生きている地球レポート2024 - 自然は危機に瀕している -

この記事のポイント
自然の損失と気候変動という2つの連鎖した危機は、野生生物と生態系を極限まで追い詰めています。『生きている地球レポート2024』は、世界が、地球の生命維持システムの存続を脅かして、社会の不安定化を招くような危険な転換点(ティッピング・ポイント)に直面していることに警鐘を鳴らしています。今後5年間にとる決断と行動が、地球上の生命の未来にとって、極めて重要です。『生きている地球レポート2024』は、国立公園等の保護区や保全上重要な地域に対する政策など自然環境保全のあり方、食料システム、エネルギーシステム、金融システムの4つの分野での変革の必要性を訴えています。
目次

『生きている地球レポート2024ファクトシート日本語版』
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英語版フルレポートフルレポート『Living Planet Report 2024 - A System in Peril』
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1. 生きている地球レポート(LPR)とは

WWFの『生きている地球レポート(Living Planet Report: LPR)』は、地球の生物多様性の豊かさと健全性に、どのような傾向がみられるのかをまとめた報告書です。

今回で15回目となりますが、自然界の現状を科学的知見に基づいてまとめており、対象の野生生物種の個体群を分析した「生きている地球指数(Living Planet Index: LPI)」も含まれます。

今回の報告書では、1970年から2020年までのわずか50年の間に、LPIで73%減少した深刻な現状が明らかになりました。

「生きている地球指数(LPI)」は、野生生物の絶滅危機の増大や、健全な生態系の劣化の可能性について、早期に警鐘を鳴らす指標となります。生態系は回復力を失うと、さらに攪乱の影響を受けやすくなります。本報告書は、自然の損失と気候変動という2つの危機が、いかに地球を危険かつ不可逆的な転換点(ティッピング・ポイント)に近づけているかを検証しています。

『生きている地球レポート2024』は、2030年までに自然、気候ならびに持続可能な開発に関する世界目標を達成することの重要性と、自然環境の保全とエネルギー、食料、金融システムを変革する4つの提言を示しています。そして今後5年間が、地球上の生命の未来にとって極めて重要であると警告しています。まだ希望はあります。いま行動すれば、生きている地球(living planet)を取り戻すことが出来るのです。

2024年発表の「生きている地球指数(LPI)」では、分析対象の脊椎動物種の個体群の大きさが過去50年間で平均73%減少しています。指数の変化率は、50年間に追跡された動物個体群の大きさの平均的な比例変化を反映したもので、失われた個体数や個体群の数でありません。グラフの白線は指標値を示し、白線の上下の赤いゾーンは、傾向をとりまく統計的確実性を示します。(統計的確実性95%、範囲67%~78%)。
出典:WWF、ZSL(2024)『生きている地球指数 データベース』

© Danielle Brigida / WWF-US

2. 自然の減少を可視化する「生きている地球指数(LPI)」

重要な自然のシステムに対する脅威に取り組むには、まず自然がどのように変化しているのか、なぜ変化しているのかを理解することが重要です。「生きている地球指数(LPI)」は、「ロンドン動物学協会(Zoological Society of London: ZSL)」によって作成され、5,495種の脊椎動物(両生類、鳥類、魚類、哺乳類、爬虫類)における、約3万5,000の個体群に対する調査に基づいています。「生きている地球指数(LPI)」や同様の指標はすべて、自然が驚くべき速さで消滅していることを示しています。

1970年から2020年までの陸域と淡水域を合わせた「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services: IPBES)の分類に基づいた地域別「生きている地球指数(LPI)」

1970年から2020年までの陸域と淡水域を合わせた「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services: IPBES)の分類に基づいた地域別「生きている地球指数(LPI)」

過去50年間にわたって各地域に対して与えられた自然への圧力の種類や水準が異なるため、地域によって「生きている地球指数(LPI)」の減少傾向は異なります。減少が著しいのは中南米・カリブ海、アフリカ、そしてアジア・太平洋地域です。欧州及び北米では、自然に対する大規模な負の影響が1970年の指数開始以前からすでに顕在化していたため、マイナス傾向が少ないと考えられます。

各地域で最も報告されている脅威は、生息地の劣化と喪失で、主に食料システムによるものです。続いて、乱獲や侵略的外来種、病気も深刻な要因です。その他の脅威として、気候変動(中南米・カリブ海で顕著)や汚染(特に北米とアジア・太平洋地域で顕著)が挙げられます。

