【アーカイブ動画あり】スクール・パリ協定プラス 2024 ~脱炭素に関するシリーズ勉強会~ 企業が知っておきたい「気候変動に関する国連会議COP29の結果」~COP29の結果から考える、今後の脱炭素戦略~
2025/01/16
- この記事のポイント
- 2024年11月11日から24日まで、気候変動に関する国連会議、COP29が、アゼルバイジャンの首都、バクーで開催されました。この会議では、途上国のための気候資金の目標が採択されたほか、パリ協定6条の詳細なルールが決まりました。一方、緩和の対策強化はCOP30に先送りされました。WWFジャパンは、会議に参加した3人の専門家による報告、さらに11月25日に開催された政府審議会において発表された日本の2035年温室効果ガス削減目標(NDC)の素案の意味合いについても解説するウェビナーを開催しました。その概要を報告します。
(目次)
プログラム
進行説明:WWFジャパン気候・エネルギーグループ 羽賀秋彦
解説 COP29の全体像と気候資金目標に関する交渉結果
WWFジャパン自然保護室長 山岸尚之
資料 COP29の全体像と気候資金目標に関する交渉結果
解説 緩和の強化と日本のNDC案
WWFジャパン専門ディレクター(環境・エネルギー) 小西雅子
資料 緩和の強化と日本のNDC案
解説 非国家アクターの動向
WWFジャパン気候・エネルギーグループ 田中健
資料 非国家アクターの動向
各講演の概要
COP29全体像と気候資金目標に関する交渉結果
WWFジャパン自然保護室長 山岸尚之
パリ協定成立前後の流れとCOP29の結果概要
COP29のメインテーマだった気候資金の結果を報告する前に、まずパリ協定成立前後のおおまかな流れと、COP29の結果の概要を解説させていただきます。
国連の気候変動の取り組みには、30年以上の歴史があります。まず1992年に気候変動枠組条約がつくられ、1997年に京都で開催されたCOP3で京都議定書が採択され、初めて先進国に対して温室効果ガスの排出量を規制することが義務として課されました。その後2015年にすべての国が参加するパリ協定が採択され、2020年から実施されています。
国連交渉はその後も続けられ、2018年のCOP24で6条を除くほとんどのルールが合意され、いわゆるルールブック(実施指針)が完成しました。これを受けて、パリ協定は実施の段階に移行しました。
ところで、パリ協定には、各国の取り組みをどんどん強化していくために、パリ協定の目標に対して世界全体で取り組みがどれだけ進んだか進捗確認をするグローバル・ストックテイクというしくみがあります。このグローバル・ストックテイクが2021年から行われ、2023年に成果がまとめられました。その中には、2021年のCOP26で採択された「石炭火発からの段階的削減宣言」を化石燃料全体に拡大した「化石燃料からの決別宣言」も盛り込まれています。
こうした流れを受けて開催されたCOP29の結果を簡単にまとめると、「新たな気候資金目標への合意」については、2035年までに年間3,000億ドルの動員が採択された一方、2023年のグローバル・ストックテイクの結果のフォローアップを通じての緩和対策強化は合意に至りませんでした。また、積み残されていた6条の詳細ルールは合意されました。
気候資金交渉の結果
それでは、ここからCOP29の主要議題だった気候資金について解説します。
そもそも先進国から途上国への資金供与は、2009年のCOP15で最初の資金目標がつくられたことに始まります。それは、2020年までに公的資金と民間資金を合わせて年間1,000億ドルを、先進国から途上国に動員するという目標でした。この資金目標は2020年までの予定でしたが、2015年にパリ協定が採択されたときに2025年まで継続することになり、2025年以降の新しい目標については、2025年より前に決めることになりました。つまり、2024年に開催されるCOP29が、新しい資金目標を議論する場になったわけです。
ところが、先進国は、自ら設定した期限までに、この資金目標を達成することができませんでした。2020年時点の気候資金の供与・動員額は833億ドルであり、1,000億ドルという目標を上回る1,159億ドルに達したのは、2年後の2022年のことでした。そのため途上国は、先進国が資金を提供するからいっしょに削減しようと約束したのに、その約束を守らなかったのだから、今度こそしっかりコミットするよう求めていました。
参考までに、COPの要請で設立された「ハイレベル独立専門家グループ」は、パリ協定の目標を達成するためには、中国を除く途上国のニーズとして、官民合わせた国際的な資金の支援額が2030年までに少なくとも年間1兆ドル、2035年までに年間1.3兆ドルが必要だと提言していました。
それでは、各国、あるいは各交渉グループは、どんなスタンスで会議に臨んだのかというと、先進国と途上国では、立場が大きく異なっていました。
