和訳版発行「Getting Underway: 水産関連投資の環境・社会リスクに対処するアセットマネジャーの取り組みに関する2023年版評価」
2024/11/06
- この記事のポイント
- 2024年6月、WWF は、アセットマネジャーの水産関連の責任投資の現状をまとめた新しい報告書を公表しました。これは、アジア、北米地域、欧州のアセットマネジャー42社(日本のアセットマネジャー15社を含む)による水産関連の持続可能性の取り組みを評価したものです。今回の調査結果では、アセットマネジャー15社が2022年の評価時と比べて改善を示しました。一方、水産特定の環境・社会に関する投資先企業へのポリシーを定め、公表しているのは前年同様1社のみと、水産に特化した取り組みを進めているアセットマネジャーは依然として非常に少ないことも明らかになりました。この度、和訳版「Getting Underway: 水産関連投資の環境・社会リスクに対処するアセットマネジャーの取り組みに関する2023年版評価」をリリースする運びとなりましたのでお知らせいたします。
アセットマネジャーの水産サステナビリティの取り組み 底上げが必要
海洋環境の悪化と海洋資源の枯渇が深刻化する中、海洋環境や資源を保全しながら、持続可能な経済活動を行う「ブルーエコノミー」と、そのための資金調達や金融機関による投融資である「ブルーファイナンス」の重要性が世界的に注目を集めています。
WWFは、世界のアセットマネジャー40社(日本の5社を含む)の責任投資の取り組みを評価した調査報告書「RESPOND(Resilient and Sustainable Portfolios :レジリエントで持続可能なポートフォリオ)」を公表しています。
これに加えて、アセットマネジャーによる水産物に特化した持続可能性の取り組みを後押ししていくため、WWFは世界のアセットマネジャー42社(日本の15社を含む)における取り組みを評価した新しい報告書を2024年6月に公表し、その和訳版「Getting Underway: 水産関連投資の環境・社会リスクに対処するアセットマネジャーの取り組みに関する2023年版評価」を2024年10月に発行しました。
「Getting Underway 2023」
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調査結果では、42社中13社のアセットマネジャーが、2022年の評価時と比べて改善したことが示されました。改善の内容には、自然関連のリスク管理に関連する新たなコミットメントまたは方針の公表、投資先の水産関連企業に対するESG問題に関する積極的なエンゲージメントの実施などが含まれます。
また、生物多様性や自然資本の影響を、企業に対するリスクとして公に認識しているアセットマネジャーの数も、2022年の32社から35社に増加しました。
さらに、今回の調査では、改善が見られた13社のアセットマネジャーのうち、日本企業が7社を占め、日本のアセットマネージャーのスコア改善が際立ちました。
一方で、海事または海洋の文脈で生物多様性や自然資本のリスクに具体的に言及しているのはわずか11社(26%)と低い水準に留まっており、今後、さらなる前進が期待されます。
前進が見られた点と、いまだに課題として明確になっているポイントは、概ね次のとおりです。
前進した点
- 生物多様性に関する正式な方針表明を行うアセットマネジャーが前年比9%増加しました。
- 水産会社へのエンゲージメントを実施していると公表しているアセットマネジャーが前年の4社から5社に増加しました。
- ブルーファイナンス商品(水産業のサステナビリティに特化した投資商品)に関する情報を公表したアセットマネジャーが前年の3社から5社に増加しました。
課題
- 生物多様性や自然関連に比べると、水産物に関するリスクの認識や取り組みは遅れており、水産業が生物多様性に及ぼす影響や、生物多様性への依存を踏まえ、水産業を高リスクと特定しているのは8社(19%)のみでした。
- 水産物に関する認証やトレーサビリティの重要性に言及しているアセットマネジャーはごくわずかでした。
- 取り組みが進んでいるアセットマネジャー(スコア59%)と取り組みが遅れているアセットマネジャー(スコア0)の間に大きな隔たりがあります(平均は15%)。
アセットマネジャーに求められるブルーファイナンスの取り組み
評価結果をもとに、レポートでは、アセットマネジャーに対し、以下を含む取り組みを進めることを求めています。
- 生物多様性リスクに関する概括的な表明に加え、水産関連の期待や指標を方針に含めること
- 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)の「持続可能なブルーエコノミー金融イニシアティブ(ブルーファイナンスイニシアティブ)」に参加し、「持続可能なブルーエコノミー金融原則(ブルーファイナンス原則)」や指針等を自社のセクターポリシーや方針、投資先企業レビュープロセスに組み入れること
- 水産関連の環境・社会リスクへのエクスポージャーを定期的に評価し、投融資先とのエンゲージメントを通じて、事業のサステナビリティの改善を支援すること
- 水産ポートフォリオにおけるサステナビリティの改善に関して期限付きの目標を策定・設定し、取り組みの進捗状況を開示すること
- 海洋環境の保全やサステナビリティ向上に寄与するブルーファイナンス商品を開発・提供すること
WWFは持続可能なブルーエコノミーの実現におけるアセットマネジャーの役割を重視し、提言や働きかけを行なっていきます。
参考文献
「Getting Underway 2023」原文
https://www.worldwildlife.org/publications/2023-getting-underway-asset-managers-seafood-sector-policy-analysis
責任投資慣行に関する報告書『RESPOND』を発表
https://www.wwf.or.jp/activities/lib/4923.html
和訳版発行「Above Board: 銀行の水産セクターポリシーの評価2023」
https://www.wwf.or.jp/activities/lib/5752.html
UNEP FIブルーファイナンス原則
https://www.unepfi.org/blue-finance/the-principles/