「生きている地球指数(LPI)」は陸域、淡水域、海域といった生息環境ごとの変化も表します

最も減少が著しいのは、淡水域です。これは、河川や湖沼、湿地などの自然に生きる、淡水魚や両生類などが、高いストレスを受けていることを示します。例えば淡水魚は、しばしばダムや移動経路を遮断するような生息地の変化に脅かされています。

「生きている地球指数(LPI)」の算出方法

野生生物は、さまざまな理由で数えられています。一つの種の調査を、特定の生息域で複数年実施すれば、その場所でその種の個体群の大きさがどのように変化したかを示すことが出来ます。

「生きている地球指数」は、これらの個体群の大きさの変化を用いて、調査対象種の相対的存在量が平均して増加したのか、減少したのか、あるいは変わらないのかを明らかにします。そのために、生息数の変化に関する情報を「生きている地球データベース」から取得し、平均化します。

「生きている地球指数(LPI)」に言及する際、同指数は個体群の変化の平均的な傾向を示すものであり、失われた個体数や種の総数の平均を示すものではないため、「損失」ではなく「減少」という言葉を用います。

『生きている地球レポート』の2024 年版と 2022 年版では、版ごとにデータセットが変更されているため、直接比較すべきではありません。なお、『生きている地球レポート2024』では、2022年版より265種、3,015個体群が多く含まれています

3. 後戻りできない危険な転換点(ティッピング・ポイント)が近づいている

さまざまな負の変化が蓄積すると、ある時点を境に自己加速的になり、結果として、大規模で、多くの場合急激で、しかも場合によっては不可逆的な変化となりえます。この臨界点が「転換点(ティッピング・ポイント)」です。自然界における「転換点」は、生息地の劣化や、土地利用の変化、乱獲、気候変動などのさまざまな脅威が個別もしくは相互に作用し合って臨界点を超えたときに発生します。

現在の傾向を放置すれば、地球上の多くの場所で転換点が訪れ、自然に対して壊滅的な結果をもたらす可能性があります。その中には、人類や大多数の生物に深刻な脅威をもたらし、地球環境が生命を維持していく力に被害を与え、あらゆる場所で社会の不安定化を招くような、地球規模の転換点も含まれています。

(地球の)システムは、小規模な変化が継続的に起きても、その圧力(または変化の推進力)を吸収できている限りは、現状(A)に留まることができます。しかし、その圧力が少しずつ溜まる、あるいは急激にかかると(B)、システムは限界に達する、つまり「転換点」に到達してしまいます(C)。システムが転換点に至ると、今度は変化自体が自己加速し(D)、新しい状態(E)になるまで変化し続けてしまいます。

(地球の)システムは、小規模な変化が継続的に起きても、その圧力(または変化の推進力)を吸収できている限りは、現状(A)に留まることができます。しかし、その圧力が少しずつ溜まる、あるいは急激にかかると(B)、システムは限界に達する、つまり「転換点」に到達してしまいます(C)。システムが転換点に至ると、今度は変化自体が自己加速し(D)、新しい状態(E)になるまで変化し続けてしまいます。

地球規模の転換点:アマゾンの熱帯雨林の消失

© kakteen / Shutterstock

アマゾンの熱帯雨林には、地球上における陸域の生物種の10%が存在し、2,500億トンから3,000億トンもの炭素を蓄え、4,700万人以上の人々が暮らしています。しかし、気候変動と森林破壊が今、アマゾンに降雨量の減少をもたらし、この地域の大部分の環境条件を熱帯雨林にとって適さないものへと変え、その自然を回復不可能な「転換点」に導こうとしています。

その影響は甚大なものとなる恐れがあり、生物多様性とそこに根差す文化的価値の喪失、地域及び地球規模での気象パターンの変化、農業生産性や、ひいては世界全体の食料供給にすら影響が及びます。

このような大規模な変化は、気候変動のさらなる加速化をももたらします。アマゾンは、火災や植物の枯死によって、炭素の吸収源から巨大な排出源へと変貌します。750億トンにも及びうる大気への炭素放出は、1.5度目標の達成を不可能にしてしまう可能性があります。