先進国のスタンスは、これからは政府が出す公的資金より民間投資が重要になるのだから、民間資金を主体にすべきであり、単年度会計という制約がある政府が出すのは難しいというものでした。これに対して途上国は、金額・規模ともに、先進国政府が出す公的資金の割合を重視していました。
なぜ公的資金を重視するかというと、これからますます気候変動の影響に対応する適応対策、そして被害が出た後の「損失と損害」対策が必要になっていくからです。温室効果ガスを削減する緩和には、省エネであれば燃料費が軽減される、再エネであれば売れるというリターンがあるため、民間投資がしやすいという性質があります。これに対して、洪水の被害に備える適応や、洪水が起きてから被災者を救う「損失と損害」対策に資金を出したからといって、リターンがあるわけではありません。しかし、今後ますます重要度が高まるこの分野に対して、きちんと先進国の政府から無償資金を出してほしいというのが途上国のスタンスでした。
また、途上国の中でも、特に気候変動に脆弱な小島嶼国連合や後発開発途上国のグループは、気候資金の使途に、適応や「損失と損害」への特別枠や、気候変動に脆弱な国々への特別枠を設けるよう求めていました。
論点と結果
こうした先進国と途上国の立場の違いから、交渉は難航しました。最終的に、何が決まったかというと、2035年までに先進国が主導して、公的資金と民間資金を合わせて年間3,000億ドルを途上国のために動員するということが決まりました。
先進国では、中国や韓国、ブラジルなどのように経済発展している国々は資金を提供する側に回ることを希望していましたが、あくまでも自主的な拠出ということになりました。
この3,000億ドルという金額をどう評価すべきかについては、意見が分かれます。
日本政府に聞けば、たぶん大きな成果だというでしょう。これまでより増額されたうえ、円安の影響で大きな金額になるからです。
これに対して、先進国がグリーン気候基金など既存の基金に拠出を約束している金額や、二国間で約束している金額を足し合わせると2030年には2,000億ドルになるので、2035年に3,000億ドルという金額は既存の努力の延長線上で達成可能であり、大きな前進を意味しないという評価もあります。さらに、仮にインフレ率を3%と仮定すると、3,000億ドルの価値は2,170億ドルほどにすぎないという試算もあります。
さらに、国連の常設資金委員会によれば、2021年から2022年の平均で、化石燃料の補助金として年間1.1兆ドルが支払われています。気候変動を引き起こす化石燃料にこれだけの資金が投入されているのに、途上国への支援には3,000億ドルしか出せないという見方もあるなど、2035年までに年間3,000億ドルは低いという評価が大勢を占めています。
それがなぜ問題なのかというと、世界全体の削減努力にマイナスに働く可能性があるからです。
多くの途上国は各国の削減目標において、先進国からこれだけ資金支援があればこれだけ削減努力をするという目標を立てており、その合計は年間4,550〜5,840億ドルと示されています。年間3,000億ドルという目標は、この途上国のニーズを下回るため、なんとかして増額しなければ、世界全体の削減につながりません。
この状況を改善していくために、「1.3兆ドルに向けたバクーからベレンへのロードマップ」が設定されましたが、実際には2回程度しか会議を開催できないことから、達成はかなり厳しいと言わざるを得ません。
最後に、気候変動を引き起こした責任がある日本をはじめとする先進国は、リーダーシップを発揮してしっかり途上国を支えつつ、ともに世界全体で削減をめざすべきであるということも忘れてはいけない論点だと考えます。
COP29報告:緩和の強化と日本のNDC案
WWFジャパン専門ディレクター(環境・エネルギー) 小西雅子
野心的な2035年の削減目標に向けた機運の醸成
COP29における緩和、すなわち削減対策の強化は、前年のCOP28で採択された成果を再認識し、さらに進めていけるかどうかが課題でした。
パリ協定では、各国は5年ごとに行う世界全体の進捗確認、グローバル・ストックテイクを参照して次のNDCを出すことになっていますが、2023年のCOP28で、IPCCによる知見である「2035年に世界全体で60%削減(2019年比)が必要」であることを参照した上で、2025年2月までに2035年目標を出すことが決まりました。これを受けたCOP29では、化石燃料からの転換をはじめとするCOP28の成果を再認識し、さらに強化することができるかどうかが勝負でした。しかし、気候資金をめぐる交渉が終盤までもつれ込んだため、2025年のCOP30に先送りされてしまいました。
