます。


2016年4月12日 追記

捕獲されたスマトラサイの死亡について(詳細)

上記の記事でご報告しましたスマトラサイ個体の死亡が、2016年4月5日早朝に確認されました。
死因については調査の結果、感染症ではないかと考えられています。

この個体は、今回捕獲されるよりも以前に、密猟者の仕掛けたくくり罠(ワイヤーを使った罠)により、左後脚に怪我を負っていたことから、これが原因になった可能性が指摘されています。

実際、この地域では野生動物を密猟する罠が非常に多く設置されており、このサイについても怪我をした状態が2015年10月、調査用の自動カメラ(カメラトラップ)で撮影されていました。

また、このスマトラサイがいた場所は、鉱物採掘のため森林減少が著しく進んでいる地域だったことから、今回政府の許可のもと、保護のため捕獲に踏み切った経緯がありました。

こうした事情を受け、捕獲現場ではインドネシアの環境林業省などに所属する複数名の獣医が、オーストラリア動物園、タロンガ動物園やアメリカのコーネル大学などの国際的なサポートのもと、24時間体制で治療、監視にあたっていましたが、残念ながら容体の急変に対応できませんでした。

捕獲された個体が罠による傷を負っていた事実は、残り100頭を切るといわれるまでに数が少なくなったスマトラサイが、いまだに密猟の危機にさらされている現実を浮き彫りにするものでもあります。

今回、カリマンタン(ボルネオ島インドネシア領)では数十年前に絶滅してしまったと考えられていたスマトラサイが、40年ぶりに捕獲された事実は、その確実な生存がみとめられた、確かに喜ばしい出来事ではありました。

しかしながら、あまりにも早く訪れたその悲しむべき死は、この地でスマトラサイを守っていくことの困難と課題の大きさを、保護活動の最前線に立つWWFのスタッフはもちろんのこと、協力関係にある諸団体のメンバーや、この捕獲許可を裁可した地元の行政関係者に、あらためて痛感させるものとなりました。

WWFインターナショナル野生生物保護プログラムのディレクターであるカルロス・ドリューは、このスマトラサイの死に深く哀悼の意を捧げつつ、以下のコメントを発表しています。

「私たちは今、絶望にも似た感情を隠せません。ですが、カリマンタンには、まだわずかながらもスマトラサイが生き残っていることが分かっています。今回のスマトラサイの捕獲は、この地では過去40年間で「初めての出会い」でした。私たちは、これが「最後の出会い」にならないよう、活動を続けていきます」

また、現場での活動に取り組むWWFインドネシア自然保護部長のアルノルド・シトンプルも、「同地域に残されたスマトラサイを守っていくためには、政府機関やその他の専門家の協力と支援に支えられた活動の継続が必要です」と強調しました。

今回の捕獲個体を死なせてしまったことは、スマトラサイ保護の上での大きな痛手であり、取り組みの困難さを問い直すものとなりました。

しかし、スマトラサイの推定個体数は、現状で100頭を切るまでに減っているといわれており、その保護が非常な急務であることは間違いありません。

日本のサポーターの皆さまには、2014年より、このスマトラサイの保護プロジェクトに対し、ご支援を頂いてまいりましたが、このような展開になったことを、WWFジャパン事務局としても非常に残念に思っております。

今後も、現地のWWFインドネシアと協力しながら、減少が続くボルネオとスマトラの森の保全活動と共に、スマトラサイの保護を継続して支援してゆきたいと考えておりますので、引き続き皆さまのご理解とご支援のほどを、お願い申し上げます。


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