地球規模の転換点:サンゴ礁生態系の消滅

© The Ocean Agency / Adobe Stock

気候変動の影響によって海の中で起きている海洋熱波は、表層水温を上昇させ、大規模なサンゴの白化をもたらします。

オーストラリアのグレート・バリア・リーフでは、1998年、2002、2016、2017、2020、2022、そして2024年の7回にわたり、サンゴの大規模な白化現象が発生しました。

造礁サンゴの中には、白化状態から回復できるものもありますが、回復できないものもあり、汚染や乱獲など他の圧力によって、回復力はさらに弱まっています。気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)は、産業革命前と比べて1.5度の気温上昇でも、世界のサンゴ礁の70~90%が死滅すると予測しています。

世界で最も生物多様性が豊かな生態系の1つと言われるサンゴの生態系が失われることは、深刻な社会的、経済的な被害をもたらします。なぜなら、3億3,000万人もの人々が、高潮から身を守る防波堤として、あるいは、食料の入手、(観光資源などの)生計の手段、そのほかさまざまな形でサンゴ礁の恩恵にあずかっているからです。


世界の各地で、さまざまな危機が深刻化してバランスが崩れ、「転換点」が近づきつつありますが、まだ、これを回避することは可能です。今すべきことは、生態系のレジリエンス(回復力)を高め、気候変動やその他の変化への圧力軽減につながる、あらゆる対策を実践することです。

4. このままでは世界目標を達成できない

© Wil.Amaya _ Adobe Stock

国際社会は、豊かで、持続可能な未来に向けた世界目標を複数設定してきました。生物多様性の損失を食い止め、回復に転じさせること(昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF))、地球の気温上昇を1.5度に抑えること(パリ協定の下での目標)、そして貧困を撲滅し、人々のウェルビーイングを保障すること(「持続可能な開発目標(SDGs)」の下での目標)。こうした野心的な目標設定にもかかわらず、各国が国内でかかげる目標やその実践は、2030年までの目標達成や、目標達成を不可能にしてしまうような転換点を避けるために必要な水準には至っていません。現状のままでは、

  • 2030年までに達成すべきSDGsの目標は、半分以上が未達成に終わる可能性があります。しかも、その3割は2015年時点と比べ、改善が全く見られないか、もしくは悪化しています。
  • 各国の気候変動への取り組みが現状のままであれば、今世紀末の世界の平均気温は3度上昇することになり、複数の壊滅的な転換点を迎えることになります。
  • 各国の生物多様性に関する戦略や実行計画が不十分で、資金的・制度的支援も不足しています。
 

重要なことは、気候変動、生物多様性、開発目標を切り離して個別のものとして取り組んでしまうと、異なる目標、例えば食料生産、生物多様性保全、再生可能エネルギーのための土地利用の間で、対立が生じるといったリスクを高めてしまうことです。

しかし、これらの目標に向けての取り組みを一体的に行うことによって、自然の保全と回復、気候変動の緩和と適応、人々のウェルビーイング向上に向けての道が、同時にひらけます。

5. 変革と持続可能な解決策

人と自然が調和して生きられる未来のためには、課題の規模に見合った行動が必要です。より多くの、そしてより効果的な環境保全活動が必要であると同時に、自然の喪失の主な要因に対しても、取り組みを強化していかなければなりません。そのためには、食料、エネルギー、金融システムの変革を実現することが重要です。

自然環境保全の変革

© Hannes Thirion _/ iStock

現在、地球上の陸域の16%、海域の8%が、何らかの形で保護区として守られています。昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)は2030年までに陸域・淡水域・海域の30%を保護すること、及び自然が劣化した地域の30%を回復させることを求めています。

各国は、それぞれが持つ保護区の制度を拡大し、強化し、連結した上で、適切な資金を投じることが必要です。またその際には、人々の権利やニーズを尊重することが必要です。自然環境保全の取り組みは、先住民や地域コミュニティの権利、ニーズ、そして価値観を取り入れることによってのみ、長期的な成功につながります。また、保護地域以外での効果的な取り組みも実践していく必要があります。