なぜ削減強化が重要かといえば、各国が国連に提出している2030年の削減目標では、パリ協定の目標である1.5度目標には遠く及ばず、資金支援など条件つきの対策を含むすべてのNDCを実施したとしても2.1〜2.8度、現状のままでは3.1度くらいまで気温上昇すると見込まれているからです。
また、なぜ5年ごとにNDCを提出するかといえば、パリ協定では、5年ごとに前の削減目標を上回る目標を提出することが義務だからです。そして、目標を策定する際に、世界全体の進捗評価をするしくみがグローバル・ストックテイクです。2023年のCOP28では、このグローバル・ストックテイクの成果として、世界全体で2035年までに2019年比で60%削減が必要と言及され、各国が次の削減目標を含むNDCの提出にあたっては、どのようにこの成果を考慮したかを説明することが必要だと明記されました。
ところが、COP29では、気候資金に関する交渉が激化し、会期を延長してようやく合意したことと引き換えに、削減強化については採択されず、決まらなかった議題は次の会合に先送りされるという気候変動枠組条約の手続規則案のルール16の適用となって 、COP30に持ち越されることになりました。
それでは、緩和強化の成果はなかったのかといえば、そうではありません。
議決こそ先送りされましたが、「緩和作業計画」の中にエネルギー供給部門の脱炭素化をはじめ具体的な内容を含む報告書にまとめられていますので、ぜひご覧いただければと思います。
そして、COP28の決定どおり、2025年2月に2035年目標を提出することは予定どおり行われます。その際には、「2035年までにGHG排出量を2019年比で60%削減が必要」というグローバル・ストックテイクの結果をどのように考慮したのか説明が求められます。各国は自主的に削減目標を決定しますが、必要な削減水準を考慮したレベルにしなければならないという、非常に重要な決定が2023年のCOP28で行われているんですね。
また、なぜ2025年2月までに2035年目標を提出するかといえば、各国が自主的に削減目標を決めるパリ協定においては、各国に最も野心的な目標を掲げてもらうため、COPより9〜12か月前に素案を提出し、その素案を各国でレビューした後、COP30までに最終決定することになっているからです。
日本の2035年目標は?
日本も環境省と経産省のネットゼロ合同部会において、次期NDCの議論が粛々と進んでいます。11月25日には突然、2035年のNDC素案が公表されました。2013年比で60%削減というその内容は、10月15日に経団連が発表した提言とほぼ同じでした。
政府は、IPCCが示す幅のあるシナリオの範囲内に入っているため、1.5度目標の排出経路に沿っていると説明していますが、IPCCの2019年比60%削減を日本の2013年比に換算すると66%削減になりますから、政府案の2013年比60%削減では世界平均を下回ることになります。
CO2は非常に安定したガスなので、一度排出されると、海洋か生態系に吸収されない限り大気中に累積していきます。その累積排出量に応じて気温が上昇していきますので、これから排出できる量には限りがあります。
WWFジャパンの試算では、政府案の2035年に2013年比60%削減のシナリオの場合、2050年までの排出量は、2013年比66%削減の場合に比べて日本の約1年分の排出量を多く排出してしまいます。
先進国として世界平均の削減率を下回るだけでなく、世界平均よりも多くのカーボン・バジェットを使うことになりますので、2025年2月からCOP30までに行われる国際的なレビューにおいて、先進国にふさわしい1.5度目標に整合したものではないという評価を受けることになると思われます。
また、素案を出すにあたって、独立系シンクタンクのシナリオ提案が参照されなかったことも残念といわざるを得ません。WWFジャパンもシステム技術研究所に委託して2035年削減目標の提言を出していますが、自然エネルギー財団、Climate Integrateなどの独立系シンクタンクなどがシナリオを発表しています。その削減率を見ると、WWFジャパンが最も低い68%で、他の団体の数字はどこも70%を超えています。
産業界でも、脱炭素社会の早期実現に取り組む252社が加盟する日本気候リーダーズパートナーシップ(JCLP)は75%削減が可能だとし、気候変動イニシアチブ(JCI)も少なくとも66%削減を求めています。また、日本はパリ協定に沿った目標と行動計画を持つ企業を認定するSBT認定企業数が世界で最も多いことからも、脱炭素に積極的な産業を後押しする削減目標こそが求められています。
パリ協定6条が最終合意
最後に、市場メカニズムに関する6条について解説します。6条は今回で最終合意されました。
パリ協定6条とは、途上国でプロジェクトを実施し、資金を出した先進国、あるいは企業がそのクレジットを移転して削減目標の達成に使うという制度で、二国間で行う6条2項、国連主導による6条4項、そして市場を介さない6条8項の3つのメカニズムがあります。