食料システムの変革

© Kelvin H. Haboski / Shutterstock

食料生産は、自然が減少する主要因の1つです。なぜなら、食料生産は世界の生物の生息可能地域の40%を使用しており、野生生物の生息地減少の最大の原因となっています。

また、世界の水使用量の70%を占め、温室効果ガス排出量の4分の1以上を占めています。世界各国が連携して取り組むことが必要です。

具体的には、自然が豊かになることを確保しながら、全ての人々に食を届けるようなネイチャー・ポジティブな生産を拡大していくこと。食品廃棄・ロスを削減すること。そして、環境を破壊するような補助金の削減を含め、資金支援の拡充や、不正・腐敗を排したガバナンスの育成が必要です。

エネルギーシステムの変革

© jeson / Adobe Stock

現在のエネルギーの生産と消費のあり方こそが、気候変動の主な要因です。化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を早急に実現し、2030年までに温室効果ガス排出量を半減させることで、パリ協定の1.5度目標達成への道筋を確保しなければなりません。過去10年の間に、再生可能エネルギー容量は、世界全体で約2倍となり、風力、太陽光、蓄電池のコストは最大85%低下しました。

しかし、こうした進展は見られるものの、その速度と規模は、いまだ不十分です。今後5年間で、再生可能エネルギーの容量を3倍に、エネルギー効率を2倍にし、そして、迅速で、グリーンで公正なエネルギー移行に向けて、電力網を更新していく必要があります。

金融システムの変革

© aprilian _ Adobe Stock

人と自然がともに豊かに生きていける地球の未来を確保するためには、金融システムの変革が必要です。具体的には、環境を破壊する活動への投資や融資の流れを止め、自然や気候、SDGsの諸目標の達成に貢献する、事業やビジネスモデルへの投融資を拡大するような変革を実現することです。

世界のGDPの55%(およそ58兆ドル)が、自然環境や生態系サービスに中程度から高程度で依存してきたにもかかわらず、現在の経済システムは、自然の価値をほとんど取り入れることができていません。「グリーンへの投融資」は自然環境保全や気候変動対策への大規模な資金動員を意味し、「投融資のグリーン化」は、金融システム自体を、自然、気候、SDGsの諸目標達成に貢献するように変えていくことを意味しています。

6. 私たちが実現すべきこと

これからの5年間に、人類がどのような選択と行動を取るかで、地球の未来が決まると言っても過言ではありません。世界を、この5年間で持続可能な方向に軌道修正できるか、あるいは、自然の劣化と気候変動が、相互に加速しあう負のサイクルの中で、人類は転換点(ティッピング・ポイント)を迎えてしまうのか。気候変動、生物多様性、そしてSDGs。すでに掲げられた世界目標は、私たちが進むべき道と行先を示しています。

いま、各国政府や民間セクターは、これらの世界目標達成に向けた自らの目標と実践について、誠意をもって取り組んでいかねばなりません。

コロンビアのカリで生物多様性条約第16回締約国会議(CBD-COP16:2024年10月21日~11月1日)が、アゼルバイジャンのバクーでは国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29:2024年11月11日~22日)が、それぞれ開催されます。これらの会議で、各国政府は、より野心的な気候と自然に関する計画を打ち出し、実行することを通じて、大胆な行動と勇気あるリーダーシップを示さねばなりません。

対策規模を拡大していくために、公的・民間の資金活用を増大させ、気候と自然に関連する政策・対策をより融合させていくことが必要です。

手を取り合うことができれば、きっと成功します。私たちにとって、たったひとつの生きている地球であり、チャンスも1度きりです。

WWFインターナショナル 事務局長 キルステン・スフエイト
© WWF International

WWFインターナショナル 事務局長 キルステン・スフエイト

自然の損失と気候変動という2つの連鎖した危機は、野生生物と生態系を極限まで追い詰めています。その結果、世界は、地球の生命維持システムの存続を脅かし、社会の不安定化を招くような危険な転換点(ティッピング・ポイント)に直面しています。事態は絶望的かのように見えますが、決して、後戻りできない転換点を超えたわけではありません。今後5年間にとる決断と行動は、地球上の生命の未来にとって、極めて重要です。まだ、未来のために軌道修正を行なうチャンスは残されています。いま行動を起こせば、生きている地球を取り戻すことができるのです。

上記内容はWWFインターナショナル発行の「LIVING PLANET REPORT 2024 - A system in peril MEDIA SUMMARY」の日本語訳です。詳細については、WWFインターナショナルのウェブサイトをご覧ください。
livingplanet.panda.org

『生きている地球レポート2024』関連サイト

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