特に、大気中から二酸化炭素を除去する6条4項の「除去クレジット」は、初日に合意されました。これは、6条4項監督機関が議論を重ねた末にまとめた提言を、そのままCOPが採択したからです。現在の民間のクレジット市場は玉石混交ですが、今回採択された内容が除去クレジットのスタンダードになっていくと思われます。
日本が推進しているJCMのような二国間の6条2項も決まりました。それぞれ 2 国間で決めるので、国連がどのようなガイダンスを作るかが長く議論されてきましたが、6条4項よりは緩いものの、6条2項の基準も決まっています。
また、「資金COP」にとって重要な内容として、6条は途上国の適応のために資金が提供される資金メカニズムの役割もあります。特に6条4項は、クレジットが移転されるときに自動的に5%が適応基金に入るしくみがあるため、資金メカニズムとしての機能を持ち合わせています。
市場メカニズムはオフセットとして使われるため、地球全体で見ればゼロになるので、パリ協定ではクレジット取引をする際に「グローバルな排出削減の全体的緩和」(OMGE)として2%をキャンセルするという新しいしくみが導入されました。
ただし、OMGEは6条4項だけに適用され、6条2項では推奨にすぎません。こうした資金メカニズムという点を含めて、クレジットの価値が評価されることになります。これから6条2項クレジットと6条4項クレジットが出回ってきますので、企業のみなさんはこうした点を考慮した上で、カーボンマーケットへの参入をご検討いただければと思います。
非国家アクターの動向
WWFジャパン気候・エネルギーグループ 田中健
私からは、COP29における非国家アクターの動向について報告させていただきます。
まず非国家アクターのネットゼロ宣言が増える中で、国連を中心にその内容を追求する動きが広がっていること、次にアメリカの非国家アクターがCOP29でどんな活動していたのかをご紹介し、最後にCOP29からの示唆をまとめたいと思います。
インテグリティのあるネットゼロの追求
COPにおいて非国家アクターが重要なステークホルダーに位置づけられたのは、COP20で「リマ・パリ行動アジェンダ」ができてからです。その後、非国家アクターの世界的な行動を主導する役割を担う「ハイレベル気候行動チャンピオン」が指名され、彼らの方針として「世界気候行動のためのマラケシュパートナーシップ」ができるといった取り組みが進む中で、特にこの数年でネットゼロを宣言する企業や自治体が非常に増えてきました。
同時に、その中身は本当に1.5度目標に整合しているのか、グリーンウォッシュではないのかという懸念が出てきました。そこで、2022年に開催されたCOP27で、国連ハイレベル専門家グループが「非国家アクターのネットゼロ宣言のあり方に関する10の提言」を発表。ネットゼロの国際基準として着実に浸透してきています。次いで2023年のCOP28では、これを単なる提言書で終わらせず、提言書の実践に資する政策や規制を加速することを目的に「ネットゼロ政策に関するタスクフォース」が立ち上がりました。
この流れを受けて、2024年のCOP29では2つの報告書が発表されました。
一つ目はこのタスクフォースが発表したG20 諸国のネットゼロ政策がCOP27で発表された提言書の項目に照らしてどれくらい進捗しているのかを評価した報告書です。もう一つは提言書が出てから2年で非国家アクターの取り組みがどれだけ進捗し、どれだけ提言と整合しているかを評価した報告書です。今日は、この2つの報告書をご紹介します。
まず、ネットゼロ宣言の進捗の報告書は、COP27で提言書を発表したハイレベル専門家グループの議長、カナダの元気候変動担当大臣のキャサリン・マッケナさんが中心になって10 の提言の項目ごとに進捗を評価したものです。
そのポイントを要約すると、ネットゼロ目標を持つ非国家アクターの数は増えており、移行計画の策定数も増えていることはポジティブな進捗である一方、提言書の10の基準に整合しているものはわずかにすぎず、特にCOP28で合意された化石燃料の段階的廃止に関する自主的な誓約は著しく不足していると指摘されています。
また、ロビー活動とアドボカシー活動をしっかりと1.5度目標に整合させるという提言の進捗については、非営利のシンクタンクであるInfluenceMapが発表した世界の企業の気候変動に関するアドボカシー活動を分析・評価したレポートを引用し、先導的にポジティブなアドボカシー活動を行っているリーダー企業に選定された企業は2023年の27社から41社に増えたと評価しています。この中に日本企業が数社も入っていることは、日本にとって前向きなポイントと言えます。
さらに、個々の企業が行うアドボカシーだけではなくて、非国家アクターがいっしょになって声を上げる活動も好事例として紹介されています。たとえば、グローバルな事例としてはWe Mean Business Coalitionという企業ネットワークが脱化石燃料を求めるFossil to Clean キャンペーンが、日本の事例としては気候変動イニシアティブ(JCI)が野心的なNDCを政府に求める声明が好事例として紹介されています。個々の企業が声を上げることはもちろん、多くの企業などが一緒になって共同で声を上げる活動に参加することも高く評価されることがわかります。
次に、もう一つの報告書、冒頭で紹介した「ネットゼロ政策に関するタスクフォース」が発表したG20諸国のネットゼロの政策調査報告書を紹介します。
これはG20諸国における企業や金融など非国家アクターのネットゼロ対策を後押しする政策に焦点を当てて調査をしたものです。その結果をご紹介しますと、ポジティブな点としてはG20諸国すべてに非国家アクターのネットゼロ移行を支援する政策があり、その数は2020年以降3倍に増加している点です。一方で、提言書の中身に整合する政策はまだまだ不十分であると指摘されています。この結果を受けて、タスクフォースは(スライドに示した)重点4分野ついてさらに取り組みを進め、その結果をCOP30で報告するとしています。
ゆるがない非国家アクターのコミットメント
次に、現地で非常に大きな存在感を発揮していたアメリカの非国家アクターの活動をご紹介します。
アメリカには、America is All Inという5000以上の非国家アクターが参加する全米規模のネットワークがあります。2017年に設立されたこのネットワークは、アメリカ大統領選の直後の2024年11月6日に、US Climate Allianceという州知事の同盟と、Climate Mayersという市長の同盟とともに、「アメリカの非国家アクターはたゆむことなく前進する、私たちは決して後戻りしない」という共同声明を出しました。
これはCOP29の直前のメッセージですが、COPの期間中も力強く発信していました。たとえば、America is All Inの共同代表であり、US Climate Allianceのメンバーでもあるワシントン州のインスリー知事が、「大統領が変わっても、州の気候変動へのコミットメントを止めることも、減速することも、妨げることもない。私たちはしっかりと対策を進めるので、いっしょに気候変動対策を続けよう」と述べていました。
また、アメリカの食品企業、マースの役員は、「私たちがサステナビリティ計画を進める間に政権は何度も変わる。政府がいようといまいと、私たちはやるし、やれる。もっと大事なことは、自分たちだけでは行動できない企業を、私たちマースがしっかり支援することだ」と、非常に力強いメッセージを発信していました。
さらに、COPの終盤では、 Apple副社長のリサ・ジャクソン氏を含む America is All Inの共同代表が各国首脳に対して、「非国家アクターは揺るがない。私たちはあなた方とともにいるので、しっかりと1.5度目標に沿った2035年目標を設定するようリーダーシップを発揮してほしい」という声明を出していました。
このように、アメリカの非国家アクターは、COP開幕前から終盤にかけてゆるぎないコミットメントを発信していました。アメリカ大統領選の影響を心配する声も聞かれますが、現地にいないと感じられない熱気をお伝えしたいと思い、ご紹介させていただきました。
COP29からの示唆
最後に、まとめとして2つお伝えしたいと思います。
一つ目は、気候変動の目標や移行計画、情報開示などに取り組むにあたっては、国際基準に沿って進めることの重要性です。COPの動向からも国際的な政策や基準は1.5度目標に整合する方向に進んでいくことが見込まれますので、それを先回りして、しっかりと国際基準に沿った取り組みを進めていくことが求められます。
また、アドボカシー活動においては、 NGOでなくとも、企業や地方政府などの非国家アクターが声を上げることが主流化し、もはや特別なことではなくなっているうえ、その内容も幅広くなってきています。こうした活動に参加することが企業や自治体の評価の対象になっていますので、排出削減の取り組みに加えて、声を上げる活動への積極的な参加も取り入れていただきたいと思います。
開催概要
日時:2024年12月16日(月) 15:00〜16:30
場所:Zoomウェビナー
対象者:企業関係者を中心に関心のある方々
参加費:無料
参加者数:479人
イベント案内:https://www.wwf.or.jp/event/organize/5829.html
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- ウエビナー開催報告:企業が知っておきたい国連による「ネットゼロの定義提案書」(COP27で発表) ~業界団体のロビー活動やクレジットにご